労働基準法では、事業主に対して『労働者名簿』を
作成することを義務づけています。
労働者名簿とは、従業員の氏名や住所、生年月日などを
事業所ごとにまとめた名簿のことをいいます。
『賃金台帳』や『出勤簿』と並ぶ『法定三帳簿』と
呼ばれているもので、法律上、整備や管理が義務づけ
られている以外に、人事・労務管理上、非常に重要な
書類となります。
今回は、労働者名簿を正しく管理するため、作成や保管に関するルールを説明します。
『労働者名簿』に記載する対象者とは
労働基準法第107条では、使用者は事業所ごとに『労働者名簿』を作成・管理しなければならないと
定められています。
正社員や契約社員、パートやアルバイトを問わず、賃金を支払っている全ての従業員の情報を
記載しなければいけません。
これは法人だけでなく個人事業主でも同様で、一人でも従業員を雇用している際には労働者名簿の作成と
管理の義務が発生します。
ただし、以下に関しては、労働者名簿の作成・管理の義務はありません。
●派遣労働者(派遣元が賃金を支払っているため)
●会社の代表者や役員(法律上の労働者にあたらないため)
●日雇い労働者(法律上、入れ替わりが激しく名簿作成の意味をなさないと定義されているため)
基本的に、労働者名簿は適切な人事や労務管理を行うためのもので、
どこかに提出しなければいけないものではありませんが、作成・管理が滞りなく行われているかどうかは、
労働基準監督署の監督対象になります。
労働者名簿を作成していなかったり、内容に不備があったり、さらには適切な管理が行われていなかった場合などは、
労働基準監督署から是正勧告を受けることになりますし、悪質な場合には30万円以下の罰金が科せられることも
あるので、注意が必要です。
『労働者名簿』に記載する内容
労働者名簿は、新しく人を雇用する際に労働者一人ずつについて作成していきます。
基本的には、以下の必要記載事項が全て記載されていれば、形式などは自由とされています。
厚生労働省のホームページではテンプレートが用意されているので、それを利用してもよいでしょう。
【必要記載事項】
●労働者氏名
●生年月日
●性別
●住所
●雇入れ年月日
●従事する業務の種類
●社内での履歴
●退職年月日、または死亡年月日とその理由・原因
また、必須の記載事項ではありませんが、従業員の電話番号や緊急連絡先、健康保険、厚生年金、雇用保険について
なども記載しておくと、人事・労務管理がしやすくなるでしょう。
なお、異動や昇進、引っ越しなどがあると従業員の情報は変わります。
情報に何らかの変更が生じた場合は、滞りなく労働者名簿の内容も修正していかなければなりません。
保管⽅法に関しては特に定めはなく、近年はパソコンなどで作成し、データとして保管している企業も少なくありません。
修正する場合、データであれば書き換えるだけで済みますが、紙で労働者名簿を作成している場合には、
修正箇所に二重線を引いて、訂正印を押してから、新しい情報を書き加えるようにしましょう。
『労働者名簿』は3年間保管すること
労働者名簿は、法律により3年間の保管義務が課せられています。
これは従業員の退職や解雇、または死亡日から3年間となるため、従業員が辞めてしまったからといって、
その従業員の労働者名簿を廃棄してはいけません。
従業員の数が多くて、もし、辞めた従業員と在籍している従業員の情報を混同してしまうのであれば、
退職者と在職者とで労働者名簿を分けて管理するという方法も有効です。
なお、労働者名簿は個人情報保護法の対象になるものです。
労働者名簿の作成や更新のために従業員の個人情報を得る際には、対象となる従業員への利用目的の明示が必要になります。
そのため、就業規則などに社会保険手続き、年末調整などの利用目的を記載しておく必要があります。
また、保存期間内の廃棄や紛失は注意勧告や命令の対象となり、悪質な場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
に処せられる可能性もあります。
労働者名簿は人事や労務にも使う名簿であるうえに、全従業員の個人情報が詰まったとても大切なものです。
作成・更新・管理を徹底し、常に不備のないようにしておきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。
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個人事業主が従業員を雇用した場合、その従業員に支払った給与は
『給料賃金』として経費計上することができます。
ただし、給料を支払う相手が自分の家族である場合は、原則として
経費計上ができません。
しかし、これには例外もあり、家族を『事業専従者』にする場合は、
家族の給与を経費で落とすことが可能になります。
今回は、家族を専業従事者にするための条件や、手続きの方法などをご紹介します。
原則、家族への給与は経費計上できない
個人事業主への所得税は累進課税制といって、所得金額が多ければ多いほど、税率がアップしていきます。
現在、年間の課税される所得金額が195万円以下なら所得税率は5%、195万円を超え330万円以下なら10%、
330万円を超え695万円以下なら20%といった具合に増えていき、年間で4,000万円を超える所得があると、
その税率は45%にもなります。
一方で、個人事業主は事業に関わる支出を必要経費として計上することによって、所得金額を
下げることができます。
たとえば、事業に使用するインターネット料金などは『通信費』、顧客との飲食代などは『接待交際費』として
必要経費として計上できます。
そして、従業員などを雇用した場合も、その給与を『給料賃金』として計上できるのですが、
家族への給与は税法上で制限がかけられています。
家族に支払っている給与は、税金逃れなどを防止する観点から、原則として必要経費として計上することができないのです。
ここでいう家族の範囲とは、『生計を一にする親族』のことで、
民法上は血のつながりのある6親等内の血族、配偶者、婚姻によって親族となった3親等内の姻族のことを指します。
たとえば、自分の従兄弟の子どもは5親等なので範囲に含まれますし、自分の配偶者の甥姪の配偶者は親族等に含まれない
ので範囲に含まれません。
また、生計を一にするとは、日常生活を送るうえでの家計を共有していることで、
たとえば、大学生の子どもに仕送りをしている場合や、親に生活費を援助している場合なども、
この条件に当てはまります。
家族を『事業専従者』にすれば経費にできる
生計を一にする親族への給与は基本的には経費計上できませんが、家族を『事業専従者』にすれば、
控除を受けられる又は給与とすることができるという例外があります。
確定申告の際に白色申告にするか、青色申告にするかで条件は変わってくるので、それぞれ確認していきましょう。
(1)白色申告の場合
対象となる家族が、その年の12月31日時点で15歳以上であり、その年を通じて6カ月を超える期間、
個人事業主が営む事業に従事している必要があります。
この条件を満たしており、確定申告書の所定の欄に適用金額などを記載することで、
『事業専従者控除』が摘要され、経費として給与を計上できるようになります。
ただし、白色申告の場合は限度額が決められており、下記の2つのどちらか、低い金額が摘要されます。
●配偶者は86万円。その他の親族は1人50万円
●控除をする前の事業所得等の金額を『専従者の数+1』で割った金額
(2)青色申告の場合
青色申告の場合も、条件は白色申告の場合と同じですが、家族への給与は『青色事業専従者給与』となり、
限度額は税務署へ届けた金額の範囲内となります。
たとえば、500万円で届け出ていれば、家族への給与は『青色事業専従者給与』として500万円まで
経費として計上できることになります。
ただし、ほかの従業員の給与や、同業他社の給与と比較して、著しく金額に乖離があった場合には、
青色事業専従者給与とは認められないので注意しましょう。
また、青色事業専従者給与として家族への給与を経費計上するには、青色事業専従者給与を
算入しようとする年の3月15日までに納税地の税務署長へ『青色事業専従者給与に関する届出書』を
提出しておく必要があります。
届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること、
労働の対価として相当であると認められる金額であることも必要です。
なお、過大とされる部分は必要経費とはなりません。
このように、家族の給与を必要経費として計上できる事業専従者控除や青色事業専従者給与について注意したいのは、
確定申告の際に、扶養者控除や配偶者控除などと併用できないことです。
せっかく家族への給与を必要経費として計上できたのに、実は配偶者控除などのほうが控除額が大きかった、
ということにもなりかねません。
どの控除が自分にとって一番節税になるのかをよく考えたうえで、制度を活用していきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、企業にとっては厳しい状況です。
経営を維持するために、事業の縮小や従業員の解雇といった、最終手段をとらざるを
得ない企業もあるでしょう。
多くの人が、賃金によって生活費をまかない、家族を養っているような状況に
おいて、解雇は一大事です。
こうした労働者の受け入れ先を少しでも広げるため、厚生労働省は、
早期の再就職を後押しする『労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)』を用意しています。
今回は、このコースについて詳しく紹介します。
『労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)』
【コースの概要】
離職を余儀なくされた労働者の早期再就職や定着を支援することを目的とし、こうした方を雇い入れる事業主に
対して支給される助成金です。
『早期雇入れ支援』と『人材育成支援』(追加助成)の2つの区分があり、ここでは『早期雇入れ支援』について
解説していきます。
【主な受給条件】
以下のすべての要件に該当している必要があります。
(1)支給対象者(次項参照)を離職日の翌日から3カ月以内に、期間の定めのない労働者として雇い入れること
(2)支給対象者を、一般被保険者または高年齢被保険者かつ正規の労働者として雇い入れること
(3)(2)の支給基準日経過後、支給決定日までに支給対象者を事業主都合で解雇等(退職勧奨を含む)していないこと
【支給対象者】
以下のすべてに該当する労働者が対象です。
(1)申請事業主に雇い入れられる直前の離職の際に、『再就職援助計画』または『求職活動支援書』の対象者であったこと
(2)雇用されていた事業主の事業所へ復帰の見込みがないこと
※再就職援助計画:企業の経済的事情により、1カ月以内に30人以上の労働者が離職を余儀なくされる場合に、
企業がハローワークに提出するもの。
※求職活動支援書:45歳以上65歳未満の労働者が、事業主都合の解雇等に遭ったときや、
社内の高齢者継続雇用制度の基準に満たなかったために離職せざるを得なくなった場合に、
職務履歴や職業能力などを記載して作成するもの。
【支給額】
支給対象者1人につき、以下の額が支給されます。
ただし、2021年1月1日以降に雇い入れられた支給対象者については、( )内の額となります。
なお、この助成金には『通常助成』のほか、一定の要件を満たす事業所等から離職した人を
雇い入れた場合に支給される『優遇助成』、
さらに雇入れ時の賃金より2%以上上昇させた場合に支給される『優遇助成(賃金上昇区分)』
の3つの区分があります。
優遇助成の2区分では、『雇入れ日から6カ月後』と『さらに6カ月後』の2回分支給基準日が設けられており、
それぞれ申請を行います。
以下が一覧となります。
●第1回申請分
(1)通常助成……30万円(30万円)
(2)優遇助成……40万円(40万円)
(3)優遇助成(賃金上昇区分)……40万円(40万円)
●第2回申請分
(1)通常助成……なし(なし)
(2)優遇助成……40万円(なし)
(3)優遇助成(賃金上昇区分)……60万円(20万円)
いずれの区分も、1年度1事業所あたり500人分が上限となります。
大量採用にも対応しているため、人手不足に悩む企業は、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
なお、本助成金にはこれ以外にも細かい支給要件がございますので、詳細は厚生労働省ホームページをご確認ください。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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所得税額控除や試験研究費の総額に係る税額控除など企業を対象とした
税額控除制度はさまざまなものがあります。
その中の一つ『所得拡大促進税制』は、個人所得の拡大による経済成長の促進の
ために創設された制度で、前年度よりも従業員への給与をアップさせた場合に、
その増加額の一部を法人税から控除することができます。
平成30年度税制改正では、その控除率が拡充されるなどの措置が行われました。
そこで今回は、適用を受けるための条件や、控除率の計算方法などを解説していきます。
従業員の給与アップで法人税から一定額を控除
『所得拡大促進税制』は、青色申告書を提出している中小企業者等が利用できる税制で、
一定の用件を満たしたうえで従業員への給与支給額を前年度よりも増加させた場合、
その増加額の一部を法人税から控除できるというものです。
2018年4月1日から2021年3月31日までに開始される事業年度が対象となっています。
※なお、この制度は個人事業主にも適用されますが(個人事業主の場合は2019年分からを対象とし、所得税から一定額を控除)、
ここでは中小企業者について解説していきます。
条件に当てはまる企業はぜひとも利用したいところですが、制度の適用にはさまざまな計算や手続きが必要なため、
制度の詳細を理解する必要があります。
まず、この制度における従業員とは、継続雇用者を指します。
継続雇用者とは、下記のすべてを満たす従業員のことで、たとえば、前事業年度に中途入社した従業員や、
適用年度に中途退社した従業員は含まれないので注意してください。
●前事業年度および適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
●前事業年度および適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
●前事業年度および適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める
継続雇用制度の対象となっていない
この継続雇用者への給与支給額が前年度比で1.5%以上増加した場合には、給与総額の前年度からの
増加額の15%を控除することができます。
また、ここでの給与総額は、継続雇用者に限定しない、全ての国内従業員に支払った給与等の総額のことで、
役員等に支払った給与などは除きます。
一定の要件を満たせば控除の上乗せも
さらに、控除額の『上乗せ措置』も用意されており、継続雇用者への給与支給額が前年度比で2.5%以上増加し、
かつ一定の要件を満たす場合には、給与総額の前年度からの増加額の25%を控除することができます。
一定の要件とは以下の2つであり、このいずれかを満たす必要があります。
(1)『教育訓練費』が前年度比で10%以上増加していること
教育訓練費とは、自社の職務に必要な技術や知識を従業員に習得させるために支出する費用のことで、
対象の範囲となるのは、外部の講師を招いたり、教育のために設備を整えたりといった
企業が自ら教育訓練を行うための費用と、外部の教育機関などに委託して教育を行う場合の費用などになります。
(2)中小企業等経営強化法に基づく『経営力向上計画の認定』を受けており、経営力向上が確実に行われていること
経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づき、事業者がコスト管理などのマネジメントの向上や設備投資など、
自社の経営力を向上するために実施する計画のことで、中小企業庁のホームページから申請様式をダウンロードできます。
申請までの流れとしては、まず、適用年度の終了日までに経営力向上計画を作成・申請し、認定を受けます。
適用年度の終了後には、経営力向上が行われたことを証明するため、経営力向上報告書を作成し、経済産業省に提出。
認定を受けた計画書と認定書(いずれも写し)、そして経営力向上報告書(写し)を税務申告書に添付して提出することで、
上乗せ措置を利用することができます。
このように上乗せ措置にはさまざまな手続きが必要ですが、控除額が15%から25%へと上がるのは大きなメリットです。
税額控除の計算方法を確認
では、具体的にどのような計算になるのかを確認していきましょう。
たとえば、2019年度の全ての国内雇用者(全て継続雇用者とした場合)に支払った給与等の総額が1億円だったとします。
そして次の年の2020年度には、給与等をアップさせ、総額で1億1,000万円を支払いました。
前年比で10%も支給額が増加しており、所得拡大促進税制の条件は満たしています。
給与額は1,000万円分増加しているので、この増加額に15%を乗算し、控除額は150万円となります。
ただし、調整前法人税額の20%が上限となります。
つまり、前年比で従業員の給与を1,000万円増加させると、その15%にあたる150万円が法人税から控除できるというわけです。(調整前法人税額の20%が上限)
さらに、前述した上乗せ要件(1)または(2)を満たしていれば、25%の控除を受けられ、上記の例では250万円の
控除となります。(調整前法人税額の20%が上限)
基本的には通常の所得拡大促進税制を受けるにも、上乗せ措置を受けるにも、さまざまな集計作業が必要になってきますし、
書類なども用意する必要があります。
しかし、控除の適用を受けることができれば、会社として大きなメリットが得られます。
迷った場合は専門家などとも相談しながら、控除を受けるための作業を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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税務調査の際、調査官がチェックするものの一つに『帳簿』があります。
帳簿には、日付や金額欄などのほかに必ず『摘要』という項目があり、
調査官はこの摘要欄を重点的に調べます。
通常、帳簿などの作成を外注していなければ、事業者や会計担当が
帳簿を管理することになりますが、摘要欄に何を記入したらよいのかを
よく理解できていない人もいるでしょう。
しかし、摘要欄が空欄のままだと、調査官から指摘を受け、
税務調査が長引いてしまう可能性もあります。
そこで今回は、摘要欄の基礎知識をご説明します。
帳簿の摘要欄は何のためにある?
帳簿は、取引の内容や資金の動きに関することを記載したもので、会社を経営していくうえでは必要不可欠なものです。
帳簿には、すべての取引の仕訳を日付順に記載する『仕訳帳』、仕訳帳の内容を勘定科目ごとに記載する『総勘定元帳』、
現金のやりとりを記載する『現金出納帳』など、さまざまな種類があります。
現金出納帳であれば、日付、科目、収入金額、支出金額、差引残高、そして『摘要』の欄があるように、
どんな種類の帳簿でも、摘要欄には比較的広めのスペースが割かれています。
しかし、何を書いてよいのか分からないために、この摘要欄を空欄のままにしているケースも少なくありません。
この摘要欄には、日付、科目、金額など、通常記入する項目だけではわからない、より詳細な情報を記入する必要が
あります。
詳細な情報とは、つまり取引の具体的な内容や、取引相手の氏名・名称などのことです。
たとえば、取引先の相手と飲食して、3万円を使用したとします。
現金出納帳には、科目欄に接待交際費と記入し、支出金額の欄に3万円と記入しますが、
これだけでは、誰と何をして3万円を使ったのかわかりません。
そこで摘要欄には、飲食接待である旨と、相手の会社や氏名・肩書、そして利用した店名についても記入します。
そうすると、いつ誰とどこで何をしたかが、誰が見ても一目瞭然になり、帳簿の内容がより明瞭になります。
摘要欄はそのためにあるのです。
摘要欄を空欄にすると税務調査で困ることに
会計担当にしてみれば、各取引の具体的な内容を把握し、摘要欄に記入するのは手間ではあります。
しかし一方で、それぞれ取引内容が具体化できるため、会社のお金の流れがよりクリアになる,
というメリットもあります。
また、税法上でも、青色申告法人に対し、組織的な帳簿を備え、複式簿記の原則に従って
整然かつ明瞭に記帳しなければならないとして、それぞれの取引に対して取引相手の名称や
その内容を記入するように求めており、摘要欄への記入は税法を守るうえでも必要な行為だといえます。
さらに、消費税の申告においても、仕入税額控除の摘要要件として摘要欄への記載事項が定められていますので、
注意が必要です。
そして、摘要欄への記入は、何よりも税務調査の際に効力を発揮します。
規模や経営状態にもよりますが、税務調査を受けるのは数年に1回程度であることがほとんどです。
その際、調査官から帳簿の提出を求められますが、帳簿の摘要欄が空欄のままだと、
それぞれの取引の内訳を問われることになります。
すぐに領収書や伝票などを提示し、具体的な内容を説明できればよいのですが、
取引の内容を忘れてしまっていて、曖昧な説明になってしまうことも考えられます。
こうなると調査官にずさんな帳簿の管理を行っているという印象を持たれてしまい、
調査が長引くこともありますし、追加の資料を求められる可能性もあります。
調査官に対して、各取引をはっきりと説明するためにも、摘要欄は必ず埋めるようにしておきましょう。
摘要欄を書くときのルールを決めておく
摘要欄は記入する形式が決まっていないため、自社で統一したルールを作っておきましょう。
アルファベットや数字は全角・半角のどちらにするのか、社名や店名は漢字・カタカナ・英語のどの表記にするのか、
取引先と内容はどちらを先にするのかなど、一定のルールを定めておきます。
表記がバラバラだと、そもそも見づらく、会計ソフトで入力している場合は、
特定のワードでソートすることもできませんし、検索にも苦労してしまいます。
摘要欄をきちんと記入するということは、健全で正しい経営をしていることを示すことでもあります。
帳簿を使用した経営分析も可能ですし、過去の取引から記入方法を参照することもできます。
そしてなにより、税務調査をスムーズに通過するためにも不可欠です。
日ごろから、帳簿の摘要欄には詳細を正しく記入する習慣をつけておくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2020年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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法人に課せられる税金のなかでも、特殊なのが『印紙税』です。
印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた『課税文書』に限られており、
郵便局や法務局などの指定を受けた場所で『収入印紙』を購入し、
課税文書に貼り付け、消印することで印紙税を納付したことになります。
この収入印紙は、購入代金を経理処理する際、納付するタイミングによって、
勘定科目が『租税公課』か『貯蔵品』に仕訳されます。
今回は、印紙税についての基礎知識を解説していきます。
20種類の課税文書と印紙税額とは
会社を設立して法人になると、法人税や法人事業税などさまざまな税金を納めることになります。
『印紙税』も、そのなかの一つです。
印紙税は印紙税法で定められた課税文書にかかる税金のことで、20種類の文書が指定されています。
経理として扱うことが多いのは、やはり領収書や、売上代金にかかる受取書、不動産などの契約書、
業務の請負に関する契約書などではないでしょうか。
印紙税はそれぞれの文書により金額が異なり、たとえば売上代金にかかる受取書であれば、
記載金額が5万円未満なら非課税で、5万円以上100万円以下の場合は200円の印紙税が発生します。
記載金額が大きくなれば印紙税額も増え、10億円を超えるものには20万円の印紙税が
課税されることになります。
また、会社設立のときに作成される定款の原本も課税文書の一つで、4万円の印紙税が発生します。
ほかにも、金銭または有価証券の寄託に関する契約書は一律200円、配当金領収証は3,000円以上のものに
200円など、それぞれ納付金額が定められています。
印紙税は収入印紙を購入し、課税文書に貼り付けて消印(その文書と印紙の彩紋にかけて判明に印紙を消す)
をすることで納めます。
必要なはずの課税文書に収入印紙を貼らないまま処理してしまった場合は、納付しなかった印紙税の額と
その2倍に相当する金額との合計額に当たる過怠税が徴収されるので注意が必要です。
また、貼り付けた印紙を所定の方法によって消さなかった場合には、消されていない印紙の額面金額と
同額の過怠税を徴収されることになっています。
保管時と使用時で異なる収入印紙の勘定科目
収入印紙の購入代金を経理処理する際には、収入印紙を購入してすぐに使用する場合と、
しばらく保管しておく場合とで、勘定科目が変わってきます。
収入印紙は、郵便局や法務局、役所などのほか、コンビニエンスストアやたばこ専売店、
酒店などでも取り扱っており、多くの場合は店先に『収入印紙販売』と表示されています。
ただし、コンビニなどでは購入できる収入印紙の種類が少ない場合もあるので、
購入する際は前もって確認しておきましょう。
収入印紙の購入代金は原則的に、消費税や固定資産税などと同じ『租税公課』として費用計上しますが、
これは購入してすぐに使用する場合に限ります。
一般的に、収入印紙は一定数をまとめて購入し、会社にストックしておくことが多いですが、
すぐに使わないものは、経理処理上、『貯蔵品』として計上します。
そして、『貯蔵品』として計上した収入印紙は、使用するタイミングで租税公課に振り替えることが
できます。
いつか使うからといって、ストック分の収入印紙まで『租税公課』として計上するのではなく、
すぐに使う予定のない分は『貯蔵品』として計上しておきましょう。
また、購入時には『租税公課』として計上しておき、決算時に未使用の収入印紙について
『貯蔵品』に振り替える方法もありますので、会社の使用状況によって経理方針を決めるとよいでしょう。
なお、収入印紙は郵便局や役所などで購入した場合は、消費税は課せられませんが、
金券ショップなどで購入すると、消費税が含まれている場合があります。
このときは、収入印紙自体の値段を『租税公課』として計上し、かかった消費税分を『仮払消費税』に区分します。
また、近年は契約書や領収書、受取書のデータ化が進んでいます。
課税対象はあくまで課税文書だけなので、電子契約の場合はこれに該当せず、収入印紙が不要になります。
国税庁も『注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を
電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、
課税文書を作成したことにはならないため、印紙税の課税原因は発生しないものと考える』
という見解を示しています。
小規模な取引では収入印紙の額も少額ですが、取引の規模が大きくなれば大きくなるほど、
その額もかさんでいきます。
収入印紙の勘定科目は使用するタイミングで異なることを念頭に置き、
取引の際は節税のために電子契約に切り替えるのもよいかもしれません。
※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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大企業に比べると、小規模企業の経営者や役員は
廃業や退職をした際、現役時代との収入面での落差が
大きい傾向にあります。
そこで、生活の安定や事業の再建に備えるために
設けられているのが、『小規模企業共済制度』です。
国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構
(以下、中小機構)が運営するこの制度は、“積立式の退職金制度”ともいえるもので、
掛金について所得控除を受けられるため節税効果があることが大きな特徴の一つです。
今回は、小規模企業の経営者なら知っておきたいこの制度についてご説明します。
小規模企業共済制度の節税効果とは
小規模企業共済は、毎月一定の額を積み立てることで、廃業や退職の際に『共済金』を
受け取れるという制度です。
中小機構によれば、2018年3月末時点で、全国で約138万人が将来に備えて加入しています。
毎月の掛金は1,000円から7万円までと幅広く、500円単位で自由に設定できます。
また、加入後も、掛金を増額・減額することができるほか、半年払い、年払い、前納も可能です。
そして、この毎月の掛金の全額を『小規模企業共済等掛金控除』として、
所得から控除することができるのが大きなメリットの一つとなっています。
たとえば、掛金を毎月7万円に設定した場合は、1年で84万円の控除を受けることができ、
高い節税効果が得られます。
小規模企業共済制度の加入資格は業種によって異なり、主な加入資格は以下のとおりです。
1.建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを
営んでいる場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主、または会社等の役員
2.商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営んでいる場合は、
常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主、または会社等の役員
3.事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が
20人以下の協業組合の役員
4.常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている
農事組合法人の役員
5.常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
6.上記1と2に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者
(個人事業主1人につき2人まで)
ただし、常時使用する従業員の数には、家族従業員、共同経営者(2人まで)は含まれません。
また、協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人などの直接営利目的ではない法人の役員や、
アパート経営等の事業を兼業している給与所得者なども加入することができません。
まずは加入資格があるかどうかを確認しておきましょう。
共済金を受け取れるほか、貸付制度もある
廃業や退職の際に受け取れる共済金は、加入者の立場や共済金の請求事由によって、
その金額が変わってきます。
たとえば、個人事業主で、請求事由が『個人事業の廃業』だった場合、
毎月1万円の掛金で20年納付していれば、278万6,400円の共済金を受け取ることができます。
また、法人の役員が、65歳以上で役員を退任したケースでは、
同じく毎月1万円の掛金で20年納付していれば、265万8,800円の共済金を受け取ることができます。
また、小規模企業共済制度の加入者は、共済金のほかに、掛金の範囲内で
事業資金の貸付制度を利用することもできます。
以下のように、用途に合わせた貸付制度が用意されています。
●一般貸付制度
掛金の範囲内で、納付月数に応じて納付金の7~9割(10万円以上2,000万円以内)の事業資金を
借り入れることができます。
●緊急経営安定貸付け
たとえば今年起きた新型コロナウイルスの例のように、経済環境の変化によって一時的に売上が
減少した場合には、掛金の範囲内で、掛金納付月数により掛金の7~9割(50万円以上1,000万円以内)
の事業資金を金利0.9%で借り入れることができます。
●傷病災害時貸付け
疾病または負傷により一定期間入院をした際、または災害等により被害を受けた際に、
事業資金を金利0.9%で借り入れることができます。
●事業承継貸付け
事業承継(事業用資産または株式等の取得)に要する資金を金利0.9%で借り入れることができます。
元本割れなどのデメリットもある
掛金の全額を所得控除にでき、共済金を受け取れ、さらに貸付制度も利用できるという、
メリットの多い小規模企業共済制度ですが、当然、デメリットもいくつかあります。
まず、掛金の納付開始から6カ月未満で廃業あるいは法人が解散した場合には、
共済金を受け取ることができません。
さらに、加入期間が20年未満の時点で任意解約してしまうと、共済金は掛金を下回り、
いわゆる元本割れの状態になってしまいます。
加入期間が20年を超えていても、途中で掛金を増減させていた場合で掛金区分ごとの
掛金納付月数が20年を下回ったときには、任意解約した際の共済金が掛金の合計を
下回ることがあるので注意しましょう。
そして、掛金は所得控除にできましたが、廃業や退職する際に受け取る共済金に関しては、
課税されます。
共済金の受け取り方法には、『一括』『分割』『一括と分割の併用』があり、
共済金を一括で受け取る場合には『退職所得』として、
分割で受け取る場合には『公的年金等の雑所得』として、課税されることになります。
小規模企業共済はうまく利用すれば、節税になると同時に、資金面で大きなメリットを
得ることができます。
その一方で、元本割れなどの可能性もある制度です。
加入したことでメリットがあるかどうかをしっかりと見極めてから、計画的に利用しましょう。
※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
会社を経営していると、売掛金や業務委託報酬など、
日々さまざまな債権が発生します。
期限までに債権を回収できればよいのですが、
時効を迎えてしまうと回収は不可能になります。
そうならないために、
時効の基本を押さえておきましょう。
5年、10年で消滅する権利 時効になれば請求が困難に
売掛金を払ってくれない取引先には、定期的に督促などをするのが
一般的です。
ただ、督促などをしないまま一定期間が経ってしまうと、
その債権が消滅してしまい、もはや請求できなくなることがあります。
これが消滅時効です。
消滅時効は、売掛金にだけあるのではありません。
オフィスの賃借料やリース料など、債権と呼ばれるあらゆるものが
消滅時効にかかる可能性があります。
この消滅時効は、一体いつから進行するのでしょうか。
民法では、『債権者が権利を行使することができることを知った時から』
と規定されており、
支払日の定めがある取引では、当該支払日が起算日となるのが通常です。
たとえば取引先に製品を納入すると売掛金が発生し、支払期日も決まります。
仮に月末日が支払期日であれば、末日を超えた時点で時効消滅に向けた
カウントが始まります。
では、カウントが始まった消滅時効は、いつ完成するのでしょうか?
これは民法において、『債権者が権利を行使することができることを知った時から
五年間行使しないとき』
もしくは『権利を行使することができる時から十年間行使しないとき』
と規定されています。
二つ目の条件は、主に権利の存在を知らなかった過払い金の権利者などに
適用することが多いようです。
時効を成立させないためには? 『請求』『差押さえ』『承認』
消滅時効は、途中で進行を止めることができます。
進行を止めるためには、たとえば『請求』『差押さえ』『承認』という行為が
必要となってきます。
ちなみに、途中で時効が止まったあとは、また0日からカウントが始まります。
たとえば、支払期日から3年経った2020年に消滅時効を止めた場合、
そこから新たに5年のカウントが始まります。
では、時効を消滅させないためにできる請求、差押え、承認とは、
どのような行為を指すのでしょうか。
差押えは裁判所を通じて行う手続きで、債務者の財産を強制的に確保して
返済にあてさせることをいいます。
承認は、債務者に「この債務は確かにあります」と認めさせることです。
先方からの「返済をもう少し待ってもらえませんか」という意思表示も承認にあたります。
それらに比べて、請求行為は成立させるのにやや手間がかかります。
単に請求書や督促状を送るだけではなく、送付から6カ月以内に、
裁判所を通して訴訟か支払督促の手続きを取らなければ
時効は止まらないので注意しましょう。
世の中には『夜逃げ』をされた債権者が莫大な損害を被るなどということもあります。
法務の知識を持ち、なるべく健全な取引関係を保ちたいものです。
※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
個人事業主の場合、事業にかかわる支出は経費として計上することができます。
ただし、仕事とプライベートで共用しているものにかかわる支出は、
そのすべてを経費計上できるわけではありません。
代表的なのが、自宅を事務所としても使用している場合の家賃でしょう。
プライベートと一体化している支出に関しては、判断がむずかしいとされています。
今回はこのような支出に関する経費計上の考え方を解説していきます。
事業用とプライベート用に分けづらい支出とは
個人にかかる税金の代表的なものに所得税があり、原則的には『所得(=収益-必要経費)』に
所得税率をかけて算出します。
利益が少なければ税額も少なくなるため、一般的には計上できる経費が多いと利益が少なくなり
節税に繋がります。
事業にかかわる支出の多くは、以下のように経費として計上することができます。
●給料賃金……従業員の給与や賃金など
●地代家賃……事務所や駐車場の賃料など
●消耗品費……事業に使用する文具やパソコン用品の購入費など(購入時の価格が10万円未満のもの)
●通信費……インターネットの接続料や携帯電話料金など
●広告宣伝費……Webサイトやチラシの制作料など
ただし、事業における支出と事業主のプライベートでの支出が一体化している場合は、
必ずしも100%経費にできるわけではありません。
仕事とプライベートで共用するものの例としては、家賃や通信費、水道光熱費、事務用品や
パソコン用品などの購入費、車のガソリン代、交際費など、さまざまな種類があります。
これらは、事業用とプライベート用の支出を分けて経費にする額を決める必要があります。
これを『家事按分』といいます。
事業に使用している割合を算出して計上する
たとえば、事業所と自宅が一体化している場合、
その家賃については全てを経費にすることはできません。
この場合、家賃のうち事業に使用した分を計算して経費として計上します。
自宅の半分を事業所として使っていれば家賃の50%を、4分の1を事業所として使っていれば
家賃の25%を『地代家賃』として計上できるということになります。
そのためにも、可能な限り、自宅の中をプライベート用と事業所用の空間に
分けておくことが望ましいといえます。
仕事相手を接客するための応接室を作ったら、そこは一切私生活では使用しないといった
ルールを作ったり、逆に自室には仕事を持ち込まないようにしたりなどの工夫をします。
そのうえで、実際に事業として使用している面積割合を計算すれば明解です。
プライベート用との区別がむずかしい場合
しかし、現実問題として、自宅をはっきりと事業用とプライベート用に分けることは
むずかしいことも多いでしょう。
結局のところ、経費として計上する割合は事業主自身の判断になってきます。
先ほどの『地代家賃』であれば、一般的には家賃のうち50~60%は
経費として認められるといわれていますが、ケースバイケースであり、必ずとはいえません。
大事なのは、税務調査で指摘された際に、共用している部分をどのように按分しているのか、
数字的な『根拠』をもとにしっかりと説明できるようにしておくことです。
一般的には、自宅の面積のうち業務に使用している比率や使用時間などをもとに、
根拠となる数字を割り出すことが多いようです。
また、電話代なども、プライベートと事業とで分けづらいものの一つです。
事業に使っている電話の電話代などは『通信費』として経費計上できますが、
一人で事業を行っている場合などは、プライベートの携帯電話が仕事用を兼ねることが
多々あります。
経費の根拠を示すという観点からは、仕事用と個人用は分けたいところですが、
二つ持つことで支出が増えてしまっては、意味がありません。
事業とプライベートの電話が同じであれば、通信記録から、それぞれの通話時間を割り出し、
その比率をもとにして、全体の何割を『通信費』として計上できるかを計算しておくとよいでしょう。
いずれにせよ、プライベートでも使用しているにもかかわらず、
家賃や通信費などを100%経費計上することは認められません。
税務調査で指摘された場合に、「自宅をこのくらいの割合で事業に使用しているので、
家賃の何割は経費計上している」と説明できるように、
まずは実態を把握し、根拠となる数字を用意することが大切です。
それぞれの支出について、明確に事業用とプライベート用に分けられるものは分けて、
分けるのが困難なものは工夫して割合を算出し、数字で根拠を示せるようにしておきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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事業者が経営を続けていくなかで、銀行などの金融機関
から事業資金の借入が必要となることがあるでしょう。
その際、経理担当者はその借入の取引を仕訳する必要が
あります。
融資を受けた際の借入金、事務手数料、収入印紙代の
ほか、借入金に対する利息を支払ったときや、元金の返済
をしたときなど、それぞれどの勘定科目を選択すればよいでしょうか。
いざ仕訳をするときに困らないよう、各勘定科目について解説していきます。
融資を受けた際の勘定科目
事業者は、事業拡大や経営の安定化などのために、金融機関から事業資金の融資を受けることがあります。
通常、融資を受けた際の借入金は、種類によって2つの勘定科目に区分されます。
●長期借入金……最終的な返済期日が1年を超えている借入金
●短期借入金……最終的な返済期日が1年以内の借入金
また、借入金を返済期日に一括で返済するケースのほかに、借入期間中に分割で返済していくケースもあるでしょう。
たとえば、3月決算の会社が、8月に金融機関から480万円の融資を受けたとします。
この融資における契約が、融資を受けた翌月から毎月20万円ずつの返済で、
最終返済期日が24カ月後となっていた場合、いったい借入金の勘定科目はどうなるのでしょうか
(ここでは、わかりやすくするために手数料や利子などは考えないものとします)。
この場合、最終返済期日が1年を超えているので、原則的に勘定科目は『長期借入金』に区分されます。
そして、決算時には、『長期借入金』のうち決算日の翌日から1年以内に返済期日を迎える分の金額を
『長期借入金』から『短期借入金』または『1年以内返済長期借入金』の勘定科目に振り替えて、
貸借対照表の流動負債の部に表示する必要が出てきます。
上記の例では、3月の決算日を迎えた時点で、残りの17カ月分のうち、次の決算日である翌年3月までの
1年間分の『長期借入金』を『短期借入金』または『1年以内返済長期借入金』に振り替えるということです。
付随費用と返済に関する勘定科目
金融機関からの融資には、必ず手数料などの借入金以外の費用が発生します。
これらの借入金以外の付随費用に関しても、内容ごとに細かく勘定科目が決められています。
中小企業が金融機関から融資を受ける際には、保証協会の保証付きの融資を受けることが少なくありません。
この場合、借入金に応じて、保証協会に一定の保証料を支払う必要があります。
保証料を借入時に一括で前払いしている場合、返済期間にわたって費用として計上するため、
次の決算日以降の費用となるもののうち1年以内のものは『前払費用』、
1年を超えるものは『長期前払費用』として処理します。
また、課税文書にかかる印紙税は『租税公課』、融資に関わる事務手数料や送金手数料などは『支払手数料』
という勘定科目となります。
さらに、日本政策金融公庫で融資を受けた場合の団体信用生命保険の特約料に関しては、
『保険料』という勘定科目になります。
団体信用生命保険とは、融資を受けた事業者が万が一亡くなったり、
高度障害になったりした場合に借入金を代わりに返済してくれる掛け捨ての保険のことです。
そして、借入金を返済する場合も、状況によって勘定科目が異なります。
返済の際には、基本的に借入金の勘定科目に準じて区分していきます。
借入金が『長期借入金』であれば、返済時も『長期借入金』になりますし、
借入金が『短期借入金』であれば返済時も『短期借入金』になります。
ただし、これらの返済はすべて元金の場合で、利息の支払いは勘定科目が異なります。
利息は『支払利息』という勘定科目で処理することになっており、
借入金の元金とは、勘定科目が異なるので注意してください。
また、保証協会の保証付きの融資を受けた場合に支払う保証料に関して、融資を受ける際ではなく、
利息の支払い時に支払うケースがありますが、このときは、前述した『長期前払費用』ではなく、
『支払利息』や『支払保証料』『支払手数料』等の勘定科目で処理します。
ちなみに、利息は経費計上できますが、元金は経費として計上することができません。
区分を間違えると、決算にも影響が出てくるので十分注意する必要があります。
借入金の勘定科目は、種類によって細かく勘定科目が決まっています。
仕訳や決算の際に混乱しないように、よく確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、苦境に
立たされている法人や個人事業主を支援する『新型コロナ税特法』
(正式には、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための
国税関係法律の臨時特例に関する法律)が成立しました。
この法律には、多角的に事業者を支援するための、
税金の猶予措置が盛り込まれています。
未だに続く新型コロナウイルスの影響によって業績が伸び悩んでいる企業に向けて、
『新型コロナ税特法』について解説します。
『新型コロナ税特法』、国税に関する措置は
閣議決定から法案の成立まで、わずか11日間のスピード成立となった『新型コロナ税特法』。
新型コロナウイルスによる企業経営の悪化を緩和することを目的とし、コロナ禍のあおりを受けて、
業績が不振に陥っている法人や個人事業主へ向けての制度になります。
まず、国税に関しては、以下の7つの措置が取り決められました。
●1年間の所得税・法人税など、ほぼすべての納税の猶予が受けられる
●欠損金のある法人が、2年前まで繰戻して法人税の還付が受けられる
●中小企業向けにテレワークなどの設備投資額を控除する
●文化芸術やスポーツイベントが中止になった時、主催者にチケットの払い戻しを求めなかった
観客に対し、その金額分を寄附金として控除する
●新型コロナウイルス感染症の影響で、住宅ローン減税の期限内に入居できなかった人に対しても、
減税を適用できるように要件を弾力化する
●消費税の課税事業者となることを選択し、承認を受けたあとでも中止可能にする
●新型コロナウイルス感染症の影響により貸し付けを受ける事業者について、
契約書の印紙税を非課税とする
今回は、このなかから、支援効果の大きい『納税の猶予制度の特例』と
『欠損金の繰戻しによる還付の特例』について、説明していきます。
ほぼすべての納税が延滞税なしで猶予に
まず、『納税の猶予制度の特例』について解説します。
この措置は、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年2月以降の任意の期間(1カ月以上)
において、前年同期比20%以上減少した事業者を対象に、2020年2月1日から
2021年2月1日までに納税の期限が到来するすべての税に関して、
1年間の納付を猶予するものです。
法人税はもちろん、所得税や消費税など、ほぼすべての税目が対象となり、延滞税も発生しません。
また、担保を用意する必要もありません。
対象となる事業者は、納付期限が来るまでに申請を行うことで、猶予を受けることができます。
すでに新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国税の猶予を受けている事業者についても、
さかのぼってこの特例を利用することができます。
つまり、延滞税がかかる別の猶予を、特例に切り替えることで、延滞税がかからないものとして
猶予が受けられるようになるわけです。
特例の申請には収入や資金の状況がわかるような資料を提出する必要がありますが、
むずかしい場合には口頭で説明することも可能です。
また、猶予の適用期間が終了したら定められた税金を納めなければいけませんが、
従来の制度を利用することで、分割で納めることもできます。
納税することによって事業運営に支障が出る事業者は、制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
欠損金の繰戻し還付も枠が広がる
次に『欠損金の繰戻しによる還付の特例』について解説します。
従来は、資本金の額が1億円以下の法人を対象としていましたが、
今回の特例で、資本金が1億円以上10億円以下の法人も対象になることが決まりました。
適用されるのは、2020年2月1日から2022年1月31日までの間に終了する事業年度に
生じた欠損金についてのみで、請求すれば、その事業年度から1年以内に開始した
いずれかの事業年度に繰り戻して、法人税の還付を受け取ることができます。
資本金が1億円を超えていて特例を受けることのできなかった法人にとっては、
救済措置となるでしょう。
ただし、資本金が10億円を超える大規模法人の100%子会社や、グループ内の複数の大規模法人に
発行済株式をすべて保有されている法人は対象外となり、制度を利用することができないので
注意が必要です。
請求については、欠損金額の生じた事業年度の確定申告書の申告期限までに、還付請求書を
提出する必要があります。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で手続きをするのが難しい場合には、個別に延長が
認められています。
ほかにも、さまざまな救済措置があり、状況に応じて申請することができます。
新型コロナウイルス感染症の終息が見えないなか、どのように事業を継続させていくか、
しっかり検討することが、事業者の急務といえます。
『新型コロナ税特法』を活用しながら、経営のかじ取りをしていきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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金融機関から融資を受けるのがむずかしい場合でも、
クラウドファンディングで資金集めに成功した事例があります。
では、クラウドファンディングを利用した場合、税務上
どのような処理が必要となるのでしょうか。
リターンの有無や、利息や配当を得るなどさまざまなタイプがある
クラウドファンディングとは、事業を起こしたい、
夢を叶えたいなど、何らかの実現したいことがある人(起案者)が
インターネットを通じてそれに必要な資金の提供を呼びかけ、
その思いや事業内容などに賛同した人(支援者)が
資金を提供するという資金調達システムです。
多くのクラウドファンディングでは、資金提供は無償ではなく、
起案者が何らかのリターンを用意してそれを購入する形で行われています。
たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大、さらに外出自粛要請によって
打撃を受けた飲食店を支援するクラウドファンディングでは、
3,000円や1万円程度の資金提供の代わりに、リターンとして
指定の飲食店で利用できる食事カードを受け取ることができました。
クラウドファンディングには、大きく分けて『非投資型』と『投資型』の
二つがあり、非投資型には『寄付型』『購入型』、投資型には『融資型』
『株式型』などがあります。
【寄付型】 リターンがないクラウドファンディング。
支援者は金銭提供のみ。社会的意義の強い活動や、起案者が著名人で
多くのファンがいるケースが多い。
【購入型】 起案者が何らかのリターンを用意し、支援者は
それを購入する形で資金提供を行うクラウドファンディング。
【融資型】 起案者が、資産運用したい個人投資家など(支援者)から
融資を受け、支援者はリターンとして利息を得るクラウドファンディング。
【株式型】 リターンが商品やサービスではなく配当のクラウドファンディング。
まだ日本では普及していないが、この株式型も投資型にあたる。
こちらは非上場の株式会社に投資をするスタイルとなる。
クラウドファンディングの利用でかかってくる税金
では、クラウドファンディングで取り交わした資金には
どのような税金がかかるのでしょうか。
【寄付型】 起案者、支援者が個人か法人かによってかかる税金が異なる。
個人(支援者)から個人(起案者)
寄付は贈与とみなされるため、起案者には、基礎控除の110万円を超えて
寄付を受けたときに贈与税が発生。
支援者にかかる税金はないが、所得税の寄付金控除の対象外。
法人(支援者)から個人(起案者)
起案者に所得税が課税。支援者にかかる税金はなく、法人税額の計算上、
一定の制限のもとで寄付金として損金に算入可能。
個人(支援者)から法人(起案者)
受贈益の扱いになるため、起案者には、法人税が課税される。
支援者にかかる税金はなく、所得税の計算上、一定の要件のもとで
寄付金控除の対象となる。
法人(支援者)から法人(起案者)
受贈益の扱いになり、起案者には、法人税が課税される。
支援者にかかる税金はなく、法人税額の計算上、一定の制限のもとで
寄付金として損金に算入が可能。
【購入型】 起案者が個人の場合は所得税、法人の場合は法人税の対象。
リターンの作成費用は経費として計上可能。ただ、資金額に対してリターンが
少なすぎる場合は、寄付型と見なされることもある。
支援者はリターンとして受け取るサービスや商品を購入したものとされ、
原則、消費税の課税対象取引とされる。
【融資型および株式型】 支援金は融資金、出資金のため起案者にかかる税金はない。
支援者が利息や配当を受けた場合は所得税の課税対象となる。
クラウドファンディングはそれぞれの型によってかかる税金の種類が違うので、
注意しながら事業の拡大に活かせるか検討してみてはいかがでしょうか。
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少子高齢化が進み、中小企業では後継者の不在が問題になっています。
望まぬ廃業が増えるなか、政府はこれを喫緊の課題とし、2009年度に
『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律』に基づき
『事業承継税制』を制定しました。
これは、事業を承継する際の贈与や相続において、取得した非上場の株式にかかる
贈与税や相続税の納税を減免する制度のことです。
取り組みを強力に後押しするため、2018年度の税制改正では、さらに要件が緩和されました。
今回は、この制度を利用するための条件や、手続きの方法についてご紹介します。
事業承継税制とはどんな制度か?
業績のよい中小企業が廃業してしまうことは、国家にとっても大きな損失です。
事業の引継ぎを支援するために、これまでにもさまざまな支援策が打ち出されてきました。
事業承継税制は、そのうちの一つです。
概要を説明すると、先代の経営者から後継者に、事業承継を目的として資産を渡した場合、
一定の要件のもと、相続税や贈与税の納税が猶予され、さらに先代経営者が死亡した場合には、
その納税額が免除されます。
2018年度の税制改正においては、2027年12月31日までの時限措置として、
この『事業承継税制』の要件が緩和され、制限の撤廃や、猶予割合の引き上げなども行われた
特例措置が設けられました。
さらに多くの中小企業がこの制度を利用できるようになっています。
何億円もの納税が免除されることもあり、これまで金銭的な問題で
廃業を考えていた事業者にとっては朗報となりました。
具体的には、これまでの措置に加え、納税猶予の対象となる
非上場株式を全体の3分の2までとする制限を撤廃。
すべての株式が制度の対象となりました。
さらに、これまでは対象となる株式のうち、相続税の納税が猶予されるのは80%の株式だったのに対し、
改正後は猶予割合が100%に拡大しました。
つまり、新しい事業承継税制では、贈与税・相続税も一切なく、後継者に事業を譲ることができるのです。
満たすべき条件と手続きについて
上記のものはすべて事業承継税制の特例措置というくくりになっており、
制度を利用するためには、満たすべき条件があります。
まず、一つめの条件は、非上場の会社で、中小企業基本法で規定された中小企業であること。
中小企業に該当する条件は業種により異なり、たとえば小売業であれば、
資本金が5,000万円以下の会社か、従業員の数が50人以下の会社が対象となります。
製造業であれば、資本金が3億円以下の会社か、従業員の数が300人以下の会社が対象です。
業種によって条件が異なるので、国税庁のホームページなどで確認しておきましょう。
また、後継者についてもいくつかの条件があります。
贈与税の猶予を受ける場合には、贈与の時において後継者が20歳以上で、
すでに会社の代表権を有しており、役員の就任から3年以上経過していなければいけません。
また、後継者とその親族など特別な関係がある者で、50%を超える議決権数を
保有している必要もあります。
相続税の猶予を受ける場合には、相続開始日の翌日から5カ月を経過する日において
会社の代表権を有しており、さらに相続開始の時において、後継者とその親族など
特別な関係がある者で50%を超える議決権数を保有していることなどが条件になります。
では、こうした条件を満たしたうえで、特例措置の制度を利用する場合には、
どのような手続きがあるのでしょうか。
贈与税に関しては、後継者が先代の事業者から会社の一部、または全ての非上場の株式を
2027年12月31日までの間に贈与された場合が対象となります。
まず、自社の継承者や、その後の経営の見通しなどを記載した『特例承継計画』を作成します。
この特例承継計画は、税理士、商工会、商工会議所など、認定経営革新等支援機関の
所見を記載のうえ、都道府県知事に提出します。
期限は2023年3月31日までです。
その後、贈与を受けた翌年の1月15日までに、『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律』、
いわゆる『円滑化法』の認定申請を行い、さらに、申告期限となるその年の3月15日までに、
贈与税の申告書などの書類を税務署に提出。
同時に、贈与税と利子税の額に見合った担保を提出し、はじめて納税の猶予が認められます。
相続税に関しては、基本的な手続きの流れは贈与税と同じですが、
申告期限は先代の経営者が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内となっており、注意が必要です。
このように、『事業承継税制』は、メリットも大きい反面、会社の代表者を退任したり、
対象の株式を譲渡したりすると認定が取り消され、
再計算した分の贈与税や相続税の支払いが生じるというリスクもあります。
自社の今後をしっかりと見据え、専門家とも相談のうえ、十分な計画を立てて制度を活用していきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
企業に属さずに事業を行う場合、個人事業主として仕事をする方法もあれば、
会社を設立して法人になるという選択肢もあります。
法人化にはさまざまなメリットがありますが、なかでも特によくいわれるのは
節税効果で、その内容は非常に多岐にわたります。
しかし一方で、会社設立には当然コストがかかりますし、
社会保険への加入なども必要となります。
今回は、会社設立における会計上のメリットとデメリットを紹介していきます。
所得額によっては法人税のほうがお得に
会社を設立するメリットはさまざまあります。
たとえば、『対外的な信用度が高まる』『それによって大きな仕事を得やすくなる』
『金融機関からの融資が受けやすくなる』『事業拡大がしやすくなる』などです。
なかでも大きいのが税制面のメリットで、ある程度の稼ぎを出している個人事業主の場合、
法人化したほうがお得になるといわれています。
もちろん、個人事業主と法人のどちらが会計上のメリットが大きいかについては、
置かれている状況や手がける事業内容によって異なります。
では、法人化による会計上のメリットとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
まずは個人事業主の所得税よりも法人税のほうが納税額が少なくなるというケースを
見てみましょう。
法人が納める税金には法人税や法人住民税、法人事業税などがあります。
一方で、個人事業主は所得に応じた所得税を支払わなければなりません。
法人税率は、区分に応じて原則的に一定です。
現在は資本金1億円以下の法人は、所得金額のうち年800万円以下の部分については
15%(適用除外事業者は19%)、それを超える部分には23.2%の法人税がかかります。
それに対して個人事業主が支払う所得税は税率5~45%で、
所得が増えれば、その分税率も高くなります。
つまり、法人税が一定税率なのに対し、所得税は超過累進税率で課税されることになるため、
同じ事業を行っていても、ある一定の売り上げを超えると法人のほうが有利になるわけです。
これが、個人事業主の売り上げが伸びると、法人化を勧められる理由です。
『給与所得控除』により控除額が多くなる
さらに、法人化を行うと、『給与所得控除』が使えるというメリットがあります。
『給与所得控除』とは、給与所得のうち一定額を必要経費として控除できるというもので、
控除額は以下のように定められています。
つまり、役員報酬として自身に給与を支払うようにすれば、会社の売り上げから必要経費を控除し、
そこからさらに給与所得控除を適用できるということになります。
法人化しても経営者個人には所得税や住民税は課せられますので、その際に
控除を適用した額で税金を計算することができます。
<給与所得控除額(2020年分以降)>
〇給与等の収入金額……給与所得控除額
●180万円以下……収入金額×40%-10万円
※55万円に満たない場合には、55万円
●180万円超、360万円以下……収入金額×30%+8万円
●360万円超、660万円以下……収入金額×20%+44万円
●660万円超、850万円以下……収入金額×10%+110万円
●850万円超……195万円
たとえば、法人化したあと、自分への役員報酬として700万円を支給する場合、
180万円が給与所得控除額となるわけです。
そして、この700万円から180万円を差し引いた、520万円をもとに
経営者個人の所得税や住民税が計算されます。
一方、個人事業主は白色申告なら一切控除はされませんし、
青色申告であったとしても最大で65万円しか控除されません。
法人化して役員報酬にすれば、より多くの金額を控除することができるのです。
知っておきたい法人化のデメリット
注意しておきたいのは、役員報酬は企業の株主との委任契約となるため、
自由に変更できないということです。
たとえば、役員報酬を高額に設定してしまった場合などです。
会社の業績が悪化しても役員報酬を下げることはできないので、
会社に負担をかけながら、そのうえでさらに高い所得税や住民税を支払わなければなりません。
これでは給与所得控除も活かせませんし、節税にもなりません。
役員報酬は会社の今後を見通したうえで慎重に決める必要があります。
また、法人化すると、個人事業主よりも自由に使えるお金が少なくなるのもデメリットの一つです。
経営者といえども、個人のお金と会社の資金は区別されるため、会社のお金を自由に使うことはできません。
自分の会社でありながら、会社からお金を借りる際には、会社と借り入れ契約を結ばなければなりません。
さらに、従業員を雇用する場合には、社会保険料を負担しなければなりませんし、
当然、会社設立に関しての登記や定款の作成、資本金など、コストや時間がかかります。
また、会社が赤字であれば法人税はかかりませんが、会社が所在する自治体には、
赤字であっても、法人住民税の均等割を支払わなければなりません。
法人住民税の均等割とは、所得額にかかわらず、資本金や従業者数に応じて課税される税金です。
このように、会社を設立すると税制面でメリットも得られると同時に、さまざまなデメリットも発生してきます。
これらを加味して、個人事業主でいくのか、会社を設立して法人として事業を進めていくのかを決めたいところです。
※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
世界中にパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスにより、
国内経済は甚大な打撃を受けました。
政府は収入が減った企業や個人事業主に対して、緊急の貸付や
給付金の支給、各種助成金制度の創設など、さまざまな施策を打ち出しています。
期限内の納税がむずかしい場合に利用できる制度として、
従来からある『納税の猶予』に加えて、『納税の猶予の特例(特例猶予)』
という新たな制度も創設されました。
そこで今回は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対する
納税の猶予制度について説明します。
納税が困難なら『納税の猶予』の利用検討を
2020月4月、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言が発令され、
店舗を休業、あるいは事業所を閉鎖せざるを得ず、大きな損失が生じた企業や
個人事業主は少なくありません。
さらに、休業や取引の減少が原因で倒産するケースも出てきており、事態は深刻です。
社会全体の経済的損失は計り知れず、2008年のリーマンショック時を上回るとも
いわれています。
この状況下、期限内に税金を納めることがむずかしいという企業もあるでしょう。
そのような場合に利用できるのが、政府が用意している『納税の猶予』制度です。
これは、以下の要件に該当する場合に所轄の税務署に申請すれば、
原則として1年間、納税の猶予が認められるという制度です。
●一時の納税により、事業の継続・生活維持が困難となるおそれがある
●納税について誠実な意思がある
●納期限から6カ月以内に申請がある
●猶予を受けようとする国税以外に滞納がない
猶予の対象となるのは、印紙税などを除くほとんどすべての国税です。
法人であれば、法人税や所得税なども含みます。
猶予中には延滞税が加算されますが、通常は年8.9%の割合で加算されるところを、
年1.6%の割合に軽減されます。
また、滞納による財産の差し押さえや、売却も猶予されます。
従来であれば、猶予を受けるためには担保の提供が必要となる場合がありましたが、
新型コロナウイルスの影響により納税が困難な場合は、
明らかに担保を提供できる状況でない限り、不要としています。
さらに有利な『納税の猶予の特例』とは?
さらに政府は、新型コロナウイルスによる影響を考慮して、
より有利な措置となる『納税の猶予の特例(特例猶予)』を創設しました。
これにより、2020年2月1日から2021年1月31日までに納期限が到来する
法人税、消費税、所得税などほぼすべての国税について、以下の要件に該当する場合、
納期限から1年間、無担保かつ延滞税なしで納税の猶予が認められます。
●新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年2月以降の任意の期間(1カ月以上)において、
事業等に係る収入が前年同期比較でおおむね20%以上減少している
●国税を一時に納税することが困難
特例猶予は納期限までに申請する必要があります。
ただし、2020年6月30日までの措置として、対象期間の国税であれば、
すでに納期限が過ぎている未納の国税(猶予中のものも含む)についても、
遡って特例を適用することができます。
なお、本人が新型コロナウイルスに感染した場合など、個別の事情がある場合は、
税通則法第46条によって、上記の要件を満たしていなくても
猶予が認められる場合があります。
個別の事情がある場合は税務署に相談してみるとよいでしょう。
納税の猶予制度は自動的に適用されることはないため、必ず期限までに申請する必要があります。
申請書類は国税庁のホームページでダウンロードできるほか、
所轄の税務署で案内を受けることも可能です。
やむを得ない事情で期限が守れない場合については、
税務署で個別に判断されますので、まずは相談してみましょう。
不明点や相談事があれば、電話による相談窓口として、
国税局猶予相談センターも用意されています。
国税庁では、状況に応じてさらに1年間の猶予も視野に入れていることを発表しています。
新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい経営が続くなか、
財務が切迫しているならば、猶予制度を利用するメリットは大きいでしょう。
国税を納付することによって事業の継続が困難になる場合は、
制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
法人は事業を展開していくうえでさまざまな税金を支払いますが、
一般的に経費として計上できる税金や公的な課金は『租税公課』という
勘定科目で処理をします。
『租税公課』とは、いわゆる国税や地方税などの税金である『租税』と、
国や公共団体などに対する交付金や会費などの公的な課金である『公課』を
合わせたもので、税務担当者は覚えておかなければならない区分です。
経費に計上できるということは、利益を減らすことができるため、納める税金を減らすことができます。
ではいったい、どんな税金が『租税公課』として経費に計上できるのでしょうか。
経費にならない税金や公課を『租税公課』に含めないために、経費として計上できる
税金の種類を把握しておきましょう。
経費にできる税金とできない税金
『租税公課』は、原則として経費になる税金や公課を取り扱う勘定科目で、
さまざまな税金がこの『租税公課』に該当します。
基本的に支払う税金のうち、経費として計上できるのは、印紙税や事業税などです。
逆に、所得税や外国所得税(外国法人税)は、税額控除として法人税から控除されるため
経費には計上できません。
また、法人税、都道府県民税、市町村民税なども、法人の所得から支払われる税金のため、
『租税公課』には含まれません。
さらに、各種加算税や各種加算金、延滞税や延滞金(地方税の納期限の延長に係る延滞金は除く)
並びに過料などはペナルティの意味合いが強く、経費として計上するものの
損金として認められることはありません。
『租税公課』には印紙税や事業税のほか、登録免許税、固定資産税・都市計画税、償却資産税、
事業所税、不動産取得税、自動車税・軽自動車税、消費税、会費、公共サービスへの手数料などが該当します。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
印紙税は公的な文章を作成するときに必要になる印紙代のことで、
登録免許税は不動産、会社、人の資格などについての登記や登録、特許、免許などについて課される税金です。
固定資産税・都市計画税は、法人の所有する不動産や、事業に使う設備などにかかってくる税金です。
また、償却資産税も固定資産税の一種で、機械や備品など償却資産に課せられます。
事業税は事業にかかる税金です。
事業所税は特定の市区町村だけに課せられる税金で、都市環境の整備や改善などの費用に充てるために、
事業所に課されます。
不動産取得税は不動産を取得したときに発生する税金で、自動車税・軽自動車税は
法人の所有している社用車などの自動車に課されます。
このほか、自動車取得税や重量税なども含まれます。
消費税に関しては、税込経理方式の場合は、原則として納税申告書を提出した年度の
経費に計上することができます。
ただし、申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を
未払金または未収入金に計上した場合には、その計上した年の経費に計上することができます。
また、税抜経理方式で経理処理している場合には、『租税公課』には計上しません。
印鑑証明書や住民票の発行手数料などの公共サービスの手数料や、
商工会や商工会議所への会費なども『租税公課』に含まれます。
損金にできないが『租税公課』で処理するもの
法人が会社を運営していくうえで支払う必要のある税金の多くは、『租税公課』として処理できます。
ただし、あくまで事業に必要なものだけなので、たとえば個人事業主がプライベートでも使用している
自家用車を事業でも使っている場合などは、月の走行距離などから、プライベートと事業で使用している
割合を計算し、事業にかかわるぶんだけを『租税公課』にしなければいけません。
自動車税のすべてを『租税公課』にできるわけではないことを覚えておいてください。
また、罰金や延滞税、加算税などは、会計上は『租税公課』として処理し、
そのうえで、法人税の計算の際に、確定申告書で加算することになります。
損金としては認められないのに『租税公課』として処理するのは違和感を覚えますが、
申告の際に、加算の処理をすることで損金からは除かれますので、結果として、
会計上は経費として計上されていても、損金に算入されることはありません。
ただし、うっかり忘れないためにも、帳簿にはその旨を記しておく必要があります。
ほかにも、損金にならない税金を『租税公課』の勘定科目で処理できるものはあります。
しっかり『租税公課』を把握し、該当する税金や公的な負担金を経費として算入することで、
余計な税金を払わないようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2020年5月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
2020年4月から、『パートタイム・有期雇用労働法』と
『改正労働者派遣法』が施行されました。
職場では、『同一労働同一賃金』の概念のもと、以前にも増して
非正規労働者のキャリアップや処遇改善を求められるようになるでしょう。
そこで今回は、支給要件の緩和や拡充により、
さらに活用しやすくなった『キャリアアップ助成金』の概要をお伝えします。
柔軟になった正社員化後の支給要件
1.正社員化コースの賃金5%要件の緩和
旧要件では、『正社員化後に、有期雇用の際は支給していなかった賞与を支給することで5%上昇』となる一方、
有期雇用労働者にも賞与を支給していた場合、正社員化後の賞与の支給時期・支給間隔によっては要件に該当しない
可能性がありました。
同一労働同一賃金の中小企業での施行(2021年4月)に向け、諸手当や賞与について見直しを行う企業も多いと
思いますが、新要件では(ア)(イ)から選べるという、より柔軟な対応ができるようになりました。
●旧要件
正規雇用等へ転換した際、転換前の6カ月と転換後の6カ月の賃金(賞与や諸手当を含む賃金の総額)を比較して、
5%以上増額していること
ただし、転換後の基本給や定額で支給されている諸手当を、転換前と比較して低下させていないこと
↓
●新要件
正規雇用等へ転換した際、転換前の6カ月と転換後の6カ月の賃金を比較して、
以下の(ア)または(イ)のいずれかが5%以上増額していること
(ア)基本給+定額で支給される諸手当(賞与を除く)の総額
(イ)基本給+定額で支給される諸手当+賞与の総額
ただし、転換後の基本給や定額で支給されている諸手当の合計額を、転換前と比較して低下させていないこと
複数コースの併用も可能
2017年からの労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置(従業員500人以下の企業での労使合意による適用拡大)
の導入に伴い、次の3コースの拡充・延長も施行されました。
2.賃金規程等改定コースの拡充
有期雇用労働者等の基本給の賃金規程を見直し、昇給した場合に適用。
●旧要件
(1)すべての賃金規程等を2%以上増額改定した場合、対象労働者数が1人~3人の1事業所当たり
9万5,000円を助成(対象労働者数によって助成額は異なる)
(2)一部の賃金規定等を2%以上増額改定した場合、対象労働者数が1人~3人の
1事業所当たり4万7,500円を助成(対象労働者数によって助成額は異なる)
さらに、3%以上増額改定した場合に助成額を加算
(1)すべての賃金規定等を改定:1人当たり1万4,250円
(2)一部の賃金規定等を改定:1人当たり7,600円
↓
●新要件
5%以上増額した場合の加算措置を創設
(1)すべての賃金規定等を改定:1人当たり2万3,750円
(2)一部の賃金規定等を改定:1人当たり1万2,350円
3.選択的適用拡大導入時処遇改善コースの拡充
有期雇用労働者等の社会保険適用について取組を実施し、新たに被保険者とした場合に適用されます。
●新要件
・労使合意に基づく任意適用に向けて、保険加入と働き方の見直しを進める取組
(外部専門家を活用した保険加入メリットの説明、相談会等を開催することなど)を行った場合、
19万円を助成(新設)
・短時間労働者の生産性向上のため、研修制度や評価制度の導入を行った場合、10万円を加算助成
また、労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施する事業主が、被用者保険加入とともに
基本給の増額を行う場合の助成において、これまでは3%以上の増額が対象でしたが、
2%以上3%未満の増額も対象となりました。
4.短時間労働者労働時間延長コース(経過措置の延長)
有期雇用労働者等の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成される
『短時間労働者労働時間延長コース』の経過措置が、令和3年3月31日まで延長されることになりました。
〈週所定労働時間を延長した場合の支給額(一人当たり)〉
1時間~2時間未満……4万7,500円
2時間~3時間未満……9万円
3時間~4時間未満……13万5,000円
4時間~5時間未満……18万円
5時間以上……22万5,000円
※支給申請上限は45人
ちなみに『選択的適用拡大導入時処遇改善コース』と『短時間労働者労働時間延長コース』は併用ができ、
次のような受給も可能となります。
・労使合意に基づく社会保険適用拡大に向けての取組を実施→19万円
・研修制度や評価制度の導入→10万円
・週所定労働時間を18時間から21時間とし、時給を1,000円から1,030円(3%)に昇給→一人当たり2.9万円
上記合計金額に、週所定労働時間延長支給額13.5万円を受給することも可能となります。
よりパワーアップしたキャリアアップ助成金を活用して従業員の成長を応援し、さらなる事業の発展を
目指してはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2020年5月現在の法令・情報等に基づいています。
お困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
消費税は消費者が負担するものですが、実際に申告や納税を行うのは、
商品やサービスを提供する事業者になります。
実は、条件によって消費税の還付を受けることができます。
では、どのような条件を満たせば、消費税の還付を受けることができるのでしょうか。
今回は消費税の還付について、基本的な部分から紹介します。
消費税還付のためには『原則課税』を選択
消費税の還付は『預かった消費税』よりも『支払った消費税』が多いときに受けることができます。
たとえば、売り上げが減少して仕入れ等が多かったケース、つまり赤字の場合などは
『預かった消費税』よりも『支払った消費税』が多いので、還付を受けることが可能なのです。
ただし、赤字になったからといって必ず還付を受けられるとは限りません。
従業員の給与や租税公課などの経費については、消費税がかからないので、
これらが原因で赤字になった場合は、還付を受けることはできません。
きちんと『預かった消費税』から『支払った消費税』を差し引いて、
『支払った消費税』が多いかどうかを確認しておきましょう。
また、還付を受けられるのは、『原則課税』で消費税の納税額を算出している事業者に限られます。
消費税の納税額を計算するには『原則課税』と『簡易課税』の2種類の方法があり、
『原則課税』は実際の商取引に則した計算方法で、『預かった消費税』から『支払った消費税』を
差し引くことで求めることができます。
たとえば、『預かった消費税』が150万円で、『支払った消費税』が100万円の場合、
納税額は50万円になるわけです。
一方、『簡易課税』は『預かった消費税』に『みなし仕入率』を乗じた額を、
『支払った消費税』と“みなし”ます。
この『みなし仕入率』は事業区分ごとに決められており、卸売業は90%、小売業は80%、
農業や林業等製造業は70%、飲食業等は60%、運輸通信業や金融業等サービス業は50%、
不動産業は40%と定められています。
つまり、『簡易課税』は、『預かった消費税』が150万円で、自社が卸売業の場合、
下記のような計算式になります。
・150万円-(150万円×90%)=15万円
このケースでは『原則課税』よりも、『簡易課税』のほうが納税額は少なくなりますが、
実は、『簡易課税』では還付を受けることができません。
還付を受けるためには、原則として『原則課税』で計算する必要があります。
たとえば、『原則課税』で計算した場合に、『預かった消費税』が150万円で、
『支払った消費税』が200万円の場合、差し引き50万円の還付を受けることができますが、
『簡易課税』は、『みなし仕入率』で求めなければならないため、『支払った消費税』は考慮されません。
『預かった消費税』の150万円を元に計算されるため、結局、15万円の税金が課せられてしまいます。
通常、『支払った消費税』が少ない場合、節税のためには『簡易課税』を選びたいところですが、
赤字などで『支払った消費税』が多い場合には、
『原則課税』で還付を受けたほうがお得だということになります。
住宅用の不動産は還付の対象外
赤字の場合はもちろんですが、輸出業の事業者なども還付が発生しやすいといえます。
国内での商取引には消費税が発生しますが、輸出取引に対しては消費税が免除されるため、
輸出業の売り上げには消費税が発生しないことになります。
つまり、国内で仕入れを行っていれば、基本的には『預かった消費税』よりも、
『支払った消費税』が多くなることがほとんどなので、還付を受けられるというわけです。
ほかにも、高額の設備投資や不動産の購入などを行ったというケースも、
『預かった消費税』よりも『支払った消費税』が多くなりがちなので、還付を受けられることがありますが、
一定期間、免税点制度適用の制限や、簡易課税制度の選択の制限等が設けられているので、注意が必要です。
また、2020年度の税制改正で、1,000万円以上の住宅用の賃貸建物を購入した際に発生した消費税に関しては、
消費税の還付が受けられないことになりました。
規制は住宅用の建物のみで、設備やテナント用の建物などは今まで通り、控除の対象になります。
社員寮などに使う建物を購入する際には、対象外となり、
還付を受けられなくなる可能性が出てくるので注意してください。
消費税の還付は、『預かった消費税』よりも、『支払った消費税』が多い場合に、
『原則課税』を選択することで受けることができます。
還付を受ける際には、『消費税の還付申告に関する明細書』を消費税の申告書と一緒に提出します。
これまで『簡易課税』を選択していた事業者は、一度、見直してみてはいかがでしょうか。
課税事業者を選択する場合や、簡易課税制度の選択をやめる場合は、
当該課税期間開始の日の前日までに届け出が必要となりますので、計画的に検討しましょう。