現在、日本では、品目によって課税率が異なる軽減税率(複数税率)が
導入されています。
この軽減税率の導入をきっかけに、消費税制度が複数税率になってしまったことを
受けて2023年10月1日から、『インボイス制度』が導入されます。
インボイス制度は、その商品・サービスに課税される消費税率と
具体的な金額を記載することで、納税する際の計算違いや支払い時の行き違いを防止し、
益税を回避することなどを目的とした制度です。
今回は、このインボイス制度の概要と、新たな仕入税額控除方式である『適格請求書等保存方式』について説明します。
軽減税率に対応した新たな仕入税額控除の方式
インボイス制度を理解するためには、そのきっかけとなった軽減税率について知っておかなければいけません。
2019年からスタートした軽減税率は、低所得者に配慮する観点から、特定の品目に対して標準税率の10%よりも低い
8%で消費税を計算する制度のことで、酒類・外食を除く飲食料品や、定期購読契約をした週2回以上発行の新聞などが
対象品目となります。
つまり現状では、10%と8%という異なる消費税率が並行して存在することになります。
この複数の税率に対応するため、消費税の仕入税額控除が『適格請求書等保存方式』に変わります。
それにより、いわゆるインボイス制度によって発行される『適格請求書等』が必要になります。
仕入税額控除とは、売上にかかる消費税額から仕入れのために払った消費税額を控除することで、
課税事業者はこの差額を消費税として納税することになります。
事業者には、消費税を納める必要のある課税事業者と、消費税の納税を免除されている免税事業者があり、
課税事業者は売上にかかる消費税を納税しなければなりません。
しかし、仕入れの際に支払った消費税分は売上にかかる消費税から控除していいことになっています。
たとえば、売上にかかる消費税が1,000円で、仕入れのために払った消費税が200円だった場合、
課税業者は差額の800円を納めることになります。
これが仕入税額控除です。
課税事業者は、仕入税額控除を受けるために、仕入れにかかった金額を証明する必要があります。
これまでは消費税率が一つだったため、仕入れを行った際の請求書を保存しておく、『請求書等保存方式』が
採用されていました。
しかし、税率が10%と8%の2つになったことで、請求書等保存方式では正確に仕入れ額を証明できなくなりました。
たとえば、一つの商品を製造するにあたり、複数の企業からそれぞれ異なる消費税率の仕入れを行っている場合などは、
課税事業者が納めるべき正確な消費税額を求めることができません。
そこで、正確な消費税額を求めるために導入されるのが、適格請求書等保存方式というわけです。
適格請求書等保存方式の導入方法と事前準備
適格請求書等保存方式で使われる適格請求書は、適用税率や税額が記載された請求書や納品書、領収書などの書類や
データのことで、国税庁では『売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段』と説明しています。
この適格請求書を発行するには、2023年3月31日までに税務署に登録申請を行い、『適格請求書発行事業者』の登録を
受ける必要があります。
適格請求書発行事業者でなければ、適格請求書等を発行することができません。
そして、売手となる適格請求書発行事業者は、買手である取引相手の求めに応じて、以下が記載された
適格請求書等を交付する義務と、交付した適格請求書等の写しを保存する義務が課されることになります。
(1)適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
(2)取引年月日
(3)取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
(4)税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
(5)消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
(6)書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
一方、買手側も、仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として売手である適格請求書発行事業者から
交付を受けた適格請求書等の保存が必要となります。
ただし、インボイス制度が適用されるのは、課税事業者同士での取引に限られ、課税事業者と免税事業者間の取引では
適用されません。
課税事業者が免税事業者との取引で支払った消費税は、仕入税額控除を受けられず、課税事業者の“自腹”となるため、
インボイス制度が始まると、免税事業者は課税事業者から取引を控えられてしまったり、課税事業者への転換を
要請されたりすることが考えられます。
インボイス制度がスタートするまで、しばらくの期間があります。
消費税の免税事業者は、取引先と円満な関係を保つことなども視野に入れながら、課税事業者になるかどうかを
検討する必要があります。
また、課税事業者は、適格請求書発行事業者の登録や、適格請求書等を交付するための社内整備などを
行っておきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業にとって、従業員の労働環境や待遇を改善することは大きな課題の
一つです。
今回は、これに関連する助成金として、生産性を向上させ、
『事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)』の引き上げに取り組む
中小企業・小規模事業者を対象とした『業務改善助成金』を紹介します。
この助成金は2021年8月から特例的に要件が緩和・拡充されており、
それを踏まえた情報を解説します。
業務改善助成金
【助成金の概要】
生産性向上のための設備投資(機械設備の導入、コンサルティングの導入や人材育成・教育訓練)などを行い、
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資などにかかった費用の一部が助成されます。
2021年8月からは、同一年度内に複数回(2回まで)申請できるようになりました。
【コース区分】
賃金の引き上げ額に応じてコースが区分されており、さらに引き上げる労働者数に応じて助成上限額が設定されています。
●20円コース(引き上げ額が20円以上)
引き上げる労働者数と助成上限額
1人:20万円
2~3人:30万円
4~6人:50万円
7人以上:70万円
10人以上:80万円
●30円コース(引き上げ額が30円以上)
引き上げる労働者数と助成上限額
1人:30万円
2~3人:50万円
4~6人:70万円
7人以上:100万円
10人以上:120万円
●45円コース(引き上げ額が45円以上)
引き上げる労働者数と助成上限額
1人:45万円
2~3人:70万円
4~6人:100万円
7人以上:150万円
10人以上:180万円
●60円コース(引き上げ額が60円以上)
引き上げる労働者数と助成上限額
1人:60万円
2~3人:90万円
4~6人:150万円
7人以上:230万円
10人以上:300万円
●90円コース(引き上げ額が90円以上)
引き上げる労働者数と助成上限額
1人:90万円
2~3人:150万円
4~6人:270万円
7人以上:450万円
10人以上:600万円
【主な支給要件】
以下のすべての要件を満たす事業場が対象となります。
(1)事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること。
(2)事業場規模が100人以下であること。
また、賃金を引き上げる労働者数が『10人以上』の助成上限額を適用するには、以下のいずれかに該当する必要があります。
(3)事業場内最低賃金が900円未満の事業場であること(賃金要件)。
(4)売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3カ月間の月平均値が、前年または前々年の同じ月に比べて30%以上減少している事業者であること(生産量要件)。
【助成額】
生産性向上のための設備投資等にかかった費用に以下の助成率を乗じて算出した額が助成されます。
(1)事業場内最低賃金が900円未満の助成率.....5分の4(生産性要件を満たした場合は10分の9)
(2)事業場内最低賃金が900円以上の助成率.....4分の3(生産性要件を満たした場合は5分の4)
※ここでいう『生産性』とは、企業の決算書類から算出した、労働者1人当たりの付加価値を指します。
助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性と、その3年度前の決算書類に基づく生産性を比較し、
伸び率が一定水準を超えている場合等に、加算して支給されます。
【生産性向上に資する設備・機器の導入例】
●POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
●リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
●顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
●専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 など
※2021年7月までは、自動車(特種用途自動車を除く)やパソコン等の購入は対象外でしたが、
8月からは生産性向上に資する『乗車定員11人以上の自動車および貨物自動車』
『パソコン、スマホ、タブレット等の端末及び周辺機器(新規導入)』も、補助対象に拡充されました。
ただし、コロナ禍の影響を受けるなかでも賃金の引き上げ額を30円以上とする場合に限るといった
条件が設けられています。
2021年7月には、今年度の最低賃金改定の目安が公表されました。
今年度は1時間あたり28円を目安に最低賃金を引き上げるように、中央最低賃金審議会より厚生労働大臣への答申が
行われました。
これは1978年度に目安制度が始まって以降、過去最高額となります。
最低賃金の引き上げに際して、この助成金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、この助成金には、これ以外にも細かい支給要件がございますので、詳細は厚生労働省ホームページをご確認ください。
出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
課税対象者に対して行なった2019事務年度の税務調査の件数は、
法人税で約7万6,000件、所得税で約43万件(文書、電話などによ
る簡易な接触も含める)、相続税で約1万件にのぼります。
納税者にとってはできれば避けたい税務調査ですが、これを拒否す
ることはできません。
しかし、税理士に『書面添付制度』の利用を依頼することで、税務
調査の行われる確率を下げることはできます。
税理士が取り扱うことができる書面添付制度とは、いったいどのようなものなのか、解説していきます。
税務調査の前に税理士が意見陳述できる制度
書面添付制度とは、税理士が依頼者の税務申告等を行う際に、申告書類が税務の専門家の立場から
どのように調製されたかをまとめた規定の“書面”を作成し、添付することで、もし依頼者が税務調査を
受けることになった場合に、税理士に意見陳述の機会が与えられるというものです。
相続税・所得税・法人税などの税務申告の際に利用できる税理士法に基づいた制度で、
税理士だけに利用する権利が認められています。
つまり、書面添付制度を利用すれば、いきなり税務調査が行われるのではなく、
その前に意見を述べる場が一つできるということです。
添付する書面の様式は財務省令で定められており、税理士は項目ごとに税務に関して計算・整理したことや、
依頼者から相談を受けた内容などを記入します。
また、申告書類だけではわかりづらい部分を補足説明として記入する場合もあります。
税務調査の対象となった際は、税務署は添付された書面に従って、税理士から意見を聴取します。
その結果、問題点や疑問点が解消されて、税務調査が必要ないと判断されれば、
税務調査そのものが省略されることになります。
添付する書面は“質の高い書面”であること
事業者としては、負担のかかる税務調査はできるだけ避けたいもの。
そのためには、書面添付制度を利用するにあたり、“質の高い書面”を作成する必要があります。
ここでいう質の高い書面とは、記載してある内容がきちんと申告書類の不明点を補っており、
なおかつ正しい決算であることが証明できている書面のことです。
そのために、事業者は税理士に包み隠さず財務状況を伝える必要がありますし、経理も偽りなく
きちんと行わなければいけません。
基本的に書面は税理士が作成しますが、事業者もその内容を把握し、共に質の高い書面を作るという意識で、
顧問税理士には全面的に協力しましょう。
そもそも書面添付制度は、税務調査を逃れるための制度というより、“正しい決算”を行うことを
目的とした制度なのです。
税務調査の省略以外のメリット
書面添付制度には、税務調査を回避する以外にも、金融機関に対しての信頼性を高める効果があります。
金融機関は企業に融資を行う際に、その企業の財政状況や将来性や課題などを把握しておく必要があります。
書面添付制度を利用していれば、決算の数字だけではわからない細かな情報を得られるため、
透明性の低い企業よりも信頼性が高まるというわけです。
また、書面添付制度の利用は、そもそも正しい決算に基づいた申告であることが前提なため、
健全な会社経営を行っているとみなされ、結果として、融資の際に金利や返済期間などの面において、
優遇される可能性もあります。
このようにメリットの多い書面添付制度ですが、いくつかのデメリットも存在します。
事業者が顧問税理士に書面添付制度の利用を依頼する場合、税理士と連絡をとる回数も多くなるため、
負担が増す可能性があります。
また、書面添付制度を取り扱っていない会計事務所もあり、税理士によっては依頼しても
断られてしまうこともあります。
そうなると、そもそも書面添付制度の利用を諦めるか、別の会計事務所に申告書類の作成から
依頼しなければなりません。
いずれにせよ、書面添付制度を利用するには、前提として健全な経営を行っていることが必須です。
日頃から正しい経理・決算を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業の経理において、『経費』は、課税所得額を減らすための節税対策として
も用いられます。
この経費に計上できるものとしては、物品の購入以外に、広告宣伝などに使った
費用も該当します。
広告宣伝費のよい点は、将来に向けた投資にもなることです。
広告を打てば、経費を計上できるうえに、数カ月後に売り上げになって戻ってくるという、
嬉しい効果も期待できます。
今回は、広告宣伝費を経費にするメリットと、広告費用の相場、計上のタイミングについて説明します。
広告宣伝費で節税対策をするメリット
経費には、さまざまな種類があります。
たとえば、文房具やコピー用紙は『消耗品費』、取引先に送る贈答品は『接待交際費』、
電話代やプロバイダ使用料は『通信費』です。
そして、会社の広告宣伝に使った費用もまた、『広告宣伝費』という勘定科目で経費となります。
『広告宣伝費』は、自社のサービスや商品を、不特定多数に広く認知してもらうために使った
費用のことです。
ほかの勘定科目に比べて計上できるものの枠組みが大きく、メディア等への広告掲載のほか、
以下のようなものも、広告宣伝費として認められます。
●一般の消費者に向けた、抽選やプレゼント企画の費用
●購入者向けの抽選やプレゼント企画の費用
●見学ツアーなどで提供した、試飲や試食の費用
●一般消費者向けのモニターアンケートの謝礼
さらに支払いの時期や金額も、発注者側の都合で調整しやすいので、
「決算期末の前に、大きく費用を計上したい」という場合にも、広告宣伝費は有効なのです。
ただし、広告宣伝と一口にいっても種類はさまざまなので、メディアごとの相場等の知識は必要です。
広告宣伝のなかで、掲載料が最も高いのはテレビCMでしょう。
テレビは影響力の強いメディアなので、より多くの人に広く宣伝したい場合に有効であるといえます。
時間帯にもよりますが、だいたい東京の民放キー局は15秒1本あたり30万円~100万円前後、
地方のローカル局・独立局で3~15万円程度といわれています。
通常は一定の期間、同じCMを何度も打つことになるので、1本×回数分の費用が発生します。
テレビCMに比べると、ラジオCMは比較的手ごろです。
ローカルであれば、20秒のスポットで1万円台でも放送することができます。
大手でも、10万円はかかりません。
新聞広告の場合、価格は面積によって決まり、新聞独自の『段』というブロックで計算します。
新聞の紙面は全部で縦15段に分かれており、この段をどのくらい使うかによって、広告の金額は変わるのです。
新聞社や紙面の場所にもよりますが、大手新聞社では、新聞の下部3分の1程度を埋める5段広告で、
1段あたり約100~300万円で出稿できます。
雑誌広告は、発行部数や掲載場所によって相場が大きく異なります。
たとえば一般的な写真週刊誌の裏表紙であれば、100万円~200万円くらいが相場です。
こうした大手メディアのほか、はがきのダイレクトメールやチラシのローラー配布など、
目的によって手段はさまざまです。
制作・印刷・配布をトータルで申し込むか、バラバラに依頼するかでも、料金は違ってきます。
また、検索エンジンの検索結果ページに表示されるリスティング広告は、1クリック10円~数千円、
YouTubeなどの動画共有サイトに表示される動画広告は1再生あたり10円~数百円、
サイトやSNSに広告を設置するアフィリエイト広告であれば1成果あたり100~数万円くらいを
相場と見るとよいでしょう。
これらの広告手法は、制作費も含めて、すべて広告宣伝費として経費計上できます。
広告宣伝費は計上のタイミングがある
ただし、注意したいのが経費計上のタイミングです。
広告宣伝費は、広告費を支払ったときではなく、広告が媒体に掲載された日に
計上するように定められています。
したがって、節税対策のために、決算前に急いで広告の予算を組んでも、
掲載が間に合わなければ今期の経費とはなりません。
決算期末に慌てないためにも、事前に広告の掲載日を確認するとともに、
当期の課税所得額なども、把握しておくようにしましょう。
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コロナ禍により業績が悪化し、資金調達を行わなければならない企業が
急増しています。
主な資金調達の方法には『株式の発行』『社債の発行』『金融機関からの融資』が
あります。
なかでも金融機関からの融資は、多くの企業が利用する方法です。
今回は、主な資金調達手段の概要と、このうち特に押さえておきたい事項として、
融資を受けた際の会計処理の方法に焦点を当てて解説します。
資金調達のための主な3つの方法
資金調達の方法はさまざまありますが、主なものとしては以下の3つがあげられます。
●株式を発行することによる資金調達
株式会社であれば株式を発行することで資金を調達するという方法をとることができます。
具体的な方法としては、一般の投資家を対象にした『公募増資』と、
自社の役員や取引先など特定の第三者を対象にした『第三者割当増資』、
既存の株主を対象にした『株主割当増資』の3種類があります。
会計処理は、3種類のいずれも原則として払い込み金額の全額を資本金として処理します。
●社債の発行による資金調達
自社が発行する社債を投資家に購入してもらう資金調達の方法です。
発行時に金利を設定できるため、金融機関から融資を受けるよりも低金利での資金調達が可能で、
さらに株式の発行のように投資家が経営に関わってくることもないことがメリットです。
ただし、社債は投資家からの借り入れの意味合いを持つため、年1~2回の利払い日に利息を支払う必要があります。
また、発行すればするだけ負債が増えることになりますし、満期になれば元本も返済する必要があります。
会計処理は、発行時、利息の支払い時、返還時、決算時と複数回行うことになります。
●金融機関からの融資による資金調達
銀行などから借り入れをする方法で、資金調達としては最も一般的です。
銀行から借りる場合には、まず融資額や利率を決めるために審査を受け、業績や財務状況などをチェックしてもらいます。
銀行は審査によって企業の格付けを行いますが、ここで業績が良好で財務状況にも問題がない企業だと判断されれば、
よりよい条件で融資を受けることができます。
一方、経営難や経営破綻に陥るリスクがあると判断された企業の場合は、融資を受けられなくなる可能性もあります。
会計処理は、社債と同じく借入時や利息の支払い時など、それぞれのタイミングで処理します。
次に、もう少し詳しくみていきましょう。
金融機関から融資を受けた際の会計処理
銀行の審査が通ると、融資額が会社の預金口座に振り込まれます。
ほとんどの場合は融資額の総額から信用保証料や収入印紙代、事務手数料などの手数料が差し引かれた額が入金されますが、
手数料が差し引かれないケースもあり、それぞれ会計処理の方法が異なります。
手数料が差し引かれない場合には、入金された額をそのまま借方に預金として記帳し、貸方には『短期借入金』か
『長期借入金』という区分を使って記帳します。
短期借入金は契約日から1年以内に返済期日が到来する借入金で、長期借入金は契約日から返済期日が1年を超える
借入金のことです。
一方で、手数料が差し引かれる場合には、それぞれの手数料の内訳に応じた仕訳を行います。
信用保証料は『前払費用又は長期前払費用』として、印紙代は『租税公課』として、振込手数料や事務手数料は
『支払手数料』として記帳します。
さらに、借入金の返済の際にも会計処理が必要となり、利息を支払う際には『支払利息』で、元金を支払う際には
借入時と同じく、『長期借入金』か『短期借入金』の勘定科目で処理します。
決算時の会計処理も、借入金の勘定科目が『長期借入金』か『短期借入金』で異なるため、注意する必要があります。
銀行などから融資を受けると月々の借入金残高が記載されている返済予定表が送れられてくるので、決算時には
貸借対照表の残高と金額が一致していることを確認します。
長期借入金の場合は残高に差異があると翌期も差異があるままの残高になってしまうため、元本を支払利息で
処理していないかなど、遡って調べておきましょう。
また、長期借入金に関して、決算の時点で返済の期限が1年以内になるものは、『1年以内返済長期借入金』への
振り替えが必要となります。
ただし、重要性が低い場合は処理を行わないこともあります。
借入金の会計処理は、入金時、利息の支払い時、元本の返済時、決算時で行うことになるため手間や時間がかかります。
専門家にも相談しながら進めていくほうが得策といえるでしょう。
※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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相続の対象となる“遺産”は、被相続人が死亡したときに
所有していた財産です。
では、人が死亡することによって初めて生じる財産・権利は
どのような扱いになるのでしょうか。
生命保険金や死亡退職金は、死亡という事実があって
はじめて請求権が発生しますが、これらは金額が大きい場合も多く、
これが相続財産に含まれるかどうかは、相続人にとって大きな問題と
いえるでしょう。
今回は、生命保険金と死亡退職金は遺産分割の対象となるのか、
遺産分割の手続きにおいてどのように扱われるのかについて、解説します。
生命保険金は、保険金受取人は誰かがポイント
被相続人が生命保険に加入していた場合、被相続人(被保険者)の死亡によって
死亡保険金の請求権が発生します。
この生命保険金が相続財産に含まれるかどうかは、
あらかじめ指定されていた受取人が相続人であるかどうかによって変わってきます。
まず、被相続人が自分を受取人として契約し、ほかの保険金受取人を指定していなかった場合は、
被相続人の死亡によって相続人が保険金請求権を取得します。
この請求権は被相続人の相続財産に含まれ、相続人がほかの相続財産と併せて相続します。
もし被相続人が、相続人の誰かを受取人に指定していた場合は、生命保険金請求権は
受取人に指定された人の固有の権利ですから、相続財産には含まれません。
したがって、相続の手続きとは無関係に、受取人として指定された人が保険金を請求し、
受け取ることができます。
ただし、指定受取人が生命保険金を受け取ることが、ほかの相続人との関係で著しく不公平となる場合
(たとえば、その保険金がほかの相続財産よりもはるかに金額が大きいような場合)には、
特別受益として、遺産額にその保険金の額を加算して相続分を計算するという最高裁の判例もあります。
死亡退職金は、支給規定の定めがポイント
死亡退職金は、労働者が在職中に死亡した場合に使用者から給付されます。
会社の就業規則などで定めがある場合や、慣行として支払われている場合には、
労働者の遺族がその支給を請求することができます。
この死亡退職金が相続財産に含まれるかどうかは、その権利の内容として、
受取人の指定がなされているかどうかによって異なってきます。
具体的には、会社の就業規則などで受取人が明確に定められていない場合には、
退職金の請求権は死亡した本人が取得することになり、その請求権を相続財産として
相続人が相続することになります。
他方、就業規則などで受取人の指定がある場合には、相続財産には含まれず、
受取人として指定されている人が、自分の権利として請求することができます。
ただし、相続人のなかの誰かが受取人として指定されている場合には、公平の見地から、
生命保険と同様に、指定受取人の受け取った退職金の額が特別受益として考慮される場合もあります。
ところで、就業規則などで受取人の指定がある場合には、通常は、第1順位の受取人が
『配偶者』とされています。
この場合の配偶者に、法律婚ではない、いわゆる“内縁の妻”は含まれるのでしょうか。
この点、国家公務員退職手当法は、配偶者に内縁関係も含むと定めています。
また、民間の企業においても同様の定めをしているところが多数あります。
このように内縁関係も含む旨の定めがある場合には、内縁の妻も死亡退職金の受取人になれます。
それでは、法律婚の配偶者と事実婚の内縁配偶者の両方がいる場合はどうなるでしょうか。
この場合、死亡退職金の支給の目的は、死亡当時にその労働者と生計を共にしていた者の
以後の生活を保障することにあると考えられているため、
生計同一者のほうに請求権があるということになります。
そうすると、上記の場合は、法律婚の配偶者との夫婦関係がうまく行かず離婚もできていないまま、
事実婚の内縁配偶者と生活をしているという状況にあると思われるため、
内縁配偶者のほうに請求権がある(相続の対象とならない)ということになります。
保険の契約内容や、退職金の規定を確認すること
このように、生命保険金や死亡退職金については、受取人の指定がなされていて
相続の対象とならないケースが多いものの、保険契約の内容や退職金規定の内容によって
判断が変わってくることもありますし、例外的に相続の手続きで考慮される場合もあります。
生命保険金や死亡退職金は、相続・遺産分割でどのように取り扱うべきかについて、
注意が必要な財産です。
規定を確認しておくなどの対策をとることが望ましいでしょう。
※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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従業員の福利厚生の一つとして、社員寮や独身寮を完備している
企業があります。
この社員寮や独身寮が、もし労働基準法第十章で定められている
『寄宿舎』に該当する場合は、寄宿舎規則を作成したうえで、行政
官庁に届け出る必要があります。
では、どのような場合に寄宿舎に該当するのでしょうか。
今回は、寄宿舎に該当する条件や、寄宿舎を設置するための手続きなどを紹介します。
条件は複数の労働者が寝食を共にすること
寄宿舎とは、一般的には、学校、事務所、病院、工場等の事業者が設置する居住施設で、
主に学生、職員、従業者等を対象として、複数の寝室と食堂、浴室などの共同施設が設けられたもの
のことをいいます。
労働基準法では、事業用寄宿舎に該当する条件を
『複数の労働者が共同空間において寝食を共にすること』
『事業に附属すること』と定めています。
これを踏まえると、たとえ炊事場や浴室が共同の社員寮や独身寮であっても、
労働者のプライベートな空間が確保されている場合は寄宿舎に該当しませんし、
逆に事業に付随し、複数の労働者が共同空間において寝食を共にしている場合は、
社員寮や独身寮と呼称していても、寄宿舎として扱うことになります。
寄宿舎に労働者を寄宿させるには届出が必要
寄宿舎に該当するケースで多いのは、建設現場などにおいて
一定期間泊まり込みで作業を行ってもらうための住居です。
建設現場に建てられた、プレハブ工法の仮設住居を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
このような事業附属寄宿舎の設置に関しては、常時10人以上の労働者を就業させる事業や
厚生労働省令で定める危険な事業・衛生上有害な事業に該当する場合は、工事着手の14日以上前に
計画書を労働基準監督署に届け出なければならないというルールがあります。
計画を変更する場合や、寄宿舎の移転をする場合にも、同じように届出をします。
また、労働者を寄宿舎に寄宿させる場合は、寄宿舎を設置したら、設置届と寄宿舎規則を
労働基準監督署に届け出なければなりません。
規則を変更する場合も、同様に届出が必要となります。
この寄宿舎規則は、起床や就寝、外出や外泊に関することや、食事に関すること、安全衛生に関することなど、
定められた事項について盛り込まなければなりません。
また、寄宿舎規則の作成や変更をする際は、寄宿舎を利用する労働者の過半数を代表する者の
同意を得る必要があり、届出の際に同意を証明する書面を添付することになります。
また、規則を全員に周知する義務もあります。
一方で、たとえ複数の労働者が共同空間において寝食を共にする施設であったとしても、
事業に付属していること、という要件を満たしていなければ、寄宿舎には該当しません。
以上のことからも、一般的な福利厚生施設としての社員寮や独身寮は、
そのほとんどが寄宿舎には当てはまりません。
ただし、裁判などでは実態に即した判断がされるため、過去には社員寮と呼称していた施設が
寄宿舎と判断されたケースもあります。
寄宿舎に該当するかどうかについては、その施設の目的や実態に即して判断する必要があるでしょう。
寄宿舎に該当しなくても管理は求められる
社員寮や独身寮などの寄宿舎に該当しないケースであっても、従業員の生活の安全のためには
生活全般にまつわる規定を作る必要がありますし、寄宿舎に準じた管理が法律上の義務として求められます。
また、寄宿舎同様に規定は全社員に周知する必要があります。
騒音問題や設備の故障など、社員寮におけるトラブルは意外と多く、規定をきちんと作っていなかったせいで
問題がこじれてしまったケースも少なくありません。
最終的には会社への不信感が募り、離職につながってしまう可能性もあるので、導入する際には注意が必要です。
寄宿舎のメリットは職場の近くにあることで通勤時間のロスを軽減できたり、
寝食をともにすることで同じ業務を行う仲間同士の親睦を深められたりすることです。
社員寮や独身寮がある企業は、寄宿舎として届け出が必要なものかどうかを確認し、
寄宿舎がある企業は、従業員が快適な生活をすることで業務を遂行できるよう適切な運営を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
2021年4月から、『新収益認識基準』が適用開始となりました。
『新収益認識基準』とは、売上の計上を行うタイミングを定めたもので、
このルールが2018年3月に改められ、2021年4月より大企業は強制適用、
中小企業は任意適用となっています。
任意である以上、中小企業にとって今すぐに大きな影響があるとは言えませ
んが、取引先との関係上、知識が必要になることもあるため、押さえておい
た方がよい知識です。
今回は、新収益認識基準が定められた背景や、その内容について説明します。
新収益認識基準が制定されたねらい
収益認識基準について、従来は『売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって
実現したものに限る』とだけ定められていて、詳細なルールがない状態でした。
この企業会計原則が公示された1949年以降、各企業は長年にわたり、『実現主義の原則に従い』、それぞれのタイミングで
売上の計上を行ってきました。
商品の出荷時あるいは納品時など、商取引によって収益が実現したと考えられるタイミングを任意に設定し、
その基準により計上した売上を財務諸表に記録していたのです。
しかし、投資を呼び込むという観点では、このやり方に不都合が出てきました。
たとえば、同じ商品を取り扱う企業でも、商品の出荷時に売上を計上するA社と、
商品が納品された段階で売上を計上するB社では、財務諸表の内容が異なってしまいます。
その場合、同じ業種であるにもかかわらず、A社とB社の業績を正確に評価・比較することはできません。
これでは、投資家としても、どちらの企業が投資先として優れているのか、比較検討することが難しいといえます。
そこで政府は、財務諸表を作成するときの国際的なルールを定めたIFRS、いわゆる国際会計基準をベースに、
新しい収益認識の基準を2018年に公表しました。
それが、新収益認識基準です。
この新収益認識基準は、2021年4月1日以降に始まる事業年度から、大企業で強制適用となりました。
一部の大企業では4月1日より前にすでに新収益認識基準を適用し、これに基づいた売上の計上が行われています。
実際にどのタイミングで売上を計上する?
では、新収益認識基準では、どのタイミングで売上の計上が行えばよいのでしょうか。
新収益認識基準では、『履行義務を充足した時』に収益を認識すると定めています。
履行義務とは商取引における『サービスを提供するという義務』のことで、
充足とは実際にその義務を果たすという契約が履行されたことを意味します。
つまり、新収益認識基準では、サービスが提供され、支払いを受ける権利を得た時に売上を計上することになります。
そして、新収益認識基準では、収益を認識するために下記の5つのステップに沿うように定めています。
1. 契約の識別
契約に含まれる、商品やサービスの内容を確認します。
2. 履行義務の特定
契約のなかに、履行義務(顧客に提供する商品やサービス)がいくつあるかを特定します。
たとえば、業務用のパソコン1台を3年間の保証付きで取引先に納品したとすると、
『1台のパソコンを納品すること』と『3年間保証すること』の、2つの履行義務があることになります。
履行義務には、ある時点で充足するものと、一定の期間に渡って充足するものがありますから、
それらを分けなければなりません。
3. 取引価格の算定
取引の金額がいくらになるかを確認します。
先ほどの例でいえば、1台のパソコンと3年間保証の合計金額を算定することになります。
4. 履行義務に取引価格を配分
取引価格を履行義務ごとに配分します。
先ほどの例では、1台のパソコンと3年間保証のそれぞれの値段を算定することになります。
5. 履行義務の充足による収益の認識
それぞれの履行義務が充足したタイミングで、年度ごとに売上を計上していきます。
先ほどの例では、1台のパソコンは納品した段階で履行義務が充足するので、取引を果たした年度に計上します。
一方、3年間保証に関しては、当期・翌期、翌翌期の3期にわたって売上を計上することになります。
以上のように、新収益認識基準では、これまで各社がそれぞれのタイミングで行ってきた売上の計上を、
履行義務が充足されたタイミングで行うことになります。
商品とサービスをセットで販売しているケースなどでは、それぞれを分けて考えることがポイントとなります。
新収益認識基準は、中小企業には任意適用となっていますが、大企業と取引のある企業では、
取引先の売上計上時期がずれることで、自社に影響が出てくる可能性も十分にあります。
※本記事の記載内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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2019年4月に施行された働き方改革関連法により、現在では時間外労働の
上限規制が罰則つきで適用されるようになっています。
一方で、上限規制の適用が除外されていたり、経過措置として
2024年までは適用が猶予されていたりする業種・業務も存在します。
たとえば、研究開発業務、建設事業、自動車運転の業務、医師などが
これに該当します。
今回は、これらの業務の扱いについて、解説します。
上限規制の適用が除外されている『研究開発業務』
労働基準法では、原則として1日8時間および週40時間以内の労働しか認められておらず、
これを超えて従業員を働かせるには、『時間外・休日労働に関する協定』、
いわゆる『36協定』を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定を結んでいれば、時間外労働をしてもらうことが可能ですが、2019年4月に施行された
働き方改革関連法により、現在は月45時間・年360時間を超える残業は規制されています。
臨時的な特別な事情があり、労使が合意している場合はこれを超えてもかまいませんが、
それでも以下のルールを守らなくてはなりません。
●時間外労働は年720時間以内
●時間外労働と休日労働の合計は月100時間以内、2~6カ月平均で月80時間以内
●時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月まで
そして、これらに違反した場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。
しかし、この残業の上限規制を適用されていない職種があります。
それが、専門的・科学的な知識や技術をもつ人が従事する『新技術・新商品等の研究開発の業務』です。
これらは特定の時期に業務が集中することも多く、業務の特性を鑑みて、上限規制になじまないと判断されました。
どのような業務が研究開発業務なのか
では、どのような業務が『新技術・新商品等の研究開発の業務』に該当するのでしょうか。
具体的な範囲は個々のケースによって判断することが必要となりますが、
行政解釈では以下のものが該当するとしています。
(1)自然科学、人文・社会科学の分野の基礎的または応用的な学問上、
技術上の問題を解明するための試験、研究、調査
(2)材料、製品、生産・製造工程等の開発または技術的改善のための設計、製作、試験、検査
(3)システム、コンピュータ利用技術等の開発または技術的改善のための企画、設計
(4)マーケティング・リサーチ、デザインの考案ならびに広告計画における
コンセプトワークおよびクリエイティブワーク
(5)その他、(1)~(4)に相当する業務
これらの業務に従事する人については、上限規制の適用が除外されます。
IT関連の新サービスの開発業務や、デザイン、マーケティング、広告の作成業務などが、
これに該当すると考えられます。
注意したいのは、規制を超えて時間外労働をすることができるというだけで、
残業手当や休日手当などの割増賃金は労働基準法に則って支払う必要があるということです。
さらに、1週間あたり40時間を超える時間外労働を課し、その累計が月100時間を超えた従業員に対しては、
医師の面接指導を行うことが罰則付きで義務づけられています。
経営者は、医師の意見に基づいて、必要に応じた就業場所や職務の変更、有給休暇の付与などの
措置を講じる必要があります。
上限規制の適用が猶予されている業種・業務
上限規制の適用を一定期間猶予されている業種・業務もあります。
それが建設事業、トラック運転手やタクシードライバーなどの自動車運転の業務、医師といった業務で、
これらについては、上限規制の適用が2024年3月31日まで猶予されています。
2024年4月1日以降の適用条件については、以下のようになっています。
【建設事業】
災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制が全て適用されることになっています。
災害の復旧・復興の事業については、『時間外労働と休日労働の合計で月100時間未満、
2~6カ月平均で月80時間以内』とする規制は適用されません。
【自動車運転の業務】
特別条項付き36協定を締結している場合に限り、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
一方で、『時間外労働と休日労働の合計で月100時間未満、2~6カ月平均で月80時間以内』とする規制、および
『時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月まで』とする規制は適用されません。
【医師】
今後省令で定められることになり、その他の業種とは異なる規制が設けられる予定です。
このように、業種・業務によって残業の上限規制の適用除外や猶予はありますが、
だからといって、やみくもに残業を課してもよいわけではありません。
事業者は働き方改革関連法を含めた労働法の中身を正しく理解し、従業員の仕事量をコントロールしながら、
労働に従事させる必要があります。
※本記事の記載内容は、2021年7月現在の法令・情報等に基づいています。
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定款の作成や設立登記などを行い、晴れて会社を設立した後も、
実際に法人として運営していくには、税務関係、労働・社会保険関係の
さまざまな届出が必要となります。
このうちもっとも提出する書類が多いのが、税務関係の届出です。
届出に関しては、要件や書式などが細かく決まっており、書類によって
提出期限も異なるため、注意が必要です。
今回は、経営者なら知っておきたい、会社設立後に必要となる税務手続きに
ついて紹介します。
法人設立後に税務署に提出が必要な書類
会社設立後に必要となる税務関係の届出書類には、一般的に、『法人設立届出書』を筆頭に、
『青色申告の承認申請書』『給与支払事務所等の開設届出書』の3つがあります。
法人によっては、このほかの書類が必要となるケースもありますが、まずはこの3つについて、
確認していきましょう。
いずれも提出先は所轄の税務署となります。
●法人設立届出書
会社を設立した事実や代表者氏名、事業所の所在地、事業の目的など、いわゆる会社概要を
税務署に届け出るためのもので、税務関係の書類のなかでは最も基本的な書類です。
添付書類の『定款、寄付行為、規則又は規約等の写し』とともに、会社の設立の日以後2カ月以内に
提出しなくてはなりません。
提出すると、税務署から税金関連の書類が送られてきます。
●青色申告の承認申請書
確定申告の際に青色申告を行うための書類です。
確定申告には白色申告と青色申告があり、青色申告を選択すれば、少額減価償却資産(30万円未満)の
取得価額の損金算入や欠損金の繰越控除、欠損金の繰り戻し還付などが受けられるメリットがあるため、
こちらを選択する会社がほとんどでしょう。
青色申告をするためには、前もって青色申告の承認申請書を提出して承認を受ける必要があり、
提出しない場合は自動的に白色申告になります。
申請書の提出期限は、会社設立の日以後3カ月以内もしくは最初の事業年度の終了日のうち、
いずれか早い日の前日までとなります。
●給与支払事務所等の開設届出書
会社が従業員に給与を支払う際に、源泉徴収をするために必要な書類です。
事務所を開設した日から1カ月以内に届け出る必要があります。
法人設立届出書は自治体にも提出が必要
なお、『法人設立届出書』の提出先は、税務署だけではありません。
法人住民税や事業税などの地方税を納めるために、各都道府県の所管の県税・都税事務所と、
市区町村役場にも提出しなければなりません。
提出に関するルールは自治体ごとに定められているので、それに従うようにしましょう。
たとえば、東京都の場合、『定款、寄付行為、規約等の写し』と『履歴事項全部証明書の写し』を添付し、
事業を開始した日から15日以内に提出するよう定められています。
特例を受ける場合に提出が必要となる書類
以上にあげた書類のほか、特例等を受けたい場合などに任意で提出する書類として、
以下のようなものもあります。
●源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
従業員が常時10人未満の会社は、給与や賞与、税理士等の士業に係る源泉所得税を、
半年に一度の納付とする特例を受けることができます。
申請書の提出先は所轄の税務署で、提出した日の翌月に支払う給与等から適用されます。
●棚卸資産の評価方法の届出書
自社がどの方法で棚卸資産を評価するのかを税務署に知らせるためのもので、
提出しない場合は自動的に『最終仕入原価法』で評価することになります。
届出書は、最初の事業年度の確定申告書の提出期限までに、所轄の税務署に提出します。
●減価償却資産の償却方法の届出書
自社がどの方法で減価償却資産の償却を行うのかを税務署に知らせるためのもので、
提出しない場合は機械装置や車両運搬具、器具備品は自動的に『定率法』を採用することになります。
法人の減価償却の方法については、機械装置、車両運搬具、器具備品などは定額法と定率法のいずれかを
選択でき、建物、建物付属設備、構築物、ソフトウェアなどについては定額法で行うことが決められています。
届出書は、最初の事業年度の確定申告書の提出期限日までに、所轄の税務署に提出します。
会社設立の際の届出は記入すべきことが多く、手間がかかりますが、役所側から催促されることはないため、
経営者自身が忘れずに提出しなければいけません。
提出すれば節税効果が見込めるものもありますから、記入漏れなどがない状態で
期限内に提出できるように、しっかりと準備をしておくことが肝要です。
※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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従来のパートタイム労働法に労働契約法の一部が加わって
『パートタイム・有期雇用労働法』に改正され、2021年4月1日からは
中小企業にも適用されています。
非正規労働者の雇用環境を改善するためのさまざまな定めがあるなか、
同法第13条では、すべてのパートタイム労働者と有期雇用労働者に対して、
正社員への転換の推進措置を講じることが義務づけられています。
今回は、実際に事業者はどのような措置を講じればよいのか、
『正社員に転換するための措置』の具体的な内容について解説します。
正規労働者の雇用環境を整備するために
少子高齢化が進み、労働力人口が減り続けるなかで、日本では雇用者全体の37.2%が
非正規職員・従業員となっています(厚生労働省『労働力調査』より)。
パートタイム労働者や有期雇用労働者などの非正規労働者の重要性が増すなか、
非正規労働者がより能力を発揮できる雇用環境を整備するため、
『パートタイム労働法』が改正され、また労働契約法の一部が『パートタイム労働法』に加わり、
『パートタイム・有期雇用労働法』となり、2020年4月に施行されました。
中小企業については、1年遅れて2021年4月に施行されています。
パートタイム労働者とは、同一の事業所で働く正社員(無期雇用フルタイム労働者)に比べて、
1週間の所定労働時間の短い労働者のことをいい、有期雇用労働者とは、事業主と期間の定めのある
労働契約をしている労働者のことをいいます。
パートタイマーやアルバイト、契約社員や臨時社員に嘱託社員など、呼び名は異なりますが、
正社員ではなく上記の条件を満たしている労働者に、この法律が適用されます。
これにより、1人でもパートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用している事業者には、
さまざまな義務が課されることになりました。
その一つが、同法第13条で定められている『通常の労働者への転換義務』です。
パートタイム労働者や有期雇用労働者のなかには、通常の労働者として働くことを希望しながらも、
やむを得ずパートタイム労働者や有期雇用労働者として働いている人もいます。
パートタイム・有期雇用労働法では、そのような人たちに通常の労働者への転換を推進するための
措置を講ずることを義務づけています。
ここでいう“通常の労働者”とは、社会通念に従って通常と判断される労働者と定義されており、
いわゆる正社員のような無期雇用のフルタイム労働者のことを指します。
通常の労働者への転換義務は、従来のパートタイム労働法にも定められていましたが、
法改正によって、パートタイム労働者だけでなく有期雇用労働者も対象に含まれるようになりました。
正社員に転換するための措置の具体的内容
では、『通常の労働者への転換義務』の具体的内容を見ていきましょう。
正社員への転換を推進するため、事業者は(1)~(4)のいずれか、あるいはその他の措置を
講じなければいけません。
(1)通常の労働者を募集する場合、
その募集内容をすでに雇っているパートタイム・有期雇用労働者に周知する
会社が正社員の募集を行う場合に、社内の提示や回覧などで、業務内容や賃金などの募集内容を
パートタイム労働者や有期雇用労働者に周知するという措置です。
応募の機会を与えることが目的なので、たとえば新卒採用しか行っていない会社であれば、
応募できる対象者が限定されてしまうため、別の措置を講じる必要があります。
なお、義務化されているのは『周知』についてのみで、実際にパートタイム労働者や有期雇用労働者が
応募したかどうかや、採用するかどうかは問われません。
(2)通常の労働者のポストを社内公募する場合、
すでに雇っているパートタイム・有期雇用労働者にも応募する機会を与える
(1)の周知と同様に、パートタイム労働者や有期雇用労働者に対し、応募の機会を付与するもので、
実際に採用するかどうかまでは問われません。
ただし、採用はその人の能力や経験に基づく公正なものである必要があります。
(3)パートタイム・有期雇用労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設ける
正社員への登用試験を設ける措置で、事業所の実態に則した試験や条件を課す必要があります。
登用したくないからといって、必要以上に試験を難しくしたり、条件を厳しくしたりすることは禁止されています。
(4)その他通常の労働者への転換を推進するための措置
さらに、これらの措置を講じる際には、措置を講じるということを事業所内の掲示板に提示したり、
社内メールなどで告知したりするなど、措置の内容をパートタイム労働者や有期雇用労働者に随時
周知する必要があります。
雇用の転換措置は、客観的に見て公正で不満の出ない取り組みであることが大切です。
社内での意見も取り入れながら、正しい措置を講じていきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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税金の納付は国民の義務として定められています。
ただし、税務署が定めた課税額や、税金に関する処分に納得がいかない場合に
は、『不服申立て』をすることも可能です。
もちろん、根拠もないのに不服申立てはできませんが、税務署側に過誤があった
場合には、納税者の権利が認められ、支払った税金が戻ってきたり、処分が取り
消されたりすることも大いにあるのです。
今回は、いざ必要になった時のための、税金の不服申立てについて解説します。
不服申立てができる場合、できない場合
税務署から届いた通知で、身に覚えのない処分が下されていたら、誰しも慌ててしまうに違いありません。
そんな時には、一旦冷静になって、本当に間違っているのかを確認する必要があります。
もし、それでも税務署側の対応に不服がある場合には、税務署に再調査・審査を請求することができます。
ここで注意したい点として、すべての処分に関して、不服申立てができるわけではないことがあげられます。
まず、不服申立てができるのは、原則的に納税者の権利や、法律上の利益が侵害されている場合に限ります。
したがって、たとえば納税者が損をしていない『納付税額を減少させる処分』や『還付金額を増加させる処分』
については、不服申立てを行うことができません。
国税庁では、主に次のような国税に関する処分について、不服申立てができるとしています。
●納付税額を増加させる更正処分
●申告のない場合に納付税額を決定する決定処分
●更正の請求に対して行われた更正をすべき理由がない旨の通知処分
●加算税の賦課決定処分
●青色申告の承認の取消処分
●差押え等の滞納処分
●納税告知処分
このほか、登録免許税について登記官が行った処分や、自動車重量税について国土交通大臣等が行った処分など
に対しても、管轄は税務署とは違いますが、不服申立てを行うことが認められています。
そして、再調査や審査の結果、これらの国税に関する処分に誤りが認められれば、処分が取り消し、
もしくは変更されることになります。
ちなみに、誤って納付税額を過大に申告してしまった場合などについては、申告した納付税額を正しい税額に
是正する『更正の請求』の手続きを行うことが可能です。
『再調査』や『審査』で正当性を確かめる
不服申立ての手続きは、まず、処分を行った税務署長等に対して、再調査の請求をするところから始まります。
再調査の請求は、処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内に、税務署長等に再調査の請求書を提出します。
請求書は、原則として正本と副本の2通です。
この請求書を受理した税務署長等は、その処分が正しかったかどうかを調査・審理して、
その結果を納税者に通知することになっています。
この再調査は、課税処分を取り消してもらうことが主な目的です。
また、取り消してもらえなかったとしても、少なくともなぜ課税されたのかについては明らかになるため、有用です。
調査の結果を受けて、納税者が納得できれば不服申立ては終了になりますが、納得できない場合は、
国税不服審判所長に審査請求をすることができます。
この審査請求は、再調査の請求を経ずにすることも可能ですが、審査請求のあとに再調査を請求することは
できません。
なお、審査請求の期間については、再調査の請求を経ない場合、処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内です。
再調査の結果を受けてから審査請求をする場合には、再調査の結果通知を受け取った日の翌日から、
1カ月以内と決まっています。
期間を過ぎた請求は認められません。
審査請求を行う場合にも、再調査の請求と同じく審査請求書の正本と副本の2通を国税不服審判所の支部に
提出します。
この審査請求書が受理されると、国税不服審判所で調査や審理が行われ、裁決の結果は裁決書謄本により
納税者に通知されます。
ちなみに、登録免許税について登記官が行った処分と、自動車重量税について国土交通大臣等が行った処分に
関しては、審査請求のみを行うことができます。
もし、この裁決でも不服が解消されなければ、裁決書謄本を受け取った日の翌日から6カ月以内であれば、
裁判所に訴えることができます。
また、審査請求を行った日の翌日から3カ月が経っても裁決が下されない場合には、裁決を待たずに、
訴訟を起こすこともできます。
税務署が誤った判断を下すようなことは、そもそもあまり起こらないといってよいでしょう。
ただ、もしも納税額や処分を見て「おかしいな」と感じたとしたら、まずは申告内容や税率、
記録をよく調べることが大切です。
税務署が過誤を起こしてしまうことはあり得ますし、万一の場合には、納税者の権利を主張することも
可能ですので、まずはそのことを知っておきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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消費税には取引に応じて課税・不課税・非課税・免税の4つの税区分が
あります。
非課税と不課税は消費税が課されず、免税は消費税が免除されます。
この3つは消費税がかかりませんが、その理由が異なるため、申告や納税時には
区分を間違えないよう注意が必要です。
そこで今回は、この3つはどのように違うのか、
会計処理の際にどのように区別すればいいのかという基本を説明します。
まずは不課税と非課税の違いを知ることが大切
法律によると、消費税の課税対象は『国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、
貸付及び役務の提供と外国貨物の引取り(輸入取引)』となっています。
この消費税の会計処理はなかなか複雑です。
たとえば、私たちは日本国内で何かを買ったりサービスを受けたりしたときには消費税を支払います。
そして代金を受け取るお店は、その消費税を国に納付する必要があります。
本来であれば、事業者は預かった消費税を国にそのつど申告して納税するべきなのかもしれません。
しかし、そのために毎回、処理を行うのは、あまり現実的ではありません。そこで、日本では1年など
の一定期間でまとめて消費税の額を計算し、国に申告・納付することになっています。
ただし、一定期間分まとめて申告・納付するとなると、今度は計算する項目も多くなりやすく、
預かった消費税の額と支払った消費税の額を間違えて計上してしまった結果、受けられるはずの還付が
受けられなかったり、逆に後から間違いを指摘され、ペナルティを受けたりするケースもあります。
また、会社として受け取るお金の全てに消費税が課税されるわけではありません。
全ての支払いに消費税が課税されるのであれば、複雑な計算は必要ないでしょう。
しかし、種類によって消費税がかかるものとかからないものがあるため、消費税の計算は複雑に
なりがちです。
消費税がかからないものについても『非課税』と『不課税』があり、経理処理の際に頭を悩ませる
要因といえます。どんなものに消費税がかからないのか、かからない場合でもそれが非課税なのか不課税
なのかを把握しておくことがとても大切です。
それぞれ異なる消費税がかからない理由
消費税は『国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等と輸入取引に対してかかる
税金』のため、これに当てはまらないものは不課税となり、消費税がかかりません。
たとえば、海外でEC ショップを運営して海外の消費者に商品を販売するときには不課税となります。
また、対価を得ない寄附や財産の贈与についても不課税となります。
こうした取引を行うときは、不課税としての処理をする必要があります。
一方、『国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等』であっても、消費に負担を
求める税という意味合いになじまないものや、社会政策的な配慮を理由として消費税が課税されない取引もあり、
これは非課税として取り扱います。
たとえば、預貯金の利子や社会保険の給付などが該当します。
これらは非課税取引としての処理が必要となりますが、非課税取引は種類が多く煩雑になりやすいため、
経理処理をするときには注意が必要です。
消費税がかからないものには、不課税や非課税のほかに『免税』もあります。
本来ならば課税対象でありながら消費税が免除されるもので、免税店での取引や輸出取引などがこれに当たります。
非課税と免税の違いの一つは、その取引のために行った課税仕入れについて、仕入れ税額を控除できるかどうか
という点です。仕入れの際にかかった消費税について、非課税取引では控除できないのが原則ですが、
免税取引では控除することができます。
誤申告を防ぐためにも、消費税について理解しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。
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『36協定届』は、正式には『時間外・休日労働に関する協定届』といい、
会社が従業員に対して法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を命じるため
には、これを所轄の労働基準監督署に届け出ておく必要があります。
この36協定届が2021年4月1日から新しい様式になり、これまで必要だった
押印や署名が不要になったほか、労働者代表についてのチェックボックスが
新設されました。
それぞれ詳しく解説していきます。
使用者と労働者代表の押印と署名が不要に
労働基準法施行規則等の一部が改正され、2021年4月1日から、『36協定届』の様式が新しくなりました。
1点目の変更点は、使用者と労働者代表の押印・署名が不要となったことです。
ただし、これは署名・押印をした『36協定書』を交わしていることが前提であり、
『36協定届』が『36協定書』を兼ねる場合は、従来と同じく押印・署名が必要となります。
36協定は、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合や
法定休日に労働させる場合に、使用者と労働者が締結する労使協定です。
協定を締結する際には、使用者と労働者代表との間で書面による合意が必要となるため、
36協定書を作成します。
そして、その内容を36協定届の様式に記入し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
この36協定届は36協定書を兼ねることができるため、36協定届のみを作成している企業もあるでしょう。
その場合は従来どおり、労使双方の合意がなされたことを示す押印・署名が必要になります。
労働者代表に関するチェックボックスが新設
2点目の変更点は、労働者代表についてのチェックボックスが新設されたことです。
ここでの労働者代表とは、企業で働く従業員の過半数で組織する過半数労働組合か、
もしくは、労働者の過半数を代表する過半数代表者のことを指します。
チェックボックスは、この労働者代表に関して、正式な手続きを踏んで選出された者であること
などを確認するために設けられました。
もし、事業所に過半数労働組合がない場合は、36協定の締結をする者を選ぶということを
明確にしたうえで、投票や挙手などの方法で労働者の過半数代表者を選出しなくてはなりません。
そして、その選出方法を36協定届に記載する必要があります。
過半数代表者を選出する際に留意したいのは、使用者である企業側が労働者の代表を
選出できないということです。
過半数代表者は、正社員はもちろん、パートやアルバイトなども含めた全ての労働者によって
選出されなければならず、使用者の意向に基づいて選出してはなりません。
また、管理監督者が過半数代表者になることもできません。
もし、適切に過半数代表者が選出されていない場合には、36協定は無効となり、
使用者による時間外労働命令や休日勤務命令も効力がなくなります。
過去には、残業命令に従わなかった従業員を解雇したが、36協定が無効とされた結果、
解雇自体も無効となった判例があります。
企業側は、適切な選出方法で過半数代表者が選ばれているか、確認しておきましょう。
電子申請による届出が推奨されている
現在は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、労働基準監督署に直接出向いて
届出や申請をすることは控えるように通達が出ており、36協定届も電子申請で行うことが
推奨されています。
電子申請は、政府が運営するポータルサイト『e-Gov(イーガブ)』から行うことができます。
36協定届のほかにも、就業規則の届出や1年単位の変形労働時間制に関する協定届、
最低賃金の減額特例許可申請など、労働基準法や最低賃金法などに定められた届出や申請は
電子申請が可能です。
e-Govからアカウントを登録し、フォーマットに必要事項を入力するだけで手続きができるため、
導入を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、新しい36協定届の記入方法などは、厚生労働省のホームページの周知用リーフレットで
確認することができます。
36協定届を提出した後は、協定を締結したことを各作業場の見やすい場所に常時掲示したり
書面を交付したりして、従業員に周知しましょう。
36協定届は、時間外労働や休日労働を命じるために必要不可欠なものです。
漏れのないように正しく記載して、届け出るようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
2021年4月1日から、消費税課税事業者に対して、
本体価格に消費税分を加えた『総額表示』が義務付けられました。
1日以降、商品の値札やチラシ、ホームページの商品紹介などに掲載するのは、
税込の総支払額表示になります。
消費者には、支払額がひと目で分かり、大いにメリットがあるこの施策。
事業者にとっては、値上げに見える、表示の入れ替え作業に手間がかかる……などの難点もありますが、
消費者のためにも徹底したいところです。
今回は、義務化された総額表示について、その経緯や内容を解説します。
これまで免除されていた総額表示が義務化に
商品を購入する時、税抜価格で表示されていると、消費者が『支払うべき総額』が
わかりづらくなってしまいます。
そこで、事業者には原則的に、総額表示が求められてきました。
ただし、2014年4月から2019年10月にかけては、消費税の段階的な引き上げが行われていたため、
その都度、事業者が表示の切り替えに対応するのは負担が大きいと考えられました。
そこで、2021年3月31日までの期間は、条件を満たせば総額表示が免除されるということが、
『消費税転嫁対策特別措置法』で定められていました。
この措置法が3⽉31⽇をもって失効したことにより、4月からはすべての商品に関して、
再び総額表⽰が義務づけられています。
したがって、値札はもちろん、チラシやホームページの商品紹介、ポスターや広告など、
消費者に対する価格表⽰は、すべて総額表⽰に切り替える必要があります。
ここでいう総額表示とは、いわゆる税込価格のことです。
国税庁によると、以下のように価格を表示することが、総額表示に該当するとしています。
●11,000円
●11,000円(税込)
●11,000円(税抜価格10,000円)
●11,000円(うち消費税額等1,000円)
●11,000円(税抜価格10,000円、消費税額等1,000円)
●11,000円(税抜価格10,000円、消費税額等10%)
●10,000円(税込価格11,000円)
この際のポイントは、支払総額である『11,000円』が表示されていれば、
消費税額等や税抜価格を併せて表示することも可能だということです。
大切なのは、支払総額が消費者にひと目でわかるという点なのです。
総額表示に切り替えるにあたっての注意点
では、もしも総額表示に切り替えていなかった場合、どのようなことが起きるのでしょうか。
実は、特に罰則などがあるわけではありません。
ただし、消費者の勘違いを誘導するような表示を行っていた場合は、
『不当景品類及び不当表示防止法』違反になる可能性があります。
何より、いつまでも表示が税抜価格のままでは、消費者の不信感を招くことにもなりかねないので、
総額表示への切り替えがまだであれば、早急に変える必要があります。
総額表示に切り替える際の注意点としては、消費者に分かりやすいように表記するということがあげられます。
小さな文字で価格を表示したり、商品に値札を貼らずに、棚だけに価格を掲示したりといったやり方は、
誤解につながるとされ、明瞭にするように求められています。
また、メーカーから税抜の希望小売価格が表示されたパッケージで商品が届いたり、
税抜表示だった頃の商品などを販売したりする場合は、価格の上にラベルを貼ったり、
POPで周知を図ったりして、税込価格を分かりやすくする必要があります。
一方で、商品ではない100円ショップの看板や、1万円均一セールなどのポスター、
さらに小売店用に作成されたカタログ、見積書や契約書、請求書などに関しては総額表示の対象にはなりません。
総額表示の義務が発生するのは、あくまで『消費者に向けた商品』のみとなります。
総額表示義務は、事業者にとっては何かと負担の増える施策ではありますが、
消費者のためにもしっかり対応していきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
会社に入ってくるお金には、扱っている商品やサービスの対価となる
『売上』以外にもさまざまなものがあります。
もし、この区別が曖昧になってしまった場合、後々の会計処理に
どのような影響が出るのでしょうか。
今回は、収益と費用に関する用語について解説します。
違いを知っておきたい会計上の5つの利益
会社に入ってくるお金のことを『収益』と呼びます。収益は、大きくは『売上』と『売上以外』に分けられます。
『売上』とは、商品やサービスの対価のことで、
たとえば、レストランが顧客に料理をサーブして得るお金は売上に分類されます。
一方、銀行の預金利息などは、『売上以外』の収益となります。
そして、収益から経費などの費用を差し引いたものを『利益』といいます。
利益には、以下の5つの概念があります。
●売上総利益
売上高から『売上原価』を引いたもの。売上原価とは、商品やサービスの仕入れ・製造に必要な費用のこと
をいいます。
●営業利益
会社が本業によって得た利益のこと。売上総利益から『販売費および一般管理費』(以下、販管費)を引いた
ものとなります。販管費とは、商品やサービスの販売や、管理に直接要した費用のことをいいます。
人件費や光熱費、広告宣伝費などがこれにあたります。
●経常利益
経済活動において経常的、反復的に生じる利益のこと。本業の利益(=営業利益)に、資産運用をして得た収益
や銀行の預金利息など、本業以外から得た収益や費用を足し引きしたものです。
●税引前当期純利益(法人税等を差し引く前の利益)
経常利益に、その期だけに例外的に生じた特別利益や特別損失を足し引きしたもの。
●当期純利益
全ての収益から全ての費用を引いて残ったもの。税引前当期純利益から法人税等を引いた最終的な利益の
ことです。
営業利益を間違えて計上したらどのような影響が出る?
もし会計ミスをして、営業利益にあたるものを営業外の利益として計上してしまっても、法人税額は
変わりません。法人税は税引前当期純利益をもとに算出するため、利益の計上先を誤っても影響はない
のです。
ただし、営業利益と経常利益は会社の業績を判断する指針でもあるため、計上先を間違えると
正しく経営状態が把握できなくなる恐れがあります。利益面は、金融機関から融資を受ける際に見られる部分
でもあるので、課税額に影響しなくとも適宜修正しましょう。
次に、『費用』の種類を見ていきましょう。
費用は、『売上原価』と『販売費および一般管理費』(販管費)の2つに大きく分けることができます。
それぞれの意味はすでに述べたとおりです。
では、費用の計上先を間違えた場合はどのような影響があるでしょうか?
たとえば、売上原価に当たるものを販管費に計上したり、その逆を行ったりすると、
売上総利益の数字が変わることになります。
そうなると営業利益の数字にも影響が出てしまい、前述と同じく、金融機関の融資の審査に影響が出るなど
のリスクが発生します。
会計処理を誤ると、その箇所だけでなく、ほかの項目にまで影響がおよぶことがあります。
収益と費用についてしっかり理解し、些細なミスでも、見つけたらすぐに修正する習慣をつけておきましょう
※本記事の記載内容は、2021年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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事業者が法人登記を行い、事業をスタートさせた時点で、
法人には納税義務が生じます。
法人が納める税金のうち、代表的なものとしてよくあげられるのが、
法人税、法人住民税、法人事業税からなる『法人3税』です。
どれも似たような名前の税金ですが、法人税は国税で、残りの2つは地方税
という違いがあり、納税先が異なるうえに、税金のかかる対象も変わってきます。
会社を運営していくにあたり、これらの違いをしっかりと理解しておくことが重要です。
今回は、法人3税の基本的な内容について解説します。
法人税の計算方法や申告期限
会社を運営していくうえでは、消費税や固定資産税など、さまざまな税金を納めていかなければなりません。
特に法人3税は、会社が納める税金のなかでも比重が大きく、とても重要な税金です。
法人3税は、法人税、法人住民税、法人事業税で構成され、それぞれ性質が異なります。
まず、法人税は、会社の利益に対して課せられる税金で、個人でいうところの所得税に該当します。
ただし、個人の所得税は所得に応じて税率が変わる累進課税なのに対し、
法人税は、一部例外はあるものの、原則的に税率は固定されています。
所得の低い中小企業などには軽減税率が適用され、基本的には法人税率23.2%で計算を行います。
法人税の納税額は、『所得×法人税率』で求めることができます。
ここで注意したいのが、所得をみちびくための費用の取り扱いです。
会計上、利益は収益から費用を引いて求めますが、必ずしも、『損金=費用』ではありません。
費用のなかには、駐車違反の罰金や税金の延滞金など、会社のために使用したお金であっても、
損金にならないものもあるからです。
収益から費用を引いたものは『利益』と呼び、税務会計上の所得とは上記のような考え方の違いから
ズレが生じます。
そのため、税務会計上の所得は、会計上の利益に様々な調整を行うことにより算出されます。
その点に注意し、正しく所得を求めるようにしましょう。
ちなみに、こうして算出された法人税額に基づいて、法人税の申告と納税を行うことになります。
申告期限は、事業年度が終了した日の翌日から2カ月以内となっているので、忘れずに提出しましょう。
法人住民税と法人事業税は地方税
法人税が国税なのに対し、法人住民税は地方税です。
したがって、会社の事業所がある地方自治体に納税することになります。
法人住民税は個人の住民税と同様に、都道府県民税と市区町村民税に分かれています。
東京23区に事業所がある場合のみ、例外的に都民税として、ひとまとめになります。
法人住民税は、法人税割と均等割で構成されており、法人税割が法人税額を基礎として課税されるのに対し、
均等割は資本金や従業員の数に応じて課税されます。
つまり、均等割は定額で課税されるため、たとえ赤字によって法人税額が0円だったとしても、
納税の義務が発生するのです。
たとえば、東京都の場合は、資本金1,000万円以下で従業員が50人以下の企業の場合、均等割額は7万円です。
1,000万円超から1億円以下で、従業員が50人超の企業であれば、20万円と定められています
(いずれも1つの特別区内のみに事務所等を有する法人のケース)。
そして、法人事業税も、法人住民税と同じ地方税です。
そもそも、法人事業税は、どの会社も事業を行う際に各都道府県の行政サービスを受けているため、
その費用を負担するべきという考えに基づいた税金です。
したがって、納税先は事業所のある都道府県になります。
法人事業税は、『所得×法人事業税率』で求めることができますが、
法人事業税率は各自治体の規定によって異なります。
なお、法人事業税は、法人税や法人住民税とは異なり、経費として損金算入ができるという特徴があります。
申告書を提出した事業年度の経費になるので、忘れずに計上してください。
ちなみに、法人住民税と法人事業税の申告書の提出期限も、法人税と同じ、
各事業年度終了の日の翌日から2カ月以内となっています。
これら法人3税は、法人に関する税金のなかでも、もっとも基本的なものです。
実際の申告や納税などは専門家に任せる場合もありますが、知識があるに越したことはありません。
法人を営むうえで、大切な法人3税。
基本的な要素について、いま一度確認しましょう。
※本記事の記載内容は、2021年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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近年、『デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)』
という言葉が注目を集めています。
DXと略されるこの言葉は、もともとは『IT技術を使って人々の生活をよくしていく』
という社会的な概念で、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって
提唱されました。
では、DXは、従来の『IT技術を導入すること』とは何が違うのでしょうか。
そして、自社にどのように取り入れていけばよいのでしょうか。
今回はDXについて、その定義や具体的な事例などについて解説します。
文脈や立場で変化するDXの定義
2004年に、スウェーデンのストルターマン教授が提唱したDXという概念は、
近年、さまざまな意味を持つ言葉になってきています。
スウェーデンのウメオ大学で、情報技術と社会の関係性を研究していたストルターマン教授は、
DXを『IT・デジタル技術と現実が次第に融合していき、人々の生活がよくなるように社会・経済が
発展していくこと』と定義しました。
その後、2010年代に入り、DXはアメリカのビジネスパーソンたちの間で、『企業におけるビジネス戦略としての
IT技術を使った組織やビジネスの革新』という意味合いで使われるようになりました。
一方、日本の経済産業省は上記のような意味あいのほか、『IT技術を使って、これまでの旧型のシステムから脱却する』
という意味合いでも使用しています。
このようにDXは立場や文脈によってさまざまな解釈がある言葉です。
ストルターマン教授が、社会全体を広く俯瞰で捉えた、人類全体のテーマとしてDXを定義しているのに対し、
ビジネスパーソンの間では、デジタル技術を活用した、組織やビジネスの革新としての意味合いで使われています。
DXは、広義では社会的なテーマとして、狭義ではビジネス的な視点で語られているのです。
ここでは、デジタル技術による組織やビジネスの革新を行う、狭義のDXについて説明していきます。
DXを成功させた企業の具体例
これまでのいわゆる『IT化』が、ペーパーレスなどの業務の効率化を目的としていたのに対し、
DXは、そこから一歩進んで、デジタル技術によってビジネスの革新を進めていくという意味合いを持ちます。
業界のDXをけん引した具体例としてよく知られているのが、タクシー最大手の日本交通の例です。
日本交通は、2011年に日本初のタクシー配車アプリをリリースし、全国のタクシー会社に提供。
さらに、決済機とデジタルサイネージを兼ね備える後部座席設置型タブレットにより、
キャッシュレス決済の普及にも寄与しています。
これまで流しのタクシーをつかまえて行き先を告げ、現金払いが常識だったタクシー業界の顧客利便性をアップさせました。
また、AIを活用した配車システムの導入によって、さらなる革新も遂げています。
過去の人口動態データ、気象データ、公共交通機関の運行状況のデータ、大規模施設でのイベントのデータ、
タクシーの運行実績データなどをAIが分析し、乗車のニーズが多い場所をドライバーに知らせるという
需要予測システムを日本交通の子会社であるJapanTaxi(現・Mobility Technologies)とトヨタ自動車とで
共同開発したのです。
このシステムによって全体的な乗車率を底上げすることに成功しました。
タクシー全車の位置を毎秒把握するシステムも開発し、配車時間をこれまでの10分から5分に短縮することも
可能になりました。
このシステムによって、客と車をいち早く引き合わせ、ドライバーは、より効率的に稼ぐことができるようになったのです。
また、スウェーデンの企業スポティファイ・テクノロジーによって開発された、月額で音楽が聴き放題になる
『Spotify』も、DXの具体例としてよく語られます。
もともと音楽のダウンロード販売など、業界のデジタル化は進んでいましたが、定額で5,000万曲以上の楽曲が
自由に聴けるという『Spotify』のサービスは、音楽の聴き方そのものに大きな変化をもたらしました。
今では、全世界で約3億2,000万人のユーザーを抱え、有料会員数も約1億4,400万人と、
世界最大手のサービスに成長しました(2020年9月末時点)。
このように、DXによる革新は、さまざまな方面で画期的なメリットをもたらします。
ただし、そのためには先行的な投資とデジタル技術の導入だけでなく、それを裏付けるものとして
経営戦略や組織づくりまで変えていく必要があるかもしれません。
また、革新によりさらなる成長が期待できる企業がある一方で、古い技術に固執してしまう企業のなかには、
やがてその技術分野が廃れて企業社会から取り残され、事業の継続が難しくなってしまうケースも出てくるでしょう。
そのような企業にとっては、DX推進に乗り遅れることは大きな損失につながる恐れがあり、
裏を返すと、DXを受け入れて自ら変わることこそが生存戦略となるわけです。
経済産業省は、従来のシステムでは企業の成長に限界があると指摘しており、DXによる早急なシステムや
組織の変革を推進しています。
どのようにDXを受け入れ、推進していくか、議論を重ね、自社にできることから少しずつでも変えていくことが
大切だといえるでしょう。
決算書は、間違えてしまっても、基本的には遡って修正ができないものです。
しかし、間違いがわかると、銀行から融資を受けるときに不利になる可能性が
あるなど、注意が必要です。
今回は、決算書を作ったあとで、内容をチェックするポイントをまとめました。
まずは前期の決算書と見比べて大きな違いがないか確認
決算書を見慣れていないと、できあがった決算書のどこを見ればよいのか迷うかもしれません。
そんな時は、前期の決算書と見比べてみるとよいでしょう。
まずは、前期に比べて金額が大きすぎるもの、小さすぎるものを確認していきます。
ただ、前期がイレギュラーな場合もありますので、その場合はさらに遡ってその前の決算書と比較します。
ポイントは、なぜこの数字になっているのかという理由が明確かどうかです。金額に大きな差がある項目を
拾って経理担当者に確認をしたり、月別の会計書類を見たりすることで理由が判明すれば問題ありません。
しかし、数字の根拠がはっきりしない場合、決算書に間違いが起きている可能性があります。
続いて売掛金も確認します。支払日の設定が月末の場合、売掛金には、1カ月分の売上額とほぼ同程度
の額が計上されることになります。そのため、決算書に残っている売掛金の額が大きすぎる場合、
回収できているのに会計処理がされていない可能性があります。また、逆に少なすぎる場合には、
売上が計上されていない可能性が考えられます。
これは、売掛金だけでなく、買掛金や未払金などの『計上とお金の動きにタイムラグがある』科目の
すべてに当てはまることで、注意が必要です。
予算と決算の乖離には要注意誤りはすぐに修正を
会社によっては、来期の予算を立てて事業計画を作るところもあるでしょう。決算書の確認では、
あらかじめ立てた予算と決算の数字に大きく差が生じていないかをチェックするのも、間違いを見つける
ポイントです。また、決算の数字には誤りがないものの予算を大きくオーバーしていた場合は、予算管理が
できていないことになります。経営者として、なぜそうなったのかを追及しなければなりません。
逆に、予算よりも少ない数字で落ちついた場合には、来期の予算はほかの部門に投資する方向にしようと
考えることもできます。
決算書は経営状況を知るほかに、法人税等や消費税を正しく申告・納税するための基礎資料にもなります。
決算書が間違っていたら、納税額も間違っている可能性があります。納税額に誤りがあることが分かったら、
早急に修正対応をしましょう。
原則として、決算書の間違いは修正できません。
株式会社の場合、決算書は株主総会で承認を得なければなりません。そのため、法人税等や消費税の申告期限後は、
基本的に決算書は修正できません。誤りを正す方法としては、次の会計年度で処理をすることになります。
また、法人税については、正しく計算し直した結果、納税額が増える場合は修正申告を行います。
逆に納税額が減る場合は、更正の請求を行います。更正の請求は期限が5年と決まっているため、
遅れないように注意しましょう。
このように、間違った決算書で確定申告をしてしまうと、あとで煩雑な手続きが必要になります。
そうならないためにも、ポイントを押さえてしっかり見直すことが大切です。
※本記事の記載内容は、2021年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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テレワークが普及しつつある現在、紙で保存していた帳簿を
電子データでの保存に切り替える企業が増えています。
こうした帳簿の電子化については、かなり前から関連法案の整備が進んでおり、
2020年度税制改正では、より実用レベルで活用しやすい法律に改正されました。
今回は、電子帳簿導入の要点や導入のためのポイントなどについて解説します。
コスト削減に大きく貢献する紙の電子化
これまで多くの企業で、税務関係の帳簿・請求書・領収書などの書類は、紙で管理されてきました。
税務上では帳簿などの書類を7年間(※)保管することが義務づけられているため、
当然その書類を保管するためのスペースも、管理するコストもかかっています。
※:平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては9年間、
平成30年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては10年間に延長
そこで、政府は1998年に、国税関係の書類については電子データでの保管を認める、
電子帳簿保存法を制定しました。
この法律では、『国税に関する会計帳簿や、請求書や領収書などを、紙ではなく電子データで保管してもよく、
その電子データを原本として取り扱うことができる』ということが定められています。
最初からPCなどで作成した書類はもちろん、もともと紙だった請求書や領収書などをスキャンしたものも
電子データとして認められることになりました。
その後、電子署名の省略が可能になり、デジタルカメラやスマートフォンなどで撮影された一
定の要件を満たした請求書や領収書などの書類も電子データとして認められるようになるなど、
電子帳簿に関連するさまざまな法律が、より実務的なものに変わってきています。
このように、スペースやコストの削減に大きく貢献する電子帳簿ですが、自社で導入する前に、
所轄の税務署長に対して、申請書を提出する必要があります。
具体的には電子保存をはじめる3カ月前までに、申請書類や電子保存のためのシステム概要を記載した
書類などを提出し、税務署長の承認を受けることで、はじめて電子帳簿を使い始めることができるようになるのです。
もし、これから電子帳簿を導入する際には、その点に留意しておいてください。
理解しておきたい『タイムスタンプ』のこと
請求書や領収書などの電子データ化によって利便性は高まりましたが、一方で、紙と比べて改ざんのリスクも
大きくなりました。
そこで、電子帳簿保存法では、電子データにタイムスタンプを付与することを義務としています。
タイムスタンプとは、ある特定の時刻に電子データが存在し、特定の時刻以降に不正な改ざんや修正が
されていないことを証明する技術です。
タイムスタンプに記載された情報を、オリジナルデータと照合すると、タイムスタンプが付けられた時刻から、
データが改ざんされていないことを証明することができます。
したがって、タイムスタンプがあれば、その書類に改ざんが行われていないかどうかを証明することが
可能になるのです。
このタイムスタンプについても、より実務に即した法改正が進められています。
2020年度税制改正では、電子データの保存条件が緩和され、領収書や請求書の発行者側と受領者側の両方で
タイムスタンプの付与が必要だったところ、発行者側でタイムスタンプを付与していた場合には、
受領者側で付与する必要はなくなりました。
ちなみに、このタイムスタンプを付与するには、タイムスタンプ発行のためのサービスを利用する必要があります。
複数のサービス事業者がタイムスタンプの発行ビジネスを手がけており、スタンプを付与する回数や、
月額・年額利用など、さまざまなプランを提供しています。
導入を考えているならば、自社に合うプランを比較、検討してみるとよいでしょう。
ほかにも、クラウド型会計・経費精算システムを導入して、各電子データにタイムスタンプを付与するという
方法もあります。
これまでの経費精算は、各社員が領収書をまとめ、紙やエクセル等に入力し、経理担当者が一つずつ
手作業で確認しながら仕訳するのが一般的でした。
クラウド型会計・経費精算システムでは、社員が外出先で領収書をスマホなどで撮影し、
アップロードすることで、自動的に仕訳が行われ、いつでも経費精算が可能というサービスが提供されています。
そして、スマホやスキャナで取り込んだ領収書をクラウドシステムにアップロードする際に、
タイムスタンプを自動で付与してくれるため、その後、タイムスタンプを付与する手間が一切不要になるのです。
これまで行ってきた帳簿作業を変更するには手間や時間がかかります。
しかし、電子帳簿はスペースの確保やコストの削減、業務の効率化など、長い目で見れば大きなメリットを
もたらしてくれます。
自社の実情を踏まえながら、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2021年2月現在の法令・情報等に基づいています。
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年に一度の期末決算は、企業にとって大切な節目の決算であり、
作成した決算書は納税や株主総会資料など多くの場面で活用されます。
しかし、通常業務をこなしながら期末決算も行う経理担当者にとっては
苦労も多く、法人税などの税金は、事業年度終了日の翌日から2カ月以内に
納付しなければいけないため、それらと合わせると進行スケジュールも
タイトになりがちです。
忙しいなかでも決算をスムーズに進めるためには、決算や決算後の流れを把握しておくことが大切です。
そこで今回は、期末決算やそれに関連する作業についておさらいします。
決算を楽にするのは日頃からの積み重ね
決算とは、その会社の1年間の収支や損益をまとめるための総括的な作業をいい、
会社法では、1年に一度決算を行い、決算書を作成することを企業に義務付けています。
決算作業には多くの時間が必要なため、経理担当者が一人しかいない場合や、
経営者が経理を担当している場合などは、ほかの仕事を棚上げしてかかりきりになってしまうこともあり、
中小企業の悩みの種になっています。
そのうえ、新年度の会計業務も発生するため、混乱を招かないためには相応の準備が必要です。
そもそも決算をスムーズに行うためには、普段から決算期を見越して、丁寧な経理業務を積み重ねていることが大切です。
仕訳科目に間違いがないか確認したり、打ち込んだ金額にミスがないか見直したりするなど、
普段から決算期に向けてデータを積み重ねる意識をもつことです。
その積み重ねてきたデータを最終的に『決算書』としてまとめていくのが、決算業務の本質なのです。
さて、決算書は『財務諸表』とも呼ばれ、会社の1事業年度の経営状況や成績、財政状態などを記してあることは
いうまでもありません。
決算作業では、『損益計算書』『貸借対照表』『キャッシュフロー計算書』『利益処分計算書』『附属明細表』
『株主資本等変動計算書』などを作成していくことになります。
特に、このなかの『損益計算書』『貸借対照表』『キャッシュフロー計算書』は『財務三表』という呼び名があるほど
重要視されています。
初めて決算書を作るときには、まずこれらについて調べてから取り掛かるとよいでしょう。
作成する準備としては、決算時に特有の『決算整理』という処理から行っていきます。
決算整理とは、資産や負債を評価しなおす作業で、当期の取引のなかで未処理のものがないか確認し、
売掛金などを整理して、帳簿が合っているかなどを確認します。
決算整理の段階で大きな取りこぼしをなくし、正確性を得ることが大切です。
続いて、現金残高や預金残高も帳簿と一致しているかを照合し、間違いがないかを確認します。
自社が現物を扱っている場合は、原材料や商品の在庫の数をチェックして、棚卸資産や売上原価も算定しましょう。
さらに自社の固定資産などの減価償却費や貸倒引当金も計算し、計上していきます。
一連の作業のなかで、在庫の確認作業については、棚卸しをして、実際の在庫の数を算出する必要があります。
作業時間を考慮して、余裕を持ったスケジュールを組むようにしましょう。
また、仕訳帳や総勘定元帳に誤りがないかを確認するために、決算整理の段階で作成する『試算表』というものもあり、
間違いや漏れがないようにチェックする際に役立ちます。
試算表を入念にチェックしたら、いよいよ決算書を作ります。
財務三表などの書類を、決められた書式でまとめていきましょう。
会社法においては、帳簿書類等の保存期間は10年と定められています。
通帳や棚卸表、領収書なども保存期間が決まっているので、きちんと保管しておく必要があります。
決算書作成が終わっても油断はできない
決算書が完成したら、株式会社の場合は、取締役会や監査役などの監査を経て、株主総会に提出します。
原則として、株主総会は事業年度末から2カ月以内に開催されるため、
その期間内に決算書をまとめなければならず、注意が必要です。
また、監査にも通常2週間ほどかかるため、決算に使える時間はさらに短くなるということも考慮しておきましょう。
また、作成した決算書を元に、税金の計算にも着手します。
税金の計算は残高が確定した段階でも行うことができるので、会社のスケジュールによっては、
決算書の作成前にすることも可能です。
税額が確定したら、法人税申告書にまとめて、決算書と共に税務署等に提出します。
決算業務は作業量が多く、毎年大変な思いをしている企業も多くあります。
しかし、決算に時間がかかってしまい、本業に支障が出てしまっては本末転倒です。
決算期をスムーズに乗り越えるためにも、普段の経理業務を丁寧にこなしながら、知識をつけていくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
大手企業は別として、多くの中小企業では社長が株主を兼ねているケースが
ほとんどです。
いわゆるオーナーとして会社に出資している立場ですから、
“会社のお金は自分のお金”という感覚になってしまう方もいるのではないでしょうか。
しかし、会社の資金を私物化すると、税務会計上のデメリットが発生する可能性が
おおいにあります。
そこで今回は、知っておきたいさまざまなデメリットについて説明します。
経営者と法人のお金は分けるのがルール
法律上では『経営者と法人は別人格』と定義されますから、
原則、経営者個人の資産と法人の資産は分けて考えなければなりません。
中小企業では、株主と経営者が同じ場合も多いことなどから、
資金の面でも公私混同をしてしまう経営者もいるようです。
しかし、経営者はあくまで自社を経営・管理する立場ですから、いくら会社に資金があったとしても、
経営者が自由に会社のお金を使ってよいわけではありません。
仕事とプライベートの財布は分けることが基本です。
決算書に『貸付金』があると融資が下りづらくなる
では、会社のお金を持ち出してしまったら、どんなデメリットが発生するのでしょうか。
たとえば、個人的な支払いのために会社の資金を10万円ほど持ち出し、使ってしまったとします。
その場合、10万円を会社から経営者に貸し付けたことにし、決算書では経営者への『貸付金』として計上します。
会社の貸借対照表には『短期貸付金』(決算日の翌日から1年以内に返済期日が到来する貸付金)や
『長期貸付金』(決算日の翌日から1年を超える返済期限で貸し付ける貸付金)という勘定区分で
記載されることになるわけです。
ちなみに、10万円が業務に関わる出費だったとしても、レシートや領収書など、証明できるものを紛失してしまうと、
その10万円は使途不明金になり、上記と同様に経営者への『貸付金』として処理することになります。
どちらのケースにせよ、会社の資金管理の甘さが目立ちますし、税務会計上でも、決してよいことではありません。
まず、決算書に貸付金があると、金融機関の融資が下りづらくなってしまいます。
金融機関がお金を貸すのは、そのお金が事業に使われることが前提であるため、
貸付金があると、「お金を貸しても経営者のプライベートのお金に流用されてしまう可能性があるのでは?」
と判断されてしまいます。
また、ずさんなお金の管理をしている会社だという印象につながり、
金融機関における自社の評価が低くなってしまうのです。
余計な税金や利子の支払いも生じてしまう
さらに、税務調査では本当に10万円が貸付金であることを客観的に証明しなければいけません。
もし、貸付金だということが証明できない場合は、その10万円は
会社から経営者への臨時ボーナスとみなされてしまいます。
そうなると事前に届出をしていないため、10万円が税務上会社の経費にならないばかりか、
経営者個人に対し10万円に対する所得税も課されてしまいます。
つまり、会社としても経営者個人としても税金を支払う必要が出てきますし、
もし10万円を経営者個人の所得として申告していない場合は、延滞税などの支払いも生じてしまいます。
10万円を貸付金であると証明するためには、会社にお金を返済していかなくてはなりません。
そしてこの場合、返済する金額には利子をつけることが定められています。
税務上、会社が経営者に無利子でお金を貸すことは認められていません。
会社は利益を追求するという原則のもとに成り立っているため、
たとえ経営者であったとしても、貸付金には利子が発生します。
役員または使用人に金銭を貸し付けた場合、その利息相当額は、
法令により貸付が行われた年に応じた利率が定められています。
たとえば、2018年~2020年中に貸し付けが行われたものであれば、1.6%です。
ただし、役員または使用人に、無利息または低い利息で金銭を貸し付けた場合に、
次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合には、上記にかかわらず、
給与として課税しなくてもよいことになっています。
(1)災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員又は使用人に、
その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
(2)会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、
この利率によって役員または使用人に対して金銭を貸し付ける場合
(3)(1)および(2)以外の貸付金の場合で、上記の利率により計算した利息の額と
実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合
このように、会社のお金をプライベートで使用すると、余計な税金を納めることになったり、
利子を付けて返さなくてはならなくなったりします。
持ち出しによって会社の資金が減るのはもちろんのこと、ずさんな経理をしていては、
従業員に対しても示しがつかず、信頼を失うことにもなりかねません。
そうならないためにも、会社の財布と個人の財布は別だという意識をしっかりと持って、管理を徹底していきましょう。
常に健全な経営を心がけることは、従業員や金融機関、取引先などと良好な関係を築くためにも大切なことです。
※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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出勤簿は、従業員の労働時間を記録するための書類で、
従業員の残業時間や深夜労働の時間を把握するために、なくてはならないものです。
また、労働基準法では、出勤簿の保存を義務付けており、
正しく管理・保管をしておかない場合、労働法違反になってしまいます。
今回は、従業員の労働スケジュールを把握し、適切な労務管理を行ううえで大切な
出勤簿の記入方法や管理方法などを説明していきます。
タイムカードと実際の労働時間の差を修正する
出勤簿は、賃金台帳や労働者名簿と並ぶ『法定三帳簿』の一つで、労働法によって
適切な管理が義務付けられています。
会社が従業員の労働時間を正確に把握し、適切な給与を支払うためのものであり、
基本的には、正社員やパート・アルバイトの区別なく、全従業員の労働時間を記入しなければいけません。
管理職に関しては、経営者と同じく自身の裁量で出退勤が可能なことが多いため、
必ずしも出勤簿に記入する必要はありませんでしたが、
働き方改革推進により2019年4月に改正施行された労働安全衛生法では、
管理職やみなし労働制の対象者についても健康管理の観点から労働時間の管理が義務付けられました。
そのため、原則としてすべての労働者には、労働時間管理の適正な把握のための出勤簿が必要となります。
タイムカードなどで従業員の始業時刻と終業時刻の記録を行う企業もありますが、
タイムカードだけでは出勤簿の代わりにはなりません。
なぜなら、タイムカードに打刻される出退勤の時間は、実際の労働時間とは一致しないことがあるからです。
タイムカードを押してから、すぐに労働に取りかかるのであれば問題ありませんが、
たとえば、仕事を始める前にコーヒーを飲んだり、雑談したりする時間もあるでしょう。
そういった時間を労働時間に含めてしまうことになります。
一般的に、タイムカードと実際の労働時間にはラグが発生するものです。
タイムカードを出勤簿として扱うには、作業日報や残業申請書などの資料と照らし合わせて、
実際の労働時間との差異がないことを証明しなければいけません。
従業員に作業日報をつけさせたり、残業申請書を提出させたりしたものを、
使用者が従業員の労働時間を算出するために有している記録と突き合わせることにより確認し、記録します。
そうして、実際の正しい労働時間を記入したものが、出勤簿として認められることになります。
労働時間の記録方法は2種類
出勤簿には、正確な労働時間を把握する目的のほかに、従業員の健康を守るという側面もあります。
従業員が働きすぎているのであれば、これを是正していかなければなりません。
厚生労働省による『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』のなかでは、
労働時間(始業・終業・休憩時間など)を原則的な記録法として、
以下の2種類のうちのいずれかと定められています。
(1)使用者による直接確認および記録
(2)タイムレコーダーなどの客観的な記録
(2)には、タイムカード、ICカード、IDカード、パソコンの使用時間の記録が含まれます。
もし、その2つの方法ではなく自己申告制で行わざるを得ない場合には、
●その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて
十分な説明を行うこと
●自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、
必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
●労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定しないこと
といった措置を講じるよう決められています。
さて、そういったいくつかの決まりがある出勤簿ですが、書式に関しては決まりがありません。
手書きでも電子媒体への記録でも、どちらでも問題はありません。
記入するのは、従業員の出勤日と労働日数、始業と終業の時刻、日別の労働時間、
時間外労働や休日労働の日付と時間、深夜労働の日付と時間などです。
出勤簿には、これらの客観的な時刻を記録するようにしましょう。
厚生労働省では、ICカードやスマートフォン、PCやタブレットを使用した出退勤の打刻を推奨しています。
エクセルなどで管理するのが簡単ですが、最近はWeb上でフォーマットが公開されていたりもするので、
それらを活用してもよいでしょう。
また、出勤簿は、労働基準法第109条によって、3年間の保存が義務付けられています。
出勤簿は労働基準監督署の調査に必要な書類なので、解雇や退職した従業員の記録であっても、
最低3年間は残しておくようにしましょう。
万が一、出勤簿を紛失したり、破棄してしまったりした場合には、
30万円以下の罰金が科される可能性があるので十分に注意してください。
出勤簿は、会社を経営していくうえで、欠かせない書類の一つです。
紛失してしまわないよう保管するのはもちろん、外部の人に見られないようにセキュリティ対策を講じておくことも重要です。
※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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法人には、法人税や源泉所得税、法人住民税や法人事業税に消費税など、
さまざまな種類の税金を納付する義務があります。
経営状況の悪化などの理由で税金を滞納すると、そのペナルティとして『延滞税』が
発生します。
さらに、それでも支払いを先延ばしにしていると、税務署から督促状が送られてきて、
最終的には資産を差し押さえられてしまう可能性もあります。
そこで今回は、なかなか実態を知ることができない、税金を滞納し続けた際の流れを追っていきます。
税金の滞納で資産を失う可能性もある
近年では、国税庁側の努力や、企業側の意識の高まりなどもあり、税金滞納の割合は減ってきています。
しかし、国税庁が発表した『令和元年度租税滞納状況』によると、令和元年度に発生した新規の税金滞納額は、
5,528億円にも上ることがわかりました。
内訳は、消費税が3,202億円で、所得税が1,249億円、法人税が765億円などです。
国税庁による未納者への納付指導などの防止策が功を奏して、前年よりも10%ほど少ない数字となりましたが、
依然として多額の滞納が発生していることには変わりありません。
企業が税金を滞納してしまう理由は、基本的には経営状況の悪化です。
会社の経営にはさまざまなコストがかかり、税金もその一つといえます。
金融機関からの借り入れなどで会社を回していたが、仕入れや人件費などで資金が無くなってしまい、
税金を納めることができなかったというケースもあります。
税金ごとに定められた納期限を過ぎると、自動的に滞納という扱いになり、延滞税というペナルティが
科されてしまいます。
延滞税は、『(納付すべき税額×延滞税率×期間(日数)÷365(日)』という計算式で求めることができます。
原則として、納期限の翌日から2カ月を経過する日までの期間は、延滞税率が年7.3%
(2014年1月1日以後の期間は、年『7.3%』と『特例基準割合+1%』のいずれか低い割合)となり、
2カ月を経過した日の翌日以降は年14.6%(2014年1月1日以後の期間は、『14.6%』と
『特例基準割合+7.3%』のいずれか低い割合)と高くなるので注意しましょう。
差し押さえまでにはいくつかのステップがある
税金を滞納し、さらに延滞税も支払わない場合、資産の差し押さえが行われます。
しかし、すぐに差し押さえが行われるわけではなく、いくつかのステップを踏むことになります。
まずは、納付期限から1カ月ほどを目安として、会社に督促状が送られてきます。
督促状とは、支払期日と金額が明示された請求書です。
納税が難しい場合は、督促状に書かれた問い合わせ先に相談することで、分割納付の可能性など、
納付に関するアドバイスをもらうこともできます。
しかし、役所にも相談せずに、督促状を無視していると、次は税務署から電話などで催促の連絡が入ります。
場合によっては、再び追加の督促状が送られてくるケースや、会社に担当が直接訪ねてくるケースもあります。
それでも税金を納めないでいると、ついに最終段階として、身辺・財産調査の後、差し押さえが行われるのです。
原則として、税務署は督促状を送った日から10日を経過した日までに滞納している税金を完納しないときは、
差し押さえが行えることになっています。
滞納者においては、督促状の発送日から10日を経過した日以降は、いつでも差し押さえられてしまうという認識で
いなければいけません。
差し押さえが行われる際には、まず『差押予告通知書』が届き、銀行口座がある場合には、
預金の差し押さえが行われます。
口座に現金が残っていない場合には、生活を送るうえでの最低限の衣服、寝具、家具、食料などの
『差押禁止財産』を除いた資産の差し押さえが行われます。
また口座の預金に関しても、給与、退職金債権および社会保険制度に基づくこれらに類する給付に関しては、
差押禁止財産となります。
差し押さえられた資産は、公売にかけられ、その売値が滞納分に充てられます。
差し押さえは資産を失うほかにも、社会的な信用の失墜や、融資が受けづらくなるなどの
さまざまなデメリットがあります。
そのぶん、督促状などによる注意喚起が行われますし、督促状が届いてもすぐに役所などに相談すれば、
差し押さえに至ることは少ないといえます。
一方で、故意に税金を滞納したり、督促を無視したりする悪質な滞納者には、
容赦なく差し押さえが行われるばかりか、刑罰に処せられることもあります。
税金を支払う能力がありながらも、納税を免れようとすると、国税徴収法の滞納処分免脱罪が適用されるのです。
納税は国民の義務であり、会社を経営していくうえで必要なコストといえます。
税金が払えなくなりそうであれば早めに税務署や専門家に相談するなど、
日頃から滞納しないための策を講じておきましょう。
※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業は、従業員への給与や社外の報酬などの支払いに対して、源泉徴収を行う
義務があります。
従業員への給与やボーナスなどの支払いと、社外の取引先に対する報酬などの
支払いとでは計算方法が異なり、特に従業員に関しては、事前に提出してもらう
申告書の準備なども必要になります。
そのため、経理担当者はしっかりとそれぞれの手続きについて理解しておく必要があります。
そこで今回は、会社が知っておくべき源泉徴収の大まかな流れと、計算方法を説明します。
源泉徴収は、従業員と社外の個人に対して行う
源泉徴収とは、特定の所得について、その所得の支払者が支払いの時に所得税額をあらかじめ徴収し、
国に納付することをいいます。
源泉徴収義務は個人への支払いに発生するもので、法人への支払いには発生しません。
社外の取引先であれば、弁護士や司法書士など特定の資格を持つ人に支払う報酬や、
個人に依頼した原稿料や講演料などを支払う際に、その都度、源泉徴収が必要になります。
一方、社内の従業員に関しては、給与や賞与、退職金などに対して、源泉徴収を行うことになります。
ただし、一定の金額以下の通勤手当や出張費、技術習得のために支給する費用などは源泉徴収を行う必要がありません。
これらの報酬や給与から源泉徴収した所得税は、原則として、支払いが発生した月の翌月10日までに、
所轄の税務署に納付しなければいけません。
それではここで、事業者が知っておくべき社内における源泉徴収の全体の流れを確認しましょう。
まず、従業員の源泉徴収について説明します。
1年の最初の給与を支払う前日までに、従業員に『扶養控除等(異動)申告書』を提出してもらいます。
この申告書をもとに所得税の扶養控除を適用します。
なお、所得税の対象となる『課税所得』は、給与総額から、通勤手当やさまざまな控除(社会保険料など)を引いた
残りの金額となります。
この課税所得に応じて定められている所得税を、事業者が毎月給与から源泉徴収し、翌月10日までに納付します。
しかし、源泉徴収は簡易的な計算方法で算出した仮の税額なので、1年の間に扶養が増えたり、
給与の増減があったりした場合、その額は変動します。
そのため、源泉徴収の額と、本来の課税額とズレが生じる可能性が高く、その過不足分の調整のために
『年末調整』を行います。
年末調整とは、その名の通り、毎年末に行われる所得税の過不足分を調整する作業のことで、
年末調整の結果、徴収額が不足していれば、年末調整の月の給与から不足分を差し引くことになりますし、
逆に徴収額が多ければ、還付を受けることになります。
ちなみに年末調整には、『扶養控除等(異動)申告書』のほか、
『基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書』や
『保険料控除申告書』など各種控除のための申告書が必要になります。
該当する従業員に提出してもらうのを忘れないようにしましょう。
そして、社外の取引先の源泉徴収についても説明します。
社外の取引先の報酬に関しては、報酬を支払うたびに定められた所得税を源泉徴収し、翌月10日までに納付します。
また、毎年1月にはその前年1年間に支払った報酬額と源泉徴収税額を記載した『支払調書』を取引先別に作成し、
税務署に提出します。
社外の取引先に関しては、通常、支払いを受けた本人が直接確定申告を行い、納税額の過不足を調整するため、
年末調整の必要はありません。
社内と社外で異なる計算方法
源泉徴収は社内と社外の支払いにより、計算方法も異なります。
社外への支払いは、相手が個人事業主になるので、基本的には
支払い金額×10.21%(所得税10%+東日本大震災の復興のための復興特別所得税0.21%)
の計算をもとに税額を算出し、税務署に納めます。
一方、従業員への支払いについての源泉徴収の計算は、先ほどの『課税所得』を求めた後、
国税庁の定めた『源泉徴収税額表』を参照し、算出した税額を税務署に納めます。
ボーナスなどの賞与に関しては、『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表』を参照して、徴収額を確認しましょう。
いずれも国税庁のホームページで確認できますが、一般的には、自社内の会計ソフトなどで自動的に計算する会社が
ほとんどです。
計算と同時にデータとして保存もできるため、会計ソフトを使うことは有用です。
とはいえ、事業者としては、源泉徴収の仕組みや全体の流れなどは知っておいたほうがよいでしょう。
源泉徴収は従業員を雇用したり、個人事業主などに仕事を依頼したりするうえで避けて通れないものです。
税金を正しく納め、会社の会計をスムーズに行っていくという観点からも、間違いのないように理解しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。
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