税務調査は納税者が申告した内容に誤りがないか確認するために行われます。
通常は「事前通知」といって税務署から連絡が来て、調査を実施する日を調整しますが、
事前通知は義務ではないため、飲食業や小売業など顧客から直接現金を受け取る『現金商売』の場合は
事前通知をせず、抜き打ちで調査が行われることもあります。
なぜなら、税務調査は現金が正しく計上されているか現場で確認する必要があり、現金商売の場合、
事前に通知してしまうと数字のごまかしや改ざんができてしまう可能性があるためです。
今回は、現金商売の税務調査について解説します。
店舗にいきなり税務調査官がやってくる!?
『現金商売』とは、飲食業や小売業のように、商品やサービスを提供した対価として、
顧客から直接現金を受け取る商売のことを指します。
そして、現金商売の大きな特徴は、お金の記録が残りづらいことにあります。
通帳に取引の履歴が残る振込などと比べると、現金での取引は履歴が残りづらく、売上を少なく計上するなど、
帳簿の改ざんも容易にできるため、税務調査の対象になりやすいといわれています。
それでは、もし現金商売で税務調査が実施されることになったら、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
まず、現金商売の税務調査は、店舗を中心に行われます。
調査の性質上、税務調査官(以下、調査官)は事前通知を行うことなく、抜き打ちで店舗を訪れることがあります。
一般的には営業時間外に調査を受けることになりますが、強制捜査ではなく、その多くが任意調査なので、
どうしても都合が悪ければ、調査官と相談したうえで調査の実施を延期してもらうことも可能です。
ただし、現金商売の税務調査の目的は、現場でその日の現金の動きを確認することです。
基本的には抜き打ちであっても調査を受け入れなければいけません。
調査官の訪問を受けたら、事業者は正式な調査官かどうか把握する目的で、
所属の税務署や氏名の確認や身分証明書の提示を求めてしっかりチェックしたうえで、店舗内に入ってもらいます。
調査には事業者の許可が必要になるため、事業者は必ず立ち会う必要があります。
また、その際には顧問税理士にも連絡して、立ち会ってもらうのが望ましいでしょう。
調査は税理士が到着するまで待ってもらいます。
調査では、レジロールや領収書の控え、売上伝票などの記録と、実際にレジや金庫に保管されている現金を照らし合わせ、
お金の動きにおかしなところがないか調べます。
また、売上の記録も入念に調査されます。
たとえば、申告している売上に対して、領収書の控えの枚数やレジの履歴が合わないと、脱税を疑われてしまうので注意が必要です。
『現金実査』で疑われないために大切なこと
一度、調査官に脱税を疑われてしまうと、細かい部分まで入念に調べられますが、
適正に現金が管理できていれば、そこまで煩雑なことにはならず、比較的スムーズに調査が終了します。
大切なのは、日頃から正しい現金管理を行なっておくことです。
現金の額と帳簿や伝票が一致しているかどうか、現金をどのように保管しているのかなどを調査することを
『現金実査』と呼び、現金商売の税務調査では必ずこの現金実査が行われます。
そして、現金実査で疑われないためには、帳簿や伝票と現金残高に差が生じないようにすることが重要です。
差が生じている日数が多ければ多いほど、調査官に疑われることになるため、帳簿や伝票と現金残高は毎日一致させるようにしましょう。
特に現金商売では、伝票の書き損じや、帳簿の書き忘れなどが起きがちです。
忙しくて手が回らず、現金を受け取ったものの、レジに打ち込むのが後回しになってしまうケースなどもありえます。
意図せず売上をごまかしてしまうことにもなりかねないので、現金を受け取ったら、すぐにレジに打ち込んだり、
伝票に記入したりするなどして、その都度、売上を記録するようにしましょう。
また、その日の営業が終了したら、現金残高と帳簿残高を突き合わせて、
差額が出た場合は、その原因を突き止める必要があります。
その日の現金売上は毎日、口座に入金すると同時に、現金出納帳などに記入し、記録として残しておきましょう。
現金に関してはもちろんですが、ほかにも在庫や仕入れ、経費の計上なども細かく調査されます。
特に個人商店では、個人的な支払いをレジに入っているお金で済ませてしまうなど、事業とプライベートの支出があいまいになりがちです。
顧問税理士などにも相談しながら、いつ税務調査が行われても問題のないよう、すべてにおいて適正な現金管理を行うことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
経費を計上する際には、金銭の受取があったことを証明する領収書が必要になります。
商品やサービスを提供した側は、民法によって領収書を交付する義務を負いますが、
さまざまな理由から領収書が発行されないケースもあります。
また、発行された領収書を受け取っていても、商品やサービスを購入した側が領収書を紛失してしまうこともあります。
手元に領収書がなければ、経費を計上することはできないのでしょうか。
領収書がない場合の対処法について説明します。
もし領収書を発行してもらえなかったら……
事業活動に必要な商品やサービスを購入した場合、その費用を経費として計上できます。
計上した経費は、収益から差し引くことができ、課税所得の額を減らすことにつながります。
日本は所得税、相続税、贈与税で所得や資産が多ければ多いほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。
個人事業主の場合、個人の所得を申告し所得税を納めることになるため、課税所得を減らせばその分、税負担を軽くできる可能性があります。
法人の場合は法人税を納めますが、必要な備品の購入費や接待交際費などを経費として計上することで、法人の所得を減らせ、
節税対策として活用することが可能です。
ただし、費用を経費として計上するためには、領収書が必要になり、支払先から領収書を受け取っていなかったり、紛失していたりする場合は、
経費として認められない可能性があります。
領収書は「受取証書」という書類の一種で、債権者が債務の弁済を受けたことを証明するために債務者に交付するものです。
債務というと一般的には借金をイメージしますが、法的には他人に金銭や物を渡す義務のことを指し、弁済とは債務が履行され、
債権を消滅させることを意味します。
債務の弁済と領収書の発行は「同時履行」といって、どちらも法的な義務となっており、
民法第486条では「弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる」と定めています。
平たくいえば、顧客が商品の提供を受けるのであればお金を払う義務があり、
お店はお金を受け取るのであれば商品を提供して、領収書を発行する義務があるということです。
原則として、利用者が求めた場合は領収書を発行する義務があるので、もし商品やサービスを購入して領収書が交付されない場合は、
お店や会社に領収書の発行を求めましょう。
売上をごまかす目的で相手が故意に領収書を発行しないケースもありますが、単純に渡しそびれていたり、
発行を忘れていたりすることがほとんどなので、発行をお願いすれば、通常は領収書を受け取ることができます。
もし、特に理由もなくお店や会社から領収書の発行を拒否された場合は、同時履行が成り立たないため、代金の支払いそのものを拒否しましょう。
領収書の代わりになるのはどんな書類?
領収書が発行されなくても、支払いの事実があったことを証明する書類があれば、「受取証書」として処理することができます。
販売者の名前をはじめ支払い先や取引のあった日付、金額や商品名などの必要事項が記載されたレシートは受取証書として領収書と同等に取り扱われます。
たとえば、小売店で商品を購入した際に、手書きの領収書を発行してもらうこともあるかと思いますが、
万が一発行してもらうことを忘れていたとしても、レシートがあれば問題はありません。
また、経費計上を行ううえでは、請求書や納品書、各種利用明細書、出金伝票なども領収書の代わりに利用することができる場合もあります。
注意したいのは、領収書を紛失してしまい、さらに領収書の代わりになる書類も存在しないケースです。
こうした状況では、取引先のお店や会社に領収書の再発行を依頼したいところですが、相手にしてみれば、本当に紛失したのか、
経費の水増しが目的なのか判別できないため、原則として再発行を断ることにしているお店や会社もあります。
領収書を求められた場合、発行する義務はありますが、再発行は義務ではないため、断られても無理強いはできません。
もし領収書を再発行してもらえなければ、出金伝票に支払い先や取引のあった日付、金額や商品名などを記入しておきましょう。
出金伝票は出金があった際に、その内容を記載しておく伝票で、絶対ではありませんが、この出金伝票の記録をもって経費が認められる可能性もあります。
また、すべての支払いをクレジットカードや銀行振込にすれば、カード会社や銀行に支払いの履歴が残るため、領収書の代わりに、出金があったことを証明できます。
前提として領収書を紛失しないように管理しておくことはもちろんですが、紛失しても問題がない仕組みを構築していくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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近年は検索や予約ができる専用のポータルサイトなども誕生し、誰でも気軽に『レンタルスペース』を利用できるようになりました。
レンタルスペースはいわゆる貸し会議室のようなルーム型から完全個室のボックス型に、
オープンスペースで固定席を利用するコワーキングスペース型まで、タイプもさまざまです。
こうしたレンタルスペースを借りる際の費用について事業のために使用したものであれば、経費として計上することができます。
今回は、レンタルスペースを利用した際の勘定科目について解説します。
『レンタルスペース』利用料金の勘定科目
多くの企業や自治体が貸し会議室やレンタルスペースの貸出を行なっています。
また、住宅やマンションの一室、古民家や撮影スタジオなど、空いているスペースを貸したい人と借りたい人をつなぐ
プラットフォームも利用者を増やしています。
「インスタベース」や「スペースマーケット」、「スペイシー」や「カシカシ」などが
代表的なレンタルスペースのポータルサイトとして知られています。
コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの浸透やシェアサービスの隆盛などもあり、
今後ますますレンタルスペースの需要は高まっていくのではないでしょうか。
ビジネスシーンにおいても、会議やセミナーだけではなく、物販会場や面接会場、顧客向けの体験教室など、
レンタルスペースの利用は多岐にわたり、アイデア次第でこれまでにないユニークな使い方ができるようになりました。
レンタルスペースの利用の多様化が進むなかで、気になるのが費用の仕訳です。
レンタルスペースの利用料金も会議やセミナーなど、事業に必要なものであれば経費として計上できますが、
適切な会計処理を行うためには、レンタルスペースの利用料金の勘定科目を把握しておかなければいけません。
では、実際にどういった勘定科目で仕訳をしていけばよいのでしょうか。
実は、レンタルスペースの利用料金の勘定科目は『利用目的』によって異なります。
たとえば、レンタルスペースを会議やミーティング、商談、株主総会などで利用した際は、勘定科目は「会議費」で分類します。
会議やミーティングの際のコーヒー代や弁当代なども会議費に含まれます。
会議に付随するものは、すべて会議費に分類して問題ありません。
一方、同じレンタルスペースを利用したとしても、社員研修や社内向けのセミナーなどに使用した場合は「教育訓練費」や「研修費」で分類します。
会議費と同様に、研修時に使用するテキスト代などは教育訓練費や研修費に含まれます。
また、レンタルスペースで新商品のPRを目的とした展示会や発表会、記者会見や説明会などを行なった場合は「広告宣伝費」に分類します。
レンタルスペースからオンラインの展示会に参加したり、商品PRの動画配信などを行なったりした場合も、広告宣伝費で問題ありません。
オフィスとして利用した場合の勘定科目
会議や展示会などではなく、レンタルスペースをオフィスとして使用した場合は、どの勘定科目が適しているのでしょうか。
オフィスとして使用する場合は、『利用頻度』や『利用目的』によって勘定科目が異なります。
たとえば、オフィス環境を共有するコワーキングスペースとしての利用や、月1~2回ほど単発で利用するのであれば、
その費用については「賃借料」や「会議費」に分類できます。
1週間に複数回利用するなど、定期的に利用しているケースでは「賃借料」が適しているでしょう。
本社から離れた場所で機能させるサテライトオフィスとして、月契約でレンタルスペースを利用する場合は、
毎月の固定費が発生することになるため、費用を「地代家賃」に分類します。
レンタルスペースは賃貸物件のような賃貸借契約ではなく、あくまで利用契約に過ぎません。
しかし、勘定科目は契約の内容に左右されず、利用目的などによって判断されます。
勘定科目は利用目的や頻度に応じて自由に決めることができますが、社内で仕訳の方法を統一しておかないと、混乱を招くおそれがあります。
施設の利用目的と勘定科目を統一しておき、同じ目的でレンタルスペースを利用した際は、同じ勘定科目を使うようにすることで、帳簿が整理できます。
会社や事業内容によって仕訳の方法は異なるので、もし費用の計上や勘定科目で迷ったら、専門家に相談するようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業を経営するうえで欠かせない経理業務ですが、創業間もない会社や個人事業主などは、
験のある経理担当者を雇用する余裕がなく、経営者みずからが経理業務を行うことも少なくありません。
しかし、経理業務は専門的な知識が必要なうえに、ミスが許されない業務です。
作業も複雑で手間がかかるため、経理業務に追われて本業に注力できなくなるという本末転倒な状況は避けたいところです。
そこで、検討したいのが経理のアウトソーシングです。
経理業務に追われている経営者に向けて、経理のアウトソーシング導入のポイントを解説します。
経営者が経理業務を担当するリスク
経理業務は日々の取引やお金の流れを数値化して管理する業務のことです。
おおかまには、売上(売掛金)や仕入(買掛金)の記録、請求書や領収書の処理など「社外取引に伴う入出金などの管理」と、
給料の支払や預金・現金管理などの「社内の資金などの管理」に分けることができます。
また、企業の規模によっても異なりますが、課税に必要な所得額を算出する税務会計や、
株主や銀行などに向けて経営状況を報告する財務会計なども、経理業務に含まれます。
こうした膨大で煩雑な経理業務を、小規模な企業では少人数もしくは一人で行わなければいけません。
人員に限りがある会社では、経営者が経理担当者を兼任するケースも珍しくありません。
しかし、経営者は必ずしも経理の専門家ではないため、思わぬミスが発生してしまったり、
かえって手間がかかってしまったりすることもあります。
また、経理業務は会社法や法人税法、金融商品取引法などの法知識が求められるため、法改正に合わせた知識のアップデートも必要不可欠です。
こうした経理業務が大きな負担となり、本業に力を入れることができないという経営者も少なくありません。
ある会計事務所の調査によれば、顧問税理士がいない会社の経営者と個人事業主のうち、
約7割が経営者みずから経理業務を行なっていることがわかりました。
もちろん、経営者と経理担当者の二足のわらじで順調に業績を伸ばしている会社もありますが、
通常は本業に支障が出てしまうことがほとんどです。
さらに、専門性のない経営者が一人で作業を行うことから、経理上のミスが生じやすくなるだけでなく、
ミスが起きても発覚しづらくブラックボックス化してしまうという危険もあります。
こうしたさまざまなリスクを解消し、経営者を助けてくれる方法の一つが経理のアウトソーシングです。
経理のアウトソーシングのメリットは?
経理のアウトソーシングとは、社内の経理業務を外部の会計事務所や経理アウトソーシング会社に委託することを意味します。
業務を委託できる範囲は、契約内容や会社によってさまざまです。
たとえば、会社から派遣されたスタッフが社内に常駐して、すべての経理業務を受け持つこともできますし、
記帳代行などの一部の業務だけを依頼することも可能です。
経理をアウトソーシングするメリットのなかに、経営者が本業に専念することができ、ミスが発生しづらくなるという点があります。
経理の正確性が増すということは、対外的な信用や従業員の信用なども増すということです。
具体的な例でいえば、給与計算の間違いによって意図せず未払賃金が生じていた場合、労働基準法違反になるばかりか、
従業員の信頼を失うことにもなりかねません。
経理をアウトソーシングすることによって、給与計算の間違いなどが起きづらくなり、こうしたリスクも大幅に低減するでしょう。
また、経理をアウトソーシングすることは、属人化やブラックボックス化を防ぐことにもつながります。
一人の経理担当者が経理業務のすべてを取り仕切っている場合、その人ではないと入出金の管理や社内の資金管理ができないという状況に陥りがちです。
もし、その経理担当者が突然、退職してしまうと、大きな混乱を招いてしまうかもしれません。
アウトソーシングによって外部のスタッフが経理業務を担当することで、これらの事態を避けることができます。
こうしたメリットがある一方で、経理のアウトソーシングにはデメリットもあります。
その一つがコストです。
業種や業態、業務量にもよりますが、経理担当者を雇用する人件費よりも、外注費のほうが高くついてしまうこともあり、
派遣されたスタッフに常駐してもらう場合はさらに単価が上がるケースもあります。
経理のアウトソーシングの平均的な相場は、1カ月で15万円から利用可能といわれています。
コストを抑えるのであれば、依頼する業務を絞ったり、一時的に利用したりするなど、委託する内容や時期をよく検討しましょう。
そのほかのデメリットとして、経営者が数字をリアルタイムで把握できない、経理のノウハウを蓄積できない、
突発的なトラブルに対応できないなどの懸念点もあります。
大切なのは、経理をアウトソーシングするメリットとデメリットをよく理解しておくことです。
もし、利用するのであれば、自社の状況に合わせた適切な範囲や時期で、業務の委託を行うようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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設立したばかりのスタートアップ企業は、経営に使う運転資金を確保しなければならず、
そのための資金調達を行う必要があります。
しかし、スタートアップ企業は実績が乏しく、将来性も不透明なため、
銀行などからの借り入れがむずかしいケースがほとんどです。
では、多くのスタートアップ企業は、どのような方法で資金調達を行なっているのでしょうか。
起業家や経営者であれば知っておきたい、スタートアップ企業における資金調達の基本について解説します。
スタートアップ企業の成長ステージ
スタートアップ企業は設立以降、段階を踏みながら成長していきます。
一般的にスタートアップ企業の成長ステージは『シード』『アーリー』『ミドル』『レイター』と区分され、
資金調達についてもそれぞれのステージに適した方法が存在します。
シード期とは、事業者が会社を立ち上げる前段階、もしくは初期の段階を指します。
ビジネスのアイデアやコンセプトなどは決まっているものの、まだ具体的に商品やサービスをリリースできていない状態です。
開発費や人件費などがかさむなかで、活動資金を確保しなければならないため、
自己資金が潤沢な場合を除き、多くの起業家はシード期の資金調達に苦労します。
このシード期に適した資金調達は、『シードアクセラレーター』や『エンジェル投資家』による投資です。
シードアクセラレーターとは、起業前・起業直後のシード期のスタートアップ企業に対して投資を行う団体や組織のことです。
スタートアップ企業のビジネスアイデアや事業者の資質などを、資金提供の有無を決める判断材料にしています。
出資額は数百万円からと少額ですが、出資だけではなく、協力者の紹介や助言、ノウハウやシェアオフィスの提供などの支援も行います。
シードアクセラレーターは投資だけではなく、起業家の育成を重視する団体・組織であり、
スタートアップ企業の大きな味方になってくれるはずです。
また、エンジェル投資家は、起業して間もないスタートアップ企業に出資する個人投資家のことです。
シードアクセラレーターと同様に出資額は少額ですが、もともとスタートアップ企業の経営者だった投資家も多く、
取引先の紹介やアドバイスなどのサポートを受けられる可能性があります。
一方、育成を行わず、あくまでスタートアップ企業への投資のみを目的とした投資会社を『ベンチャーキャピタル(VC)』と呼びます。
シードアクセラレーターやエンジェル投資家と並行して、VCからの出資も検討していきましょう。
こうしたシードアクセラレーターやエンジェル投資家、VCからの出資は、融資ではないため返済する義務がありません。
したがって、金融機関から融資を受けたものの、返済に追われて企業の成長が滞ってしまうといったデメリットがありません。
事業が軌道に乗った段階の資金調達
アーリー期は、事業を立ち上げて、軌道に乗るまでの時期を指します。
企業が急成長するタイミングでもあり、組織の拡大や市場でのポジションの確立などに力を入れていく時期でもあります。
この時期は、シード期に調達した資金だけでは足りなくなり、追加の資金調達が必要になってきます。
アーリー期には、引き続きVCやエンジェル投資家の出資を受けつつ、より大きな資金提供を受けるため、
融資による資金調達も検討することになるでしょう。
ただし、銀行などから借り入れるのはまだむずかしく、
通常は政府系金融機関である日本政策金融公庫などが行なっている融資制度を利用することになります。
日本政策金融公庫では、スタートアップ企業や起業家に向けた創業融資制度として、
「新規開業資金」や「新事業活動促進資金」などを用意しており、低金利や無担保・無保証で融資を受けることも可能です。
そして、事業が軌道に乗ったミドル期になると、すでに一定の実績を重ねているため、
複数のVCからの出資や、企業との資本提携なども期待できるようになります。
また、銀行からの借り入れなども選択肢に入ってきます。
さらに、ミドル期を過ぎて、経営基盤が安定したレイター期に入ると、株式の上場を見据えた資金調達を行うことになります。
すでに銀行などからは優良企業だと認められており、融資も受けやすくなっているはずです。
このほかにも、投資型のクラウドファンディングや、補助金・助成金など、
さまざまなスタートアップ企業向けの資金調達が存在します。
大切なのは、自社の事業や方針、ビジョンなどに合わせた資金調達を選ぶことです。
それぞれの特徴をよく理解したうえで、適切な資金調達を行うようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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すべての法人と、常時5人以上の従業員を雇用している個人事業主は、原則、社会保険への加入義務があります。
社会保険とは、厚生年金保険や健康保険などの総称で、この保険料を事業者と従業員(被保険者)の双方が負担することになります。
社会保険料は、所得税や法人税のように赤字であれば免除されるというものではなく、加入している限り必ず毎月納めなければいけません。
もし、社会保険料の納付を滞納してしまうと、延滞金の加算や財産の差押えなどが行われます。
経営者や会計担当者に向けて、社会保険料を滞納するリスクを説明します。
社会保険料の滞納が原因の倒産が増加
国や自治体に納める社会保険料や税金などのことを『公租公課』といいますが、2023年度はこの公租公課の滞納を原因とした
企業の倒産が138件と、過去最多を記録しました。
公租公課のなかでも、特に毎月必ず納める必要のある社会保険料の滞納によって、倒産を余儀なくされた企業が相次いでいます。
コロナ禍で猶予されていた社会保険料の徴収が本格化したことに加え、円安や物価高などの影響もあり、猶予期間中に業績を立て直すことができず、
そのまま倒産してしまうというケースが少なくありません。
日本年金機構によれば、厚生年金などの保険料の滞納によって財産を差し押さえた事業所の数は、2023年度の上半期(4月~9月)時点で
約2万6,300社と、前年度の1年分に相当する数だったことがわかっています。
ただし、社会保険料を滞納したからといって、すぐに財産が差し押さえられるわけではありません。
差押えを受けるまでには、いくつかのステップがあるので確認しておきましょう。
まず、社会保険料が未納の場合は、納付期限を過ぎてから1週間ほどで年金事務所などから督促状と納付書が届きます。
もしくは、電話や訪問などによって、納付の催促を受けることもあります。
この時点で、督促状で指定されている期限(指定期限)までに保険料を納めれば、延滞金は発生しません。
しかし、指定期限を過ぎてから納付すると、延滞金が発生するので注意が必要です。
延滞金の額は、『納付期限の翌日』から実際に納付した日の前日までの日数に応じ、一定の割合を乗じて求められます。
指定期限の翌日ではないことに注意が必要です。
また、延滞金の額を求めるための割合は都度変更されるので、日本年金機構のホームページをチェックしておきましょう。
財務調査や強制捜査を経て差押えを実施
督促を受けても社会保険料を納付しないままだと、財務調査が行われます。
財務調査は、事業者の所有している現金や預貯金、不動産や売掛金などの財産を把握するためのもので、差押えの前段階のようなものです。
代表者への聞き取りなどを行う財務調査はあくまで任意ですが、応じない場合は、より強制力の強い強制捜査に切り替わります。
強制捜査は、代表者の自宅への立入りや、取引先への聞き取り、不動産や預金残高の調査などが行われます。
また、厚生年金の場合、捜査を拒否したり、妨害したりすると、厚生年金保険法に基づき、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる
可能性もあるので注意してください。
こうした調査や捜査によって財産が把握できると、ついに差押えが行われます。
差押えは不動産や売掛金なども対象になるため、自由に営業ができなくなったり、資金繰りが急速に悪化したりといった悪影響が考えられます。
取引先はもちろん、金融機関からの信用も失うことになり、融資を受けることもむずかしくなります。
また、経営状態への不安や不信から、従業員の離職なども相次ぎ、結果として倒産を招いてしまうというわけです。
このような社会保険料の滞納を原因とする『社保倒産』にならないためには、早い段階で各所に相談しておくことをおすすめします。
社会保険料が納付できなければ年金事務所へ、雇用保険や労災保険などの労働保険料に関しては、労働局へ連絡しましょう。
相談をしておけば、納付猶予や分納、滞納処分の停止などの緩和措置を受けられる可能性があります。
日本年金機構を管轄する厚生労働省は地方厚生局長宛に、社会保険料について滞納者からの納付方法の相談に丁寧に応じるように
通知を出しています。
また、社保倒産を多く扱う専門の弁護士であれば、経営再建も含めた包括的な相談に乗ってくれるでしょう。
社会保険料の滞納に関する問題は後送りにすればするほど、悪化してしまいます。
滞納してしまうことがないよう、できるだけ早めに対策を講じておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。
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事業承継を目的に、先代の経営者から後継者が自社株式や事業用資産などを譲り受けることが
あります。
贈与などで、一人の後継者に自社株式や事業用資産などを集中させておけば、
先代が亡くなった後も、これまでと変わらずに会社を運営していくことができます。
しかし、後継者以外にも相続人がいる場合、『遺留分』を巡るトラブルに発展し、
事業承継もうまくいかない可能性があります。
今回は、トラブルを起こさず、円滑な事業承継を行うために利用できる
『遺留分に関する民法の特例(民法特例)』の活用方法について説明します。
相続人の権利でもある『遺留分』とは?
先代の経営者から会社や個人事業を承継する場合に、考えておきたいのが『遺留分』の問題です。
遺留分とは、遺族の生活の安定や相続人同士の平等を確保するために、民法で定められている最低限の相続分のことです。
たとえば、相続人が複数人いるのに、被相続人である故人の遺言などによって一人の相続人が
ほとんどの財産を独占して相続したとします。
当然、ほかの相続人たちは納得できないでしょう。
その場合、ほかの相続人たちは財産を独占した相続人に対して、自分たちの遺留分を請求できます。
つまり、簡単にいえば、遺留分とは遺言などに影響されない相続人に最低限保証されている『取り分』のことです。
しかし、事業承継の際には、この遺留分がトラブルのもとになります。
先代の経営者が後継者である一人の相続人に対して、事業承継を目的に自社株式や事業用資産を集中させた場合、
ほかの相続人から遺留分を侵害されたとして、遺留分に相当する額の請求を受けることがあります。
遺留分を支払うために、後継者が自社株式や事業用資産を処分することになってしまうと、
スムーズな事業承継が妨げられてしまうかもしれません。
そこで、円滑な事業承継の実現を目的に、経営承継円滑化法では『遺留分に関する民法の特例(民法特例)』を規定しています。
この民法特例を活用すれば、先代の経営者から生前贈与や相続で自社株式や事業用資産を受け継ぐ際に、
ほかの相続人との遺留分を巡るトラブルを防ぐことができます。
対応策としての『除外合意』と『固定合意』
民法特例を活用することで、相続人全員の合意のうえで、自社株式や事業用資産の価額について、
『除外合意』と『固定合意』のどちらかの手段を取ることができます。
除外合意とは、後継者が先代から贈与や相続によって取得した自社株式や事業用資産について、
遺留分を算定するための財産の価額から除外できるというものです。
合意に至れば、ほかの相続人は自社株式や事業用資産について、遺留分を主張できなくなります。
一方、固定合意とは、遺留分を算定するための財産の価額について、
自社株式を合意時の「時価」で固定して算入するというものです。
固定合意を行なっておけば、株価が上昇しても遺留分の額に影響を及ぼすことはありません。
そのため、後継者の経営努力により自社の株価が上昇した場合でも、
ほかの相続人から上昇した額の遺留分を主張される可能性がなくなります。
ただし、固定合意は、自社株式だけに適応できる手段で、会社のみが利用できます。
そのため、自社株式がない個人事業では使うことができません。
また、合意時の時価については、相当な価額であることを税理士や公認会計士、弁護士などに証明してもらう必要があります。
これらの民法特例による除外合意と固定合意は、どちらか一方を利用することも、組み合わせて利用することも可能です。
適用を受けるためには、いくつか条件があり、会社であれば非上場の中小企業者で、
合意時点において3年以上継続して事業を行なっている必要があります。
また、先代の経営者もしくは後継者が、合意時点において会社の代表者でなければいけません。
さらに、後継者は株式の贈与などにより、会社の議決権の過半数を保有している必要があります。
この民法特例を利用するための手順としては、先代経営者の推定相続人全員(ただし、遺留分を有する者に限定)が
合意したうえで合意書を作成し、必要書類と共に経済産業省中小企業庁事業環境部財務課に提出します。
その後、経済産業大臣の確認と、家庭裁判所の許可を受けて、はじめて合意の効力が発生します。
相続人全員の合意が得られない場合などは、ほかの相続人を説得する必要があり、専門的な知識が必要になるかもしれません。
遺留分をめぐるトラブルの可能性があるのであれば、合意書の作成なども含めて、まずは専門家への相談を検討してみましょう。
※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
個人事業主が亡くなり、相続人が事業を承継する際に忘れずに行なっておきたいのが
『青色申告承認申請書』の提出です。
特別控除や赤字の繰り越しなどの節税メリットが受けられる青色申告制度ですが、
事業を相続したからといって、自動的に青色申告の適用が引き継がれるものでは
ありません。
事業承継をした相続人が青色申告の適用を受けるには、税務署に
青色申告承認申請書を提出する必要があります。
個人事業主から事業を相続する際における、青色申告承認申請書の提出期限などについて解説します。
節税メリットのある青色申告者になるには
個人事業主などの事業所得がある人や、不動産所得や山林所得のある人は青色申告か白色申告の
どちらかで確定申告を行います。
青色申告を選ぶと、最高で65万円の特別控除や、生計を一にする配偶者や親族の給与を経費にできる
『青色事業専従者給与の特例』、純損失の繰越し控除や純損失の繰戻しによる還付など、
さまざまな節税メリットがあります。
新たに青色申告の適用を受けるためには、原則その年の3月15日までに『青色申告承認申請書』を
納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
もし、期日までに提出が間に合わなければ、その年の所得分は青色申告によるメリットは受けられず、
白色申告で確定申告を行うことになります。
確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、
原則翌年の2月16日~3月15日までに行う必要があります。
たとえば、2024年分の所得に関しては2025年3月15日が確定申告の期日となり、
この2024年分の確定申告を青色申告で行う場合には、2024年3月15日までに青色申告承認申請書を
提出しなければいけません。
なお、新規事業を始めた時期が1月16日以後の場合は、事業開始日から2カ月以内に提出する必要があります。
一度、青色申告の申請を行い承認されれば、以降の年は申請しなくても、継続して『青色申告者』となります。
しかし、被相続人から事業を引き継いだ場合は、たとえ被相続人が青色申告者だったとしても、
青色申告の適用は引き継がれず、相続人が新規で青色申告承認申請書を提出しなければいけません。
相続が発生すると、相続人は死亡届の提出など、死亡したことを届ける各種手続きを行う必要があり、
遺産の分割協議や相続税の申告といったさまざまな対応に追われます。
もし、被相続人が青色申告者として事業を行なっており、相続人がその事業を承継する場合には、
青色申告承認申請書の提出も忘れずに行いましょう。
被相続人の死亡日(相続人が相続の開始を知った日)によっては、申請書の提出期限が短くなることもあるので、
注意が必要です。
ちなみに、事業を承継する相続人がすでに個人事業主で青色申告者の場合は、
あらためて青色申告承認申請をする必要はありません。
また、承継する事業を会社(法人)で行なっていて亡くなった人が会社(法人)の経営者の場合、
会社(法人)が引続き青色申告法人となりますので、個人で青色申告承認申請をする必要はありません。
被相続人の死亡日によって異なる提出の期限
事業を行なっていた被相続人が青色申告者で、その年の1月1日から8月31日に死亡した場合、
相続人は被相続人が亡くなった日から4カ月以内に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
ただし、相続人が青色申告者になることを希望していなければ、提出する必要はありません。
また、被相続人に収入があった場合、相続人は1月1日から被相続人の死亡日までの所得について
所得税額を計算して税務署に申告する必要がある場合があります。これを『準確定申告』といいます。
準確定申告の期限は、青色申告承認申請書を提出する期限と同じ、相続の開始があったことを知った日の
翌日から4カ月以内です。
青色申告者になることを希望するのであれば、準確定申告と一緒に青色申告承認申請書を提出するようにしましょう。
一方、被相続人の死亡日がその年の9月1日から10月31日の場合は、その年の12月31日まで、
死亡日がその年の11月1日から12月31日の場合は、翌年の2月15日までに青色申告承認申請書を提出
しなければいけません。
もし、被相続人が10月31日に亡くなった場合は、提出までの猶予がわずか2カ月しかありません。
事業承継した相続人が青色申告者になるには、被相続人の死亡日をまず確認し、迅速に青色申告承認申請書を
提出しましょう。
また、被相続人が白色申告者で、相続人が新たに青色申告者になる場合は、原則、通常の青色申告の申請と同様に、
その年の3月15日までに申請する必要があり、その年の1月16日以後に事業を承継した場合は、
業務を承継した日から2カ月以内に青色申告承認申請書を提出します。
ちなみに、事業を引き継いだものの、途中で廃業などによって青色申告を取りやめる場合は、
取りやめようとする年の翌年3月15日までに『所得税の青色申告の取りやめ届出書』を納税地の所轄税務署長に
提出する必要があります。
青色申告承認申請書や所得税の青色申告の取りやめ届出書などは、税務署や国税庁のホームページで入手できます。
個人事業主から事業を引き継ぐ場合、青色申告承認申請書の提出など事業に関する煩雑な相続の手続きが発生します。
期限が設けられている手続きもあるため、ご心配な方は是非ご相談ください。
※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。
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2024年度の税制改正により、
2024年4月1日以降に発生する取引先との飲食費に関して、
損金算入できる上限額がこれまでの一人当たり5,000円から、
10,000円に引き上げられました。
事業者にとっては、取引先との関係維持や新規顧客の開拓などがしやすくなる
といったメリットが考えられます。
では、なぜ経費にできる飲食費の上限が10,000円に引き上げられたのでしょうか。
引き上げに至った背景や、会計処理の方法などを確認しておきましょう。
交際費のうち一部の飲食費は損金算入が可能
会計上、取引先への接待、供応、慰安、贈答などを目的とした支出は、すべて『交際費』に該当します。
たとえば、取引先を招いた懇親会を開けば、会場代から飲食代に参加者のタクシー代まで、
すべての支出が交際費に含まれますし、取引先に送るお中元やお歳暮、取引先を接待するためのゴルフや旅行などに
かかった費用も交際費となります。
通常、自社の業務で発生した支出の多くは、経費として計上することができます。
出張のために飛行機を使えばその費用は旅費交通費として、
商品の広告や宣伝に使った費用は広告宣伝費として計上できます。
ただし、交際費に関しては、すべてを計上できるわけではありません。
交際費は損金不算入の原則がありますが、2006年度の税制改正によって、
交際費のうち一人当たり5,000円を上限とした『飲食費』については、損金として算入できることになりました。
つまり、一人当たり5,000円までの飲食費は、交際費の範囲に含まれないということです。
したがって、これまでは従業員が取引先との飲食代として使える額を一人当たり5,000円以下に
設定している企業が少なくありませんでした。
しかし、「飲食需要の拡大を妨げている」「物価が上昇している中で上限が5,000円では厳しい」
などの指摘が相次いだことから、2024年度の税制改正によって、損金算入できる飲食費の上限が
2024年4月1日より5,000円から10,000円に引き上げられました。
財務省発表のデータによると、1990年代初頭は約6兆円もあった企業の交際費は、
近年では3兆円前後の水準まで半減しています。
今回の税制改正で飲食費の上限を引き上げることにより、企業の営業活動を促進させ
収益機会の向上や飲食店の需要喚起を図り、経済の活性化を目的としています。
引き上げに伴う会計処理の注意点
引き上げられた一人当たり10,000円の飲食費は、飲食店1軒に対しての上限です。
たとえば取引先の接待を伴う飲み会において、一次会と二次会を別のお店で開催した場合、
それぞれ一人当たり10,000円までは損金算入できます。
ただし、飲食費が10,000円を超えた場合に、10,000円の範囲だけを飲食費にすることはできません。
具体的な例をあげて説明すると、1軒につき一人当たりの飲食費が12,000円だった場合、
12,000円の全額が交際費となり、損金として算入できないので気をつけましょう。
ちなみに、10,000円を超えてしまった場合でも、自社の従業員だけで飲食店を利用した場合は
『福利厚生費』として、費用の全額を経費計上することが可能です。
ただし、その場合、全従業員が対象である、現物支給でない、
社会通念上妥当な金額であるなどの要件を満たす必要があります。
また、中小企業には交際費のうち800万円までを全額損金算入できる特例措置があり、
今回の税制改正によって、措置の期限が3年間延長(2027年3月末まで)されました。
飲食費が一人当たり10,000円を超えたとしても、中小企業であれば800万円までは交際費として全額損金算入できます。
経理担当者が会計処理する際には、消費税の取り扱いにも注意が必要です。
飲食費として認められるのは、税抜経理を採用している企業であれば『税抜』で10,000円まで、
税込経理を採用している企業であれば『税込』で10,000円までとなります。
税制改正に伴う5,000円から10,000円の飲食費の引き上げによって、
コロナ禍を経て売上が伸び悩む飲食産業の活性化と、企業間の取引の維持および拡大などが期待されています。
企業の会合や接待などの需要が多い飲食店は客単価を上げられますし、一
般の企業もこれまで以上に取引先との関係維持や、新規顧客の開拓などがしやすくなるでしょう。
まずは、社内規定や慣習などを見直し、利用できる飲食費の上限が5,000円となっているのであれば、
10,000円に修正し、同時に従業員への周知も行いましょう。
今回の税制改正をきっかけに、飲食店を活用した営業活動に力を入れてみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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消費税を納める義務のある事業者を消費税の課税事業者と呼び、
消費税の納税が免除されている事業者のことを免税事業者と呼びます。
会社を設立した直後であれば、一定の条件を満たすことで、
免税事業者になることができます。
また、条件によっては、事業開始から2期目も消費税の免税を適用させることが
可能です。
会社を設立するのであれば、理解しておきたい消費税の免税について解説します。
消費税の『事業者免税点制度』とは
新しく会社を設立する際には、法人税や法人住民税、法人事業税などとあわせて、
消費税についても気にしておかなければいけません。
消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課される税金のことで、
基本的には顧客から預かった消費税から、仕入れや経費などで支払った消費税を差し引いた分を
課税事業者が納税するという仕組みです。
会社を設立する際には、きちんと消費税を納税できるように、普段から資金繰りを考えていかなければいけません。
ただし、一定の条件に当てはまる事業者は、対象となる期間の消費税の納税が免除されます。
これは消費税の『事業者免税点制度』といい、小規模事業者の税務にかかるコストや
事務負担を配慮して設けられた特例措置です。
それぞれ適用される条件について説明していきます。
資本金が1,000万円未満の事業者の場合
消費税の納税義務は、基準期間と特定期間の課税売上高などで判断します。
新たに設立された法人は基準期間がないため、原則として納税義務はありません。
資本金とは、会社を運営するうえでの資金のことで、経営者の資金のほか、
主や投資家から調達した資金も含まれます。
新しく会社を設立した際に、この資本金が1,000万円未満の場合は、
事業開始の1期目に関しては消費税の納税が免除されます。
2期目についても、一定の要件を満たすと消費税の納税が免除されます。
なお、資本金が1,000万円未満であっても特定新規設立法人
(親会社などが50%超の株式を保有し、かつ親会社などの基準期間相当の課税売上が5億円を超えている法人)
に該当する場合は、納税義務が免除されません。
一方、資本金が1,000万円以上の場合には、設立1期目から消費税の納税義務が生じるので留意しておきましょう。
また、資本金の判定は、期の頭である事業年度の開始日に行われるため、
たとえば資本金800万円の会社が1期目の途中で200万円を増資して資本金を1,000万円にした場合は、
2期目から課税事業者となります。
2006年5月に施行された新会社法によって、資本金が1円でも会社を設立できるようになりました。
しかし、資本金は会社の規模や経営体力の指標となるため、多いほうが融資の際などに信用を得やすくなります。
免税事業者でありつつ、事業の優位性を確保するのであれば、資本準備金を活用するという方法もあります。
会社法第445条2項では、資本金の額の2分の1を超えない金額までは資本準備金として、
資本金に計上しなくてよいことが認められています。
資本金を1,000万円未満にし、資本金の2分の1の金額を超えない範囲で
それ以外の資金を資本準備金としておくことで、会社としての体力を維持しながら、
免税事業者でいることができます。
資本準備金は資本金よりも赤字の際に取り崩しが容易なのもメリットの一つです。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合
会社の設立後も、一定の条件を満たせば、消費税が免税されます。
その条件の基準となるのが、基準期間と特定期間の課税売上高です。
基準期間とは、法人における前々事業年度のことで、基本的には2年前の事業年度が該当します。
この基準期間の課税売上高が1,000万円を超えなければ、消費税の納税義務は発生しません。
なお、基準期間が1年でない法人の場合は、
1年相当に換算した金額で判定することになっていますので、注意が必要です。
新しく会社を設立した場合は、基準期間が存在しないので、資本金が1,000万円未満などの要件はあるものの、
原則として2期目までは消費税の納税が免除されることになります。
しかし、新しく設立した会社でも、
特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、2期目は課税事業者になります。
特定期間とは、その事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月の期間のことを指します。
たとえば、2023年4月1日に決算日が3月末の会社を設立した場合、
2024年4月1日の時点で前事業年度は2023年4月1日から2024年3月31日までになり、
特定期間は2023年4月1日から2023年9月30日までの6カ月になります。
なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、
従業員に支払う給料支給額の合計が1,000万円以下であれば、2期目も免税事業者となります。
特定期間における納税義務の判定を、課税売上高か給料支給額の合計のいずれにするかは
納税者の任意で選択できます。
ただし、特定期間の課税売上高と給料支給額の合計が、ともに1,000万円を超えている場合は
原則として課税事業者となるので留意する必要があります。
新たに設立された法人の場合、資本金が1,000万円未満、
基準期間と特定期間の課税売上高が1,000万円以下といった条件を満たしていれば、
第1期と第2期の消費税の納税義務は生じません。
しかし、2023年10月1日からインボイス制度がスタートしたことで、
会社を設立したばかりでも課税事業者になっておいたほうがよいケースも出てきました。
免税事業者のままだと適格請求書が発行できず、
課税事業者である取引先や顧客は仕入税額控除を受けることができなくなります。
特に事業の拡大や販路の開拓が重要になる会社設立の初期は、免税事業者であることが不利に働く可能性もあります。
こうした実情も踏まえながら、課税事業者と免税事業者のどちらで事業を行うのか、
会社を設立する前に、よく考えておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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『住宅取得等資金の贈与税の非課税措置』とは、親や祖父母などの直系尊属から
住宅の購入や増改築のためのお金を受け取っても、一定額まで贈与税がかからない制度です。
贈与を受けた年の1月1日時点で、18歳以上の受贈者が対象です。
当初は2023年12月末までが適用期限とされていましたが、
『令和6年度税制改正』により、2026年12月31日まで延長されることが決定しました。
今回は制度の概要や申請方法や、注意点について解説します。
住宅購入時、親などからの贈与が非課税に
『住宅取得等資金の贈与税の非課税措置』とは、
住宅を購入、建築するための資金を親や祖父母などの直系尊属から贈与された場合に、
贈与税が免除される仕組みです。
通常は親族間のやりとりであっても、財産が無償で渡された場合は「贈与」とみなされ、
その年の1月1日から12月31日までの1年間に110万円を超える贈与を受けた場合には
贈与税が課税されます。
この制度を活用することで、贈与を受けた人ごとに省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、
それ以外の住宅の場合には500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税となります。
しかし、適用には一定の要件を満たす必要があるため、注意が必要です。
【受贈者の主な要件】
(1)贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。
(2)贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上であること。
(3)贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下
(新築等をする住宅用の家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)であること。
【住宅の主な要件】
新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が
40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、
その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。
このほかにも要件が細かく規定されていますので、詳細は国税庁などのオフィシャルサイトを確認しましょう。
また、非課税の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、
非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に戸籍の謄本、
新築や取得の契約書の写しなど一定の書類を添付して、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。
親の住宅を相続する場合に注意することは?
住宅取得等資金の贈与税の非課税措置には、住宅購入のハードルが下がるメリットがあります。
ただし、将来的に親の住宅を遺産として相続することを考えている場合、いくつかの留意点があります。
まず、住宅取得等資金の贈与税の非課税措置を活用していると、多くの場合、小規模宅地等の特例を使うことができません。
小規模宅地等の特例は、相続した宅地などの評価額を最大8割下げる軽減措置を受けられる節税効果の高いものですが、
適用の要件に「相続開始時までに、持ち家に住んだことがないこと」が含まれています。
親からの資金援助を受けて住宅を購入している場合、ほとんどのケースで、この要件を満たすことができません。
住宅を取得した時にかかる税金も、相続のほうが基本的に有利です。
不動産取得税は相続の場合は非課税ですし、登録免許税についても、贈与より相続のほうの税率が低くなっています。
また、住宅取得等資金の贈与は、将来遺留分を算定する場合に、遺留分の基礎となる財産に含まれることとなるため注意が必要です。
住宅取得等資金の贈与は、相続時精算課税制度とも併用することができ、併用する場合には、
60歳未満の直系尊属でも相続時精算課税制度の贈与者として認められるなど、
それぞれの制度の非課税枠の利用が可能になるという利点もあります。
興味のある方は検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。
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従業員と労使協定を結ぶ際などには、
従業員の過半数で組織する労働組合から意見を聞く必要があります。
そして、もし会社に組合がなければ、従業員のなかから『過半数代表者』を
選出してもらうことになります。
過半数代表者とは、従業員の過半数を代表する者のことを指します。
しかし、過半数代表者の選出方法が適正ではないと、
締結した労使協定や変更した就業規則が無効になる可能性があります。
労働法に基づく正しい過半数代表者の選出方法を理解しておきましょう。
従業員の主導で選ばれる過半数代表者とは
労働基準法により、法定労働時間は原則1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められています。
これを超えて従業員に労働させる場合は、使用者と従業員との間で、
労働基準法第36条に基づく労使協定、いわゆる『36(サブロク)協定』を結ばなければいけません。
また、36協定以外にも1カ月または1年単位などの変形労働時間制に関する協定や、
フレックスタイム制に関する協定、事業場外労働に関する協定や代替休暇に関する協定、
賃金控除に関する協定など、多くのケースで従業員との労使協定の締結が必要になります。
常時10人以上の従業員を使用する事業場では就業規則を定める義務があり、
この就業規則を作成したり変更したりする場合も、本来はすべての従業員の意見を聞くことが望まれます。
しかし、使用者である事業者側が全従業員と協定を結んだり、意見を聞いたりすることは現実的ではありません。
そこで、労使協定を締結したり、就業規則を変更したりする場合は、過半数の従業員で組織する労働組合か、
組合がない場合は『過半数代表者』を選出して、やり取りをすることになります。
労働組合は全国に約2万3,000組合ほどありますが、
事業規模が99人以下の企業における労働組合のある割合は0.8%ほどなので、
多くの中小企業では過半数代表者が労使協定や就業規則に関わる当事者となります。
この過半数代表者を決める際に注意したいのが、選出方法です。
過半数代表者は従業員の過半数を代表することになるため、従業員のなかから選んでもらう必要があります。
会社が代表選出の手続きに関与したり過半数代表者を指名したりしてはいけません。
会社の意向に基づいた過半数代表者と結んだ労使協定は、無効になります。
たとえば、使用者が指名した場合や、社員の親睦会の幹事などを自動的に選任した場合なども、
労使協定を結ぶために選ばれたとはいえないため、過半数代表者とは認められません。
また、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者も経営者側の立場とみなされ、過半数代表者になることはできません。
ここでいう管理監督者は、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある人のことで、
肩書や職位でなく、その職務内容や責任と権限などの実態によって判断されます。
全従業員が参加して民主的な方法で選出
過半数代表者は、従業員一同による投票や挙手、もしくは話し合いや持ち回り決議など、
従業員の過半数がその人を選んだことがわかるような民主的な方法で選出します。
ただし、すべての従業員に対して過半数代表者の選出に関するメールを送り、
返信のない人を信任(賛成)したものとみなす方法は、過半数が支持しているとはいえない場合があるので注意が必要です。
また、過半数代表者はすべての従業員の過半数を代表することになるため、
選出には正社員だけでなく、パートやアルバイトなどにも参加してもらう必要があります。
会社は選出に関与してはいけませんが、意見の集約に必要な社内メールや、
事務スペースの提供などは必要に応じて行うようにしましょう。
選出において、過半数代表者が適正な方法によって選ばれたことを証明するために、会
議の議事録や投票記録などを提出してもらいましょう。
同時に、選ばれた過半数代表者が管理監督者ではないことを示すため、
そのときの労働条件なども記録しておくことをおすすめします。
そして、使用者が特に注意したいのは、過半数代表者に対する取り扱いです。
過半数代表者であることや、過半数代表者になろうとしていたことを理由に、
当該の従業員に対して、解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをしてはいけません。
使用者は過半数代表者が従業員の過半数を代表する者であることを意識しながら、
労使協定や就業規則に関するやり取りを進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
ここ最近は物価の高騰に賃金の上昇が追いついておらず、
多くの人が経済的な負担を強いられています。
こうした負担を緩和する一時的な措置として、『定額減税』が実施されることになりました。
定額減税とは、納税者本人やその扶養家族を対象に、
一人当たり所得税から3万円、住民税から1万円の合計4万円が減税される制度です。
2024年6月からスタートする定額減税ですが、
従業員を雇用している事業者はどのような対応が必要になるのでしょうか。
制度のあらましと、定額減税の計算方法について解説します。
定額減税の対象者を確認しておく
2024年3月に所得税法と地方税法の改正案が衆院本会議で可決され、6月から定額減税の実施が決まりました。
定額減税は税金から一定の額を差し引く制度ですが、事務処理はとても複雑です。
ここでは、順を追って事業者が行うべき対応を説明していきます。
まず必要なのは、定額減税の対象者の確認です。
定額減税の対象となるのは、給与収入だけの場合、給与収入(所得税は2024年分、住民税は2023年分)が
2,000万円以下の従業員本人と、同一生計配偶者および扶養親族です。
給与収入以外にも収入がある場合は、合計所得金額(所得税は2024年分、住民税は2023年分)が
1,805万円以下の本人と、同一生計配偶者および扶養親族が対象となります。
この制度は富裕層を対象としたものではないため、給与収入が2,000万円以上の従業員と、同一生計配偶者および扶養親族は
定額減税を受けることができません。
定額減税では、一人当たり所得税から3万円、住民税から1万円の合計4万円が減税されることになります。
従業員から提出された『扶養控除等申告書』をもとに、対象者の人数を把握しておきましょう。
たとえば、ある従業員に同一生計配偶者がいる場合、その従業員の減税額は本人と同一生計配偶者の2人分となり、
所得税から6万円、住民税から2万円の合計8万円が減税されます。
ちなみに定額減税の対象となる同一生計配偶者は、従業員本人の合計所得金額が900万円超1,805万円以下の場合でも
配偶者の合計所得金額が48万円以下であれば対象となり、
従業員本人の合計所得金額にかかわらず配偶者の合計所得金額が48万円超の場合は対象とならないなど、
所得税法上の控除対象とは範囲が異なります。
また、定額減税の対象となる扶養家族は、所得税法上の控除対象となる扶養親族だけではなく、
16歳未満の扶養親族も含まれます。
扶養控除等申告書に記載のない同一生計配偶者や16歳未満の扶養親族がいる従業員には
別途『源泉徴収に係る定額減税のための申告書』を提出してもらい、対象者に加えておきましょう。
所得税から減税する際の計算方法
対象者を把握したら、2024年6月1日以降に支払う給与や賞与に対して、減税の計算をしていきましょう。
所得税の定額減税は従業員に給与を支払う際に、源泉徴収額から定額減税額を控除する方法で行います。
これを『月次減税事務』といいます。
月次減税事務の具体的な計算方法は、2024年6月1日以降の源泉徴収税額から各人の定額減税額の分を
使い切るまで控除していくというものです。
具体例として、扶養親族が1人いる従業員で、毎月の源泉徴収額が固定で1万円というパターンで説明します。
この場合、所得税の減税額は一人当たり3万円×2人で6万円になり、
6月から11月までの6カ間、毎月1万円ずつ減税額として合計6万円を控除していきます。
つまり、6月から11月まで源泉徴収税額は0円になり、12月から通常の源泉徴収税額に戻るということになります。
その月の源泉徴収税額から定額減税額を控除しきれない場合は、
2024年中に支払う給与や賞与などの源泉徴収税額から順次控除していきます。
このとき、月次減税事務においては、対象者の減税額と控除した額を把握しておく必要があるため、
国税庁のホームページで公開されている見本を参考にしながら、『各人別控除事績簿』を作成しておきましょう。
また、月次減税事務は、2024年6月1日に在籍している定額減税の対象者となる従業員に対して行うもので、
6月2日以降に入社した従業員に対しては、年末調整の際に定額減税の精算を行います。
この年末調整時点の減税額に基づく精算のことを『年調減税事務』と呼びます。
なお、年末調整での精算については、国税庁ホームページで2024年9月頃から各種情報が掲載される予定です。
所得税の定額減税は、月次減税事務と年調減税事務によって行われることを覚えておきましょう。
住民税から減税する際の計算方法
続いて、住民税の減税額の計算方法について説明します。
まず制度がスタートする月となる2024年6月の分は住民税額を0円に設定し、
定額減税後の年税額を2024年7月から2025年5月までの11カ月で割り、各月に振り直します。
扶養親族がいない従業員(住民税の減税額が1万円)で、毎月の住民税額が固定で5,000円のパターンを例として解説します。
この場合、年間の住民税額は5,000円×12カ月で6万円になり、そこから減税額の1万円を差し引くと、5万円になります。
この5万円を11カ月で割り各月に振り直すと、毎月の住民税額は四捨五入して4,545円になります。
従業員一人ひとりの減税額を求めるのは大変ですが、事業者がこれらの計算をする必要はありません。
原則として、従業員個人に対しては各市区町村から定額減税を反映した『特別徴収税額決定通知書』が送付されるので、
事業者はその通知書に記載された金額をもとに控除を行います。
このように、所得税と住民税の定額減税には、事務負担が増大する可能性があるため、
事業者は準備を進めておく必要があります。
減税額の控除後も給与支払明細書への控除額の表示や、源泉徴収票への記載といった事務作業が増えますし、
従業員の所得税額や住民税額にも変化があるため、個々に伝わるよう周知しなければいけません。
6月の制度開始まで間もなくです。
ほかにも定額減税にはさまざまな注意事項があるため、国税庁のホームページなどで詳細を確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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2023年10月1日のスタートから半年以上が経った『インボイス制度』は、
売手である適格請求書発行事業者の発行した『適格請求書(インボイス)』によって、
買手の課税事業者は仕入税額控除の適用を受けることができるという制度です。
実は、インボイス制度の影響を受けないとされている業種でも、
状況によっては適格請求書発行事業者の登録を行なったほうがいいケースもあります。
免税事業者が登録をするか否かを判断するためのポイントについて説明します。
一般の消費者が顧客であれば登録は不要!?
インボイス制度に関係するのは、消費税の免税事業者と課税事業者です。
報酬に消費税が含まれていない会社員やアルバイトなどの給与所得者は、
影響を受けることがありません。
また、適格請求書発行事業者として登録せず、免税事業者のままであっても、
大きな影響を受けない業種があります。
具体的には、美容室や理髪店、サロン、マッサージ店、スポーツジム、学習塾や英会話教室など、
一般の消費者が顧客の業種です。
一般の消費者は、みずからが購入した商品やサービスについて直接消費税を納める必要がなく
、仕入税額控除の適用を受けることもありません。
したがって、一般の消費者を顧客にしている業種は、適格請求書発行事業者として登録せずに、
免税事業者のままで問題ないということです。
ただし、一般消費者向けの業種でも、不特定かつ多数の顧客を相手に商品やサービスを提供する業種は、
その限りではありません。
具体的には、飲食店業、小売業、写真業、旅行業、駐車場業、タクシー業などの業種です。
これらの業種は、顧客の個人事業主や会社員が仕事で商品やサービスを購入した際に、
その代金を経費として計上する必要があるからです。
たとえば、会社員が取引先に移動する目的でタクシーを利用した際に、
タクシー業者から発行された領収書が適格請求書ではない場合、会社側は会社員から経費精算のために
その領収書を渡されても、仕入税額を控除することができません。
そこで、このように不特定多数が利用する業種では、書類を受け取る人や会社の名前の記載がないレシートや領収書を
『適格簡易請求書(簡易インボイス)』として交付することが認められています。
また、一般の消費者が顧客の業種以外にも、取引先や顧客が免税事業者、
もしくは簡易課税事業者の場合もインボイス制度の影響は受けません。
免税事業者は仕入税額控除の適用を受ける必要がありませんし、簡易課税事業者は売上に対して事業区分に応じた
『みなし仕入率』をかけて納める消費税を算出するため、仕入の領収書や請求書が適格請求書かどうかは関係しないからです。
免税事業者のままでも取引は継続する?
インボイス制度の導入直前には、「個人事業主が適格請求書発行事業者として登録せずに免税事業者のままでいると、
取引先から取引を中断されるリスクがあるのではないか?」という声も上がりました。
買手である取引先からしてみれば、免税事業者との取引は仕入税額の控除が受けられなくなり、
いわゆる「損をしてしまう」ことになるため、同じ仕事であれば適格請求書を発行できる課税事業者へ発注するほうが
メリットになるからです。
一方、高い専門性を持つデザイナーや職人、イラストレーターやエンジニアなどは、
取引先が同等のスキルを有した課税事業者を探して発注するほうがコストも工数もかかってしまいます。
この場合は、個人事業主が免税事業者のままでも、継続して取引が行われる可能性は高いでしょう。
1年間の課税売上が1,000万円を超えている場合などは、すでに課税事業者となっているため、
消費税の納付義務が発生します。
適格請求書発行事業者の登録をしても負担する税額が変わらず、新たな負担は生じません。
免税事業者が適格請求書発行事業者として登録することは、取引先の税負担を減らすことにもなります。
また、適格請求書発行事業者となることで、既存の取引先以外にも新たな販路が開拓できるといった
メリットを享受できる可能性もありえます。
取引先が課税事業者で自身が免税事業者の場合、取引先と良好な関係性を築けているか、
もしくは、これから築いていくつもりがあるのかといった視点も、
適格請求書発行事業者として登録するか否かの大きな判断材料となるでしょう。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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電子帳簿保存法(以下、電帳法)が2022年1月に改正され、猶予期間の終了により
2024年1月1日から電子取引データ保存の義務化がスタートしました。
法人税や所得税に関して、帳簿や書類の保存義務が課されている法人や個人事業主は、
電子取引データの保存に対応する必要があります。
猶予期間終了後も未対応のままでいると、過料や加算税が科せられる可能性がありますが、
一定の要件を満たすことで猶予措置を受けることができます。
今回は電子取引データの保存義務化で注意すべきポイントについて説明します。
電子取引データ保存未対応の罰則とは?
電帳法とは、各税法上で保存が必要となる「帳簿」や「国税関係の書類」などの
電磁的記録(電子データ)の保存に関する法律のことです。
2022年の改正によって、2024年1月1日から法人と個人事業主に対し、
注文書・契約書・納品書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する書類を電子データでやりとりした場合には、
紙ではなく電子データのまま保存することが義務づけられました。
これが、『電子取引データ保存の義務化』です。
義務化によって電子取引データの保存が必要になり、プリントアウトした書面のみを保存することは認められなくなりました。
たとえば、取引先から電子メールでPDFの請求書が送られてきた場合、
プリントアウトして紙で保存すると同時にPDFも保存すれば問題ありませんが、
紙で保存しているからといってPDFを破棄してしまうと、電帳法違反になってしまいます。
電子取引データ保存の義務化に対応するためには、
要件を満たした会計ソフトやクラウドサービスの導入が必要になる場合もありますし、
データの保存方法や管理方法も見直さなければいけません。
猶予期間が終了した2024年1月1日以降も電子取引データ保存に対応していない場合は、
書類の不備や不正、改ざんなどを疑われ、税制上で多くのメリットがある青色申告の承認を取り消されたり、
重加算税10%が加算されたりする可能性があります。
また、保存義務の違反は会社法第976条に定められている「過料に処すべき行為」に抵触する可能性もあり、
違反とみなされれば100万円以下の過料が科せられる場合があります。
電帳法は2021年度の税制改正で改正され、2022年1月1日に施行されましたが、
電子化の対応が間に合わない事業者が多かったことから、電子取引データ保存の義務化については、
2023年12月31日まで2年間の猶予期間が設けられていました。
しかし、電子取引データの保存にあたり『検索機能の確保』が多くの事業者にとって大きなハードルとなっており、
猶予期間を過ぎても対応が間に合っていない事業者がいることから、
2023年度の税制改正で新たな猶予措置が設けられることになりました。
新しい猶予措置で満たすべき二つの要件
電帳法に基づく電子取引データの保存は、国税庁の定める要件を満たす必要があります。
タイムスタンプの付与や履歴が残るシステムでの保存など、改ざん防止のための措置を取り、
「日付・金額・取引先で検索」することができ、さらに、電子取引データがいつでも確認できるように
「ディスプレイやプリンタ等を備え付ける」必要があります。
これらの要件を満たさないまま保存した電子取引データは、書類の不備を指摘される可能性があります。
しかし、新たな猶予措置の要件を満たしていれば、改ざん防止や検索機能など、
保存時に満たすべき要件に沿った対応が不要となり、単純に電子取引データをパソコンなどに保存するだけで済むことになります。
新たな猶予措置が認められるための要件は、以下の二点です。
(1)保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、
所轄税務署長が「相当の理由」があると認める場合(事前申請は不要)。
(2)税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」およびその電子取引データを
「プリントアウトした書面の提示・提出の求め」にそれぞれ応じることができるようにしている場合。
(1)の「相当の理由」についてはケースごとの判断となりますが、資金繰りや人員不足、
システム整備が間に合わないなどの理由で未対応の場合には、相当の理由に該当すると認められる可能性があります。
(2)の税務調査の際には、税務署の職員から要求された電子取引データをダウンロードしたり、
そのデータを印刷したりしたうえで、未対応の理由や今後の見通しなどを説明できるようにしておきましょう。
現状、猶予措置には期限が定められておらず、猶予措置を受けるための事前申請なども不要ですが、
いつまでも未対応のままでいると、「相当の理由がない」と判断されるおそれがあります。
未対応の法人や個人事業主は、できるだけ早く対応できるように準備を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。
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法人や個人事業主は、事務所に使用する建物や社用車を購入する際にローンを組むことがあります。
こうしたローンで購入した不動産や車は、購入費用を減価償却して毎年経費にできるほか、
ローンの返済時にも利息を経費として計上できます。
しかし、返済時に経費にできるのは金利のみで、借入金の元本は経費にすることができません。
また、事業のためにローンで購入したものを私的に使用した場合は、
利子が経費として認められないこともあります。
今回はローンにまつわる経費計上について解説します。
社用車の個人利用で利息が経費計上不可に!
法人や個人事業主が事業用に建物や車などを購入する際は、現金一括による支払いではなくローンを組むことによって、
手元に事業資金を残しておけるというメリットがあります。
そもそもローンとは、金融機関から資金を借りて、毎月決められた額を返済する仕組みの金融商品のことです。
ローンの返済は、借入金である「元本」と、元本に対する「利息」で構成されます。
利息は借入金の額や返済期間、借入先などによって利率が大きく異なります。
たとえば、カーローンの借入先には、金融機関やカーディーラー、信販会社などがあります。
金融機関系のローンは利率の相場が年2~4%ほど、カーディーラー系のローンは金融機関系よりも高く、
5~10%程度となっています。
カーローンは、一般的なマイカーローンのほかに、法人名義でローンを組める法人向けのカーローンもあります。
法人向けのカーローンを利用する場合、会社の財政状況や事業内容について借入先から審査を受けなければいけません。
会社を設立したばかりのタイミングでは信用度が低いため、借入先の審査が通らない可能性もあります。
また、法人名義の車は事業以外に使用することができません。
法人向けのカーローンは、ほかの法人向けのローンと同様、返済時に利息を経費として計上できます。
しかし、法人名義の車を個人で利用したことが発覚すると、利息が経費として認められないことがあるので注意しましょう。
さらに、法人名義で車を購入する場合には、車種にも注意が必要です。
具体的な指定があるわけではありませんが、スポーツカーや高級車などは、税務署から事業の用に供する社用車として
認められない場合があります。
ただし、実際の走行距離などから事業に使用していることが証明できれば、スポーツカーや高級車でも
社用車として認められる可能性があります。
ローンの元本と利息の勘定科目
事業のために組んだローンの利息を経費として計上する場合は、「支払利息」という勘定科目で計上します。
購入代金のすべてをローンで支払う場合には、購入時にローン利用額を「未払金」で処理し、
頭金や手付金などを一部支払っているのであれば、その額を「前払金」とする仕訳が必要です。
購入時には、未払金から前払金を差し引いた額がローンの利用額となります。
そして、ローンの返済時には、未払金として計上している元本から返済分を差し引くと同時に、
利息分となる支払利息を経費計上する必要があります。
では、なぜ利息は経費計上でき、元本は計上できないのでしょうか。
元本が経費として計上できないのは、金銭の貸し借りは損益とは無関係であるという前提があるためです。
税金は損益に対して課税されますが、借入金は損益には該当しないため、同じように返済した借入金の元本も経費にはなりません。
これは、事業資金専用のビジネスローンだけでなく、個人事業主の住宅ローンなどでも同じです。
ただし、ローンの元本は経費になりませんが、建物や車の減価償却費は経費として計上することができます。
つまり、建物はもちろんですが、事業用にローンで購入した車も固定資産となるため、
「減価償却」を行うことになります。
減価償却とは、経年劣化する固定資産を一度に経費計上するのではなく、
一定の年数に渡り分割して計上する会計処理の方法のことです。
固定資産は、国税庁によって法定耐用年数と計算方法がそれぞれ定められています。
たとえば、法人が新車の普通自動車を購入した場合は、法定耐用年数は6年になり、
『定率法』という計算方法を使うのが一般的です。
法人名義で建物や車などをローンで購入した場合は、減価償却費や利息、さらに手数料や維持費、
保険料や税金なども経費計上することができます。
一方、ローンの元本などは経費計上できないので、会計処理を誤らないように注意しましょう。
※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。
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法人が従業員に給与を支給する際には、あらかじめ所得税の分を給与から差し引いた額を
支払います。
外注先等(個人事業主)に報酬を支払う際も同様に、原則、報酬から所得税の分を差し引きます。
差し引いた所得税は、所得が発生した月の翌月10日までに納付しなければいけません。
この仕組みを『源泉徴収』といい、源泉徴収を行う必要がある者のことを
『源泉徴収義務者』と呼びます。
また、個人事業主でも、状況によっては源泉徴収義務者になるケースがあります。
今回は、個人事業主が源泉徴収義務者になる基準について解説します。
源泉徴収をする理由と源泉徴収義務者の範囲
所得税とは個人の所得に対してかかる税金で、基本的には本人が1年間の所得から所得税の額を計算し、
みずから税務署に納付する必要があります。
個人事業主が確定申告を行うのは、この所得税を申告して納付するためでもあります。
しかし、会社に勤めているすべての人が自分で確定申告を行うことになると、混乱が生じ、税務署側も対応しきれなくなります。
そこで、日本では会社が給与から差し引いて自社従業員全員の所得税分を預かり、
まとめて納付する源泉徴収という方法が採用されています。
会社員はみずから所得税を計算したり、納付したりする手間が省け、
税務署は徴税手続きの簡略化と申告漏れの防止が実現できます。
この源泉徴収を行う源泉徴収義務者は、法人だけではなく、給与の支払いが発生する学校や官公庁、
人格のない社団・財団なども該当します。
また、個人事業主も従業員を雇用していると源泉徴収義務者になります。
源泉徴収義務者に該当するか否かは、従業員を雇用して給与を支払っているかどうかで決まります。
ただし、個人事業主が常時2人以下の家事使用人のみを雇用している場合は、
給与を支払っていたとしても源泉徴収をする必要はなく、源泉徴収義務者にもなりません。
源泉徴収義務者は従業員だけでなく、外注先等(個人事業主)に報酬を支払う際も、源泉徴収を行う必要があります。
源泉徴収の対象になる報酬は、国税庁によって以下のように定められています。
1.原稿料や講演料など
2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4.プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5.映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才など)、テレビジョン放送等の出演などの報酬・料金や
芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6.ホテル、旅館などで行われる宴会などにおいて、客に対して接待等を行うことを業務とする
いわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
源泉徴収義務者がこれらの報酬を支払う際には、あらかじめ所得税分を報酬から差し引いて、
その分を納付する必要があるということです。
源泉徴収をされる・する側の両方になる場合
注意したいのは、源泉徴収義務者である個人事業主は、源泉徴収をされる側とする側の両方になる可能性があるということです。
たとえば、源泉徴収義務者の個人事業主であるAさんが法人のB社から仕事を受注し、
業務の一部を別の個人事業主であるCさんに発注したとします。
Aさんは自分の報酬に関しては、B社から源泉徴収をされる立場となり、Cさんに支払う報酬に関しては、源泉徴収を行う立場になります。
この場合、Aさんの所得税分はB社が源泉徴収によって税務署に納付し、
Cさんの所得税分はAさんが源泉徴収によって税務署に納付することになります。
一方で、もしAさんが源泉徴収義務者でなければ源泉徴収の必要はなく、Cさんが自分で所得税を納めることになります。
また、本来、税理士や弁護士、司法書士などに報酬を支払う場合は、支払金額に応じて源泉徴収をする必要がありますが、
源泉徴収義務者でなければこれらの報酬も基本的に源泉徴収は不要です。
では、これまで源泉徴収義務者でなかった個人事業主が、新規事業を始めることで給与を支払う立場になり、
源泉徴収義務者になった場合はどうでしょうか。
源泉徴収義務者になったのは、従業員に給与を支払っていることが主な要件となります。
そのため、法人やこれから開業する個人が新たに給与の支払いを行う場合は『給与支払事務所等の開設届出書』を、
給与支払事務所等を開設してから1カ月以内に管轄の税務署に提出しなければなりません。
一方、もともと開業している個人事業主は、基本的に開業した際に『個人事業の開業等届出書』を提出しています。
そのうえで新規事業によって給与を支払うことになった場合は、『給与支払事務所等の開設届出書』を提出する必要があるのです。
そのほかの注意点として、源泉徴収義務者になった場合は『源泉徴収票』を作成する必要があります。
国税庁の公式サイトでひな形をダウンロードできるので、利用すると便利です。
源泉徴収の際には、請求書の作成時に消費税を別にすること、確定申告で源泉徴収の還付申告をすることなども忘れないようにしましょう。
源泉徴収義務者が源泉徴収せずに給与を支払っていた場合、正当な理由があると認められないと
『不納付加算税』が課税され、さらに納付が遅れると『延滞税』も課税されます。
徴収した所得税を納付し忘れることのないように注意しましょう。
※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。
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雇用者全体の給与を基準よりも増やした企業は、『賃上げ促進税制』によって、
支給した給与のうち増額分について一定の割合を法人税から控除することができます。
この賃上げ促進税制は2022年4月からスタートしましたが、2024年度税制改正によって、
適用期間が延長されることになりました。
さらに、赤字の中小企業に対しても賃上げを促すために、賃上げを実施した年度に
法人税から控除できなかった金額を5年間は繰り越せるようになります。
賃上げ促進税制の強化によって新たに創設された、中小企業に対する『繰越控除措置』について、
説明します。
中小企業向けの賃上げ促進税制が強化された
物価の上昇や円安が続き、国民の生活は厳しい状態が続いています。
この状況に対応し、暮らしやすい環境にするため、企業による持続的な賃上げが求められています。
労働者の賃上げによる消費の拡大を狙い、政府はこれまでさまざまな『賃上げ税制』を講じてきました。
2013年に企業の賃上げ促進を目的に『所得拡大促進税制』が創設されたのを皮切りに、
以降は複数回の見直しを経て、2022年4月1日からは新たな賃上げ税制として、『賃上げ促進税制』がスタートしました。
賃上げ促進税制は、大企業向けと中小企業向けに分かれています。
中小企業向けの賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業等または個人事業主が
前年度より給与等支給額を増加させた際に、その増加額の一定の割合を法人税または所得税から控除することのできる制度です。
これまで、中小企業向けの賃上げ促進税制では、雇用者全体の給与等支給額の増加額の最大40%を控除することができました。
この割合のことを『税額控除率』といいます。
2024年度の税制改正によって、税額控除率が現行の最大40%から最大45%まで引き上げられることになります。
この強化された賃上げ促進税制においては、2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する
各事業年度が適用期間となります。
さらに、改正された賃上げ促進税制では、ある課題を解決するための措置も創設されました。
その課題とは、赤字の中小企業は賃上げを行うメリットがないというものです。
赤字の中小企業は法人税がかからないため、賃上げを行なっても、これまでは増加額の一定の金額を控除することができませんでした。
控除ができなければ節税メリットがないため、賃上げにも消極的になってしまいます。
そこで、赤字の多い中小企業にも賃上げを促すため、新たに『繰越控除措置』が創設されました。
赤字になっても別の年度に控除を繰り越せる
賃上げ促進税制での繰越控除措置とは、赤字の中小企業が賃上げを行なった年度に控除しきれなかった金額を、
5年間は繰り越すことのできる措置です。
たとえば、改正後の中小企業向けの賃上げ促進税制では、雇用者全体の給与等支給額を前年度比で2.5%アップさせた場合、
税額控除率は30%になります。
税額控除率が30%ということは、賃上げの増加分が100万円の場合は30万円を法人税額から控除できるということです。
その年度が赤字であれば法人税額は0円のため、本来は控除することができません。
しかし、繰越控除措置によって、この30万円を5年間のうちの黒字の年度に繰り越すことが可能になりました。
ただし、繰り越して控除するには、繰り越し先の黒字になった年度も雇用者全体の給与の支給額が
前年度より増えている必要があるので注意してください。
また、複数の上乗せ要件を満たすことで、税額控除率は最大で45%になります。
税額控除率が45%ということは、賃上げの増加分が100万円の場合は45万円を税額控除できるということです。
その年度が赤字であれば、5年以内で黒字になった時に45万円を控除できます。
2023年度に賃金の引き上げを実施した中小企業は約6割にもなり、給与を3%以上賃上げした企業は5割を超えました。
賃上げは税額控除による節税メリットはもちろん、優秀な人材の確保や定着、従業員のモチベーションアップなどにもつながり、
特に中小企業においては有効な施策となります。
繰越控除措置によって、赤字の中小企業でも節税の恩恵を受けられるようになった今だからこそ、
賃上げ促進税制による賃上げを検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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従業員の休暇には、労働法で定められた『法定休暇』と、その企業が独自に設ける『特別休暇』があります。
年次有給休暇などを筆頭とした法定休暇は、従業員の求めに応じて、必ず与えなければいけない休暇です。
したがって、事業者は法定休暇についての付与日数や要件などを正しく理解しておく必要があります。
一方、特別休暇は必ず従業員に与えなければいけないものではありませんが、
福利厚生の一環として導入している企業が少なくありません。
法定休暇と特別休暇の種類や日数、取得できる従業員の要件などを説明します。
日数や要件が決められている法定休暇
法定休暇には、法年次有給休暇、産前産後休業、生理休暇、育児休業、介護休業、子の看護休暇などの種類があります。
事業者は従業員に対して、これらの休暇(休業)を付与する義務があり、休暇の取得に必要な要件を満たしているにもかかわらず、
休暇を与えなかった場合は法令違反となります。
年次有給休暇は、雇用した日から6カ月間継続して勤務し、所定労働日の8割以上出勤した従業員に付与する休暇のことで、
付与する休暇の日数は勤続期間に応じて増えていきます。
勤続期間が6カ月の場合、年次有給休暇の付与日数は年10日です。
その後、1年6カ月で年11日、2年6カ月で年12日といった具合に増えていき、
勤続期間が6年6カ月の従業員には、年20日の年次有給休暇を付与します。
また、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど、週の所定労働時間が30時間未満で、
週の所定労働日が4日以下(週以外の期間によって所定労働日を定める労働者は、年間の所定労働日数が216日以下)の従業員に対しても、
規定に沿った労働日数の年次有給休暇を与えなければいけません。
年次有給休暇のほかに労働基準法では、第65条に産前産後休業、第68条に生理休暇も法定休暇と定めています。
産前産後休業と生理休暇はどちらも女性従業員を対象とした休業です。
産前休業は、当事者である女性従業員から請求があった場合、出産予定日をベースに、産前6週間(多胎妊娠は14週間)の休業を付与します。
産後休業は女性従業員からの請求がなくても、原則産後8週間の休業を付与する必要があります。
生理休暇は、生理に伴う体調不良などによって、就業が著しく困難な女性従業員に付与する休暇のことです。
原則として、女性従業員からの求めがあった場合には、就業が著しく困難である証明がなくても、休暇を付与する必要があります。
日数に関しては、生理による苦痛や就業できる程度は個人差があるため、企業側で決めることはできません。
育児休業、介護休業、子の看護休暇は、『育児・介護休業法』によって定められた法定休暇です。
育児休業は、原則として1歳未満の子どもを養育するための休業で、男女ともに求めに応じ、分割で取得させることが可能です。
介護休業は、要介護状態(負傷・疾病または身体上や精神上の障害により、2週間以上の期間に渡り常時介護が必要な状態)の家族がいる
従業員を対象とした休業で、対象家族が一人の場合は年5日、二人の場合は年10日まで取得させなければいけません。
子の看護休暇は、小学校就学前の子どもを看護するための休暇で、従業員の求めに応じて、年5日(二人以上は年10日)まで取得させる必要があります。
特別休暇を設ける際に注意しておきたいこと
法律で定められている法定休暇に対し、特別休暇はその企業が独自に定めるものなので、取得の要件や日数などの制限はありません。
一般的な特別休暇は、慶弔休暇、病気休暇、夏季休暇、冬季休暇などがあり、厚生労働省が公表した『令和4年就労条件総合調査の概況』によると、
何かしらの特別休暇を設けている企業の割合は58.9%でした。
慶弔休暇は、従業員本人の結婚や、親族の忌引きの際に付与する休暇で、取得日数は通常1日~5日ほどに設定されています。
病気休暇は、病気になった従業員の通院や入院のための休暇で、休暇中は無給とするのが一般的です。
夏季休暇や冬季休暇は、多くの企業が採用している特別休暇で、夏季はお盆の8月中旬に付与するケースが多く、日数は3~5日ほどになります。
冬季は年末年始の前後に付与することがほとんどで、土日祝日と組み合わせることで、5日~9日ほどの休暇を実現している企業もあります。
このほかにも、特別休暇には、誕生日休暇やリフレッシュ休暇、ボランティア休暇などの種類があります。
特別休暇の付与は義務ではなく、日数や有給・無給も事業主が自由に決めることができます。
福利厚生として導入すれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
ただし、取得の要件や対象者の範囲などがあいまいだと労使トラブルに発展する可能性もあるため、
取得のルールや申請手続きを明確にしたうえで、就業規則に記載し、全従業員に周知することが重要です。
まずは、法定休暇の種類や要件についてしっかり把握し、
適切に従業員に取得してもらえるように企業として注意しておきましょう。
そのうえで、特別休暇を設けるのであれば、どのような休暇が自社の福利厚生として適しているのか、
制度の設計と共に考えてみましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
2023年10月1日からインボイス制度が始まり、民間調査によると「大変」「少し大変」
と回答する事業者が8割以上を占めています。
インボイス制度によって会計処理にまつわるさまざまな実務の変更が生じ、
その対応に追われている企業は今も少なくないようです。
さらに、適格請求書(インボイス)を受け取る買手の企業の経理担当は、
新しいルールを把握しておかないと、会計上で思わぬミスを招くかもしれません。
すでにインボイス制度は始まりましたが、対応に苦慮している経理担当に向けて、
改めてインボイス制度施行後の経理業務の変更点について説明します。
請求書を区分する必要性と、端数処理の変更
インボイス制度とは正式名称を『適格請求書等保存方式』といい、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式です。
これまで採用されていた『区分記載請求書等保存方式』は、必要事項が記載された請求書や領収書であれば、
どの事業者からのものでも消費税の仕入税額控除ができました。
一方、インボイス制度の施行後は、適格請求書発行事業者が発行したインボイスでないと、
消費税の仕入税額控除ができなくなりました。
また、インボイス制度によって、インボイスを発行する売手側の事業者(適格請求書発行事業者)はもちろんですが、
インボイスを受け取る買手側の事業者も会計処理の実務に変更が生じました。
会計処理はこれまでより複雑になりましたが、変更点を理解しておけば、煩雑な経理業務の対策を講じることが可能です。
まず、実務の変更点では、買手の事業者は売手から受け取った請求書や領収書が、インボイスか否かを判断することが必要になりました。
適格請求書発行事業者ではない免税事業者からの請求書や領収書は、消費税の仕入税額控除ができないためです
(ただし、制度開始後の一定期間は、免税事業者からのものであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして
控除できる経過措置が設けられています)。
インボイスには「登録番号」「適用税率」「税率ごとの消費税額」が記載されているため、請求書がインボイスかそうではないかは判別しやすいです。
そのうえで、取引先が本当に適格請求書発行事業者なのか、『国税庁適格請求書発行事業者公表サイト』で登録番号を検索して、
確認しておきましょう。
続いて、インボイスに記載されている消費税額の計算が正しいかをチェックします。
これまでの区分記載請求書等保存方式では、商品ごとに消費税額を計算し、その都度端数の処理を行なっていました。
しかしインボイス制度では、端数の処理がインボイス1枚につき、税率ごとに1回のみと定められています。
つまり、消費税8%と10%の税率ごとに商品の売上金額を合算し、各税率をかけて求めた消費税額の端数処理をそれぞれ行うということです。
ちなみに、端数処理はこれまでと同様、「四捨五入」、「切捨て」、「切上げ」など任意の方法で行います。
端数の処理が変わったことで、消費税額にも変更が生じる可能性があります。
もし、インボイスに記載された税込金額と、計算して求めた税込金額が異なる場合は、取引先にインボイスを修正して再発行してもらうか、
もしくは発生した差額を「仮払消費税」などで調整します。
税区分と消費税額の算出パターンが増えた
仕訳もインボイス制度によって変更が生じました。
これまでの仕入は「課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と「課税仕入10%」という2つの税区分でした。
一方、インボイス制度の施行後は、「仕入税額控除の対象となる課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と
「仕入税額控除の対象となる課税仕入10%」に加え、
仕入税額控除の対象にはならない「控除対象外の課税仕入8%(通常の8%、軽減税率8%)」と
「控除対象外の課税仕入10%」という4つの税区分で仕訳を行うことになります。
さらに、免税事業者からの請求書や領収書であっても、経過措置として、2026年9月までは仕入税額相当の80%、
2029年9月までは仕入税額相当の50%が控除できます。
そのため、これらの仕入を仕訳する際には「80%控除対象」「50%控除対象」や
「免税事業者からの仕入れ」と記載して、区分することになります。
また、売上と仕入に対する消費税額の計算方式が固定だったものから、
税率ごとに区分して集計したものに消費税率を乗じて計算した金額から消費税額を算出する「割戻し計算」と、
集計期間において、1仕訳単位で取引金額(税込価額)を消費税額と本体価額(税抜価額)に区分し、
その消費税額を積み上げて計算を行う「積上げ計算」のいずれかを選択できるようになりました。
この選択により、売上や仕入に対する消費税額を少なくすることが可能です。
ただ、どちらの方式がその事業者にとって有利になるか判断するのはむずかしい一面もあります。
インボイス制度の導入により事業者にとってメリットとなる部分はありつつも、煩雑な処理が増えている分、ミスが起こりうる可能性もあります。
たとえばインボイス制度に対応した会計システムを利用するなど、どの書類をどのように処理するかの判断は事業者みずから行うことになります。
判断に困った場合は、税に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
一人でも労働者を雇用する事業主は、業種や規模にかかわらず、
労災保険に加入する必要があります。
労災保険は正式名称を『労働者災害補償保険』といい、
業務上の事由や通勤中に起きたケガや病気、死亡などに対して、
給付などの補償が行われます。
この労災保険は原則として労働者を保護するものですが、
一部の事業主やフリーランスとして働く個人事業主は特別加入制度により、
任意での加入が認められていました。
この特別加入制度の対象の範囲が大幅に拡大する可能性があります。
労災の現状と今後の見通しについて、考えていきます。
労働者かフリーランスかは労働者性で判断
労災保険は労働者を使用する事業を適用事業とし、補償の対象となるのは、
正社員や契約社員、パートやアルバイトなど、職種や雇用形態を問わず、
すべての労働者と定められています。
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づく公的保険で、原
則的には雇用されている労働者を保護するための制度です。
したがって、事業または事務所に使用されておらず、労働者ではない事業主や会社役員などは、
労災保険による補償の対象にはなりません。
また、事業者と「業務委託」や「業務請負」などの契約を結んで働くフリーランスなども、
労災保険の対象外になります。
特定の業務に対して事業者側から報酬を受け取る業務委託契約や業務請負契約は、
雇用契約ではないため、業務中にケガや病気をしても補償を受けることはできません。
しかし、2023年11月、ネット通販大手『アマゾン』の配達業務に就いていたフリーランスの運転手が
配達中に負ったケガに対し、管轄の労働基準監督署は『労災』を認定しました。
運転手はアマゾンの配送を取り扱う運送会社と業務委託契約を結んでいたフリーランスであるにもかかわらず、
労基署が労働者とみなしたことになります。
労働基準法では、労働者に該当するか否かの判断基準を『労働者性』といい、
たとえ形式上は業務委託契約であったとしても、労働者性があれば労働者と認められる場合があります。
そして、この労働者性を見極める主なポイントは、他人の指揮監督下にあるかどうかと、
指揮監督下における労働の対価として報酬が支払われているかどうかの二つになります(使用従属性)。
たとえば、フリーランスであっても勤務場所や勤務時間が拘束されていたり、
業務の拒否権がなかったりすると、指揮監督下にあるとされ、労働者性が高いことになります。
この使用従属性については、明確な基準に基づき画一的に判断されるわけではなく、
個々の事案ごとに総合的に判断される点に注意が必要です。
先の運転手は、アマゾンと運送会社にアプリを通じて配達先や労働時間が管理されており、
両社の指揮監督下にあると判断されました。
つまり、独立したフリーランスでありながら、実質的に雇用された労働者と同等の働き方になっていたことから、
労災が認められたことになります。
すべてのフリーランス対象の特別加入制度
フリーランスである運転手の労災が認められた一件は、
同様の働き方を行うフリーランスの保護につながるという見方があります。
フリーランスとは、自身で事業等を営んでいる特定受託業務従事者で、従業員を雇用しておらず、
実店舗を持たない人のことを指します。
多様な働き方が重んじられる現代において、さらにコロナ禍を経たことにより、
フリーランスとして働く人の数は飛躍的に増えています。
そのようななか、同じ企業から継続的に業務の委託を受けるなど、
労働者に近い働き方をしているフリーランスも多いのが現状です。
厚生労働省ではこうした現状をふまえ、これまで一部のフリーランスしか加入することができなかった
『特別加入制度』の対象範囲の拡大・運用を検討しています。
特別加入制度とは、その業務の実情や災害の発生状況などから、労働者ではなくても、
労働者に準じて保護する必要がある中小事業主や一人親方、特定作業従事者、海外派遣者、
一部の個人事業主の加入を認める制度のことです。
これまで何度か特別加入の対象の拡大が行われており、2021年にはフリーランスでも
ITフリーランスや自転車を使用して貨物運送事業を行う者、芸能関係作業従事者など、
一部の業種で特別加入が認められました。
内閣府の調査によると、現在のフリーランスの数は本業と副業を合わせて約462万人という試算が出ています。
特別加入制度の範囲が拡大されることで、これらすべてのフリーランスにとって
新たなセーフティーネットができることになります。
具体的にどのような制度になるのかなど、フリーランスは今後の行方を注視していく必要があります。
※本記事の記載内容は、2024年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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法人は事業年度ごとに決算を行い、所得に応じた法人税を
納めなければいけません。
確定申告には『青色申告』と『白色申告』の2種類があり、
青色申告で申告しない場合は自動的に白色申告で申告することになります。
確定申告を行う個人事業主に選ばれているイメージのある青色申告ですが、
法人でも青色申告をすることにより節税などのメリットを享受できます。
ただし、青色申告を行うには税務署に申請する必要があり、提出期限も決められています。
今回は、会社を設立した際に検討しておきたい、法人の青色申告について解説します。
白色申告は単式簿記、青色申告は複式簿記
確定申告における青色申告と白色申告の大きな違いは、帳簿のつけ方にあります。
白色申告は日々の取引を単式簿記により帳簿に記帳し、会計を行います。
これに対し、青色申告は「複式簿記」が義務づけられており、
取引ごとに借方と貸方という二つの側面から記帳しなければいけません。
単式簿記は家計簿やお小遣い帳のような比較的シンプルで簡易的な帳簿ですが、
複式簿記は単式簿記よりも複雑で、簿記や会計の知識がある程度は必要になります。
しかし、会社の売上や経費などの財政状況を正確に把握するためには、事業における損益の把握、
お金の増減や出納などの情報を細かく記載できる複式簿記が欠かせません。
特に、金融機関の融資を受ける際などは、損益計算書や貸借対照表といった財務諸表を
金融機関に提出することになります。
その際、複式簿記による記帳を行なっていないと、この財務諸表を作成することもむずかしくなります。
また、複式簿記は記帳が複雑といっても、法人であれば簿記の知識がある会計担当者や、
顧問の税理士に任せることが可能であり、会計ソフトを活用すれば比較的スムーズに作成できます。
そのため、一般的な会社であれば複式簿記での記帳はすぐにできるはずですので、青色申告をしやすいでしょう。
青色申告は税制面でもさまざまなメリットがあるため、ほとんどの法人は立ち上げ時に青色申告の申請を
行なっています。
実際に、国税庁の調査によれば、法人の9割以上は複式簿記が必要になる青色申告で確定申告を行なっている
というデータもあります。
法人が青色申告を行う節税メリット
法人の場合は青色申告を行うことで、具体的にどのような節税が可能なのでしょうか。
個人事業主の青色申告といえば、要件を満たすことで最大65万円を所得金額から控除できる
『特別控除』がよく知られています。
ですが、この65万円の特別控除は法人には特にありません。
法人が青色申告を行う最大のメリットといえば、「欠損金の繰越控除」と「欠損金の繰戻還付」が
あげられます。
欠損金の繰越控除とは、今期の事業が赤字になってしまっても、
10年間は赤字を繰り越すことができるというものです。
黒字になった期には繰り越した赤字と相殺することで、その期の税金を抑えることができます。
また、欠損金の繰戻還付は、前期が黒字で今期が赤字だった場合に赤字分を黒字分と相殺し、
前期に支払った法人税のうち、相殺した分の法人税が還付されるというものです。
ほかにも、通常は業務のために用いられた機械や備品など、10万円以上の資産は数年に渡って減価償却する必要が
ありますが、青色申告では特例として、取得価額が30万円未満の減価償却資産は、一定の要件をもとに
一括で損金に算入することが認められています。
ただし、この特例が使えるのは資本金1億円以下の中小企業者等のみなので注意してください。
ちなみに個人事業主の場合も青色申告を行なっていれば、欠損金の繰越控除が認められています。
しかし、繰り越せる期間は3年しかありません。
承認申請書を税務署に提出する期限に注意!
青色申告で確定申告を行うには、青色申告の承認申請書に必要事項を記入し、
管轄の税務署に提出する必要があります。
ここで気をつけたいのが提出期限です。
法人の場合は原則、青色申告で確定申告を行いたい年度の事業年度開始日の前日までに、
承認申請書を提出しなければいけません。
事業年度開始日が4月1日の場合は、3月31日までに提出する必要があり、
提出期限を過ぎてしまうと、その年度は白色申告で確定申告を行うことになります。
また、新規で法人を立ち上げた場合は、会社設立日の3カ月を経過した日、
もしくは事業年度終了の日のどちらか早い日の前日までと決められています。
会社を設立すると、法人登記や各自治体への届け出など、いくつもの作業を行うことになります。
節税などメリットが多い青色申告で確定申告を行うのであれば、ほかの手続きと併せて、早
いタイミングで税務署に承認申請書を提出することをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2024年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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国税庁は令和3年に、税務行政手続きなどのデジタル活用に関する方針を
まとめた『税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-
税務行政の将来像2.0-』を公表しました。
そのなかで「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に
向けた構想などを示し、実現に向けて工程表を掲載しています。
たとえば、確定申告について自宅からのe-Taxを標準化し、マイナンバーカードで取得できる情報を
順次拡大することを目標として掲げています。
今回は、マイナンバーカードとe-Taxでより申告しやすくなった確定申告について解説します。
税務署に行かない確定申告を目指して
コロナ禍以降、国は税務署へ行って長時間かけて申告をするのではなく、
自宅から申告できる確定申告の方法を推奨しています。
自宅での作業を中心に申告を完了できる方法は、主に4つあります。
1つ目は、国税庁のWebサイトから確定申告書類をダウンロードし、印刷のうえ、
必要事項を記入して税務署に郵送する方法です。
2つ目は、所轄の税務署や確定申告会場、市区町村の担当窓口や指導相談会場に出向いて
確定申告書類を受け取り、自宅に持ち帰って記入・郵送する方法です。
用紙の受け取りのみなら、税務署などに赴いても短時間で済みます。
3つ目は、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」で必要な情報を入力してデータを作成し、
そのデータをダウンロードおよび印刷してから税務署に郵送する方法です。
そして4つ目は、オンラインによるe-Taxを利用して申請する方法です。
e-Taxは国税の電子申告・納税システムのことをいいます。
e-Taxソフトまたは前述の確定申告書等作成コーナーを利用して作成した確定申告のデータを、
e-Taxを通して税務署に提出することができます。
特に、e-Taxは基本的にオンライン上で申告が完結するため、
国が税務行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の一環として推奨しています。
e-Taxでのオンライン申告は、申告者だけでなく税務署にもメリットがあります。
紙の使用を減らし、データで確定申告の管理と処理を行うことで、業務の効率化が実現します。
申告の方法としてe-Taxでのオンライン申告が主流になれば、税務署の業務効率化が進み、
納税者への諸手続き(税金の納付や還付など)もこれまでよりスムーズに実施されるでしょう。
e-Taxはパソコンだけでなくスマートフォンからも利用でき、入力方法も年々わかりやすくなってきています。
今後、e-Taxによる確定申告はますます増えるでしょう。
令和5年度の確定申告で便利になること
令和5年度の確定申告(令和6年1月上旬~)では、国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーで、
以下の2つの便利な機能が追加されます。
まず、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービスで、行政サービスの検索やオンライン申請、
お知らせの受取りなどができる自分専用サイト)と連携することで、申告書の一部が自動で入力されます。
マイナポータル連携とは、年末調整や確定申告の手続きの際に、
マイナポータル経由で控除証明書などのデータを一括取得し、各種申告書の該当項目へ自動入力する機能です。
令和5年度分からは、収入関係は「給与所得の源泉徴収票」が、
控除関係は社会保険の「国民年金基金掛金」と「iDeCo」「小規模企業共済掛金」が、
各種申告書の該当項目へ自動入力されるようになり、手入力が不要になります。
もう一つの便利な機能は、インボイス発行事業者の消費税の申告がよりスムーズに行えることです。
確定申告書等作成コーナーで作ったデータを、e-Taxのシステムを利用して申告することが可能です。
また、今回の追加機能によって、たとえばいわゆる「2割特例」についても、確定申告書等作成コーナーで
申告書を作成できるようになります。
2割特例は、2023年10月から開始されたインボイス制度を機に、免税事業者から課税事業者になり、
一定の要件を満たす事業者に向けて設けられた制度です。
この特例を選択すると、インボイスがなくても、仕入れや経費に掛かる消費税額を
売上げに係る消費税額の8割とすることができます。
この2割特例や簡易課税制度の申告書を確定申告書等作成コーナーで作成する場合、
売上(収入)金額などの入力だけで税額等が自動計算されます。
ただし、これらの方法を活用するためには、マイナンバーカードが必須です。
もし、まだマイナンバーカードを取得しておらず、e-Taxでインボイス発行事業者の消費税の申告をしたい場合は、
早めにマイナンバーカードを取得しましょう。
e-Taxでマイナンバーカードを使う場合はカードリーダーか、二次元バーコードを読み取れるスマートフォン
(マイナポータルアプリのインストールが必要)があれば、手軽に申告できるのでおすすめです。
令和5年度の確定申告は、マイナンバーカードとe-Taxの活用によって新たに一部簡素化され、手続きしやすくなります。
国が推進している税務行政のDXをぜひ体感するために、確定申告をする予定がある人は、
自宅からe-Taxを使って手続きしてみるのも良いかもしれません。
※本記事の記載内容は、2023年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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『労災』とは労働災害の略で、労働者が就業中や通勤中にこうむった負傷や疾病、
死亡などのことを指します。
労災が労働基準監督署長によって認定されると、被災した労働者に対して、
国が給付金などの補償を行います。
この労災を認定するための基準を『労災認定基準』と呼びます。
2023年9月1日には、心理的負荷による精神障害の労災認定基準に
カスタマーハラスメント(以下カスハラ)や感染症等のリスクが新たに追加されることになりました。
労災が起きた際に迅速に対応ができるように、改正された労災認定基準について理解を深めておきましょう。
ケースごとにある労災認定基準
労災が発生した場合、事業者は労災保険給付の請求を労働基準監督署長宛で行う必要があります。
この請求を行うためには、労災の認定基準を理解しておかなければいけません。
事故による怪我や死亡が、労災として認められるかは『業務遂行性』と『業務起因性』の
2つの要件から判断されます。
まず、業務遂行性とは、事故が就業中であったか否かによって判断されることで、
就業中であることに加え事業主の支配下や管理下という観点に基づいて判断される事故なども認められます。
たとえば、始業前や休憩中、出張の移動中に起きた事故も該当します。
業務起因性とは、業務に起因して災害が発生し、その災害によって労働者に傷病等が発生したという
因果関係をもとに判断されます。
これら2つの判断基準を満たすことで労災が認定されます。
一方で、事故ではないものの、過労などが原因で従業員が脳内出血やくも膜下出血、
脳梗塞や心筋梗塞などを患うケースもあります。
こうした脳や心臓の疾病については、業務による明らかな過重負荷があったかどうかが、
労災の認定基準になります。
そして、身体の怪我や疾病だけではなく、うつ病や適応障害など、従業員の心理的負荷による精神障害に対しても
労災の認定が行われます。
従業員の精神疾患が労災と認定されるには、以下の要件を満たす必要があります。
・対象疾病を発病していること
・対象疾病の発病前の概ね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
・業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと など
ここで、心理的負荷による精神障害に対する労災認定基準のポイントになるのが
「業務による強い心理的負荷」という部分です。
心理的負荷とはストレスのことで、労災と認められるためには、どのような「強いストレス」があったのかを
明確にしなければいけません。
ストレスの度合いは評価表を元に判断する
心理的負荷の度合いは、『業務による心理的負荷評価表(以下、心理的負荷評価表)』に沿って判断します。
心理的負荷評価表は「特別な出来事」と「特別な出来事以外(具体的出来事)」に分けられます。
該当する状態が特別な出来事(心理的負荷が極度なもの)に起因するものだった場合は、
心理的負荷の総合評価が『強』だったと判断されます。
具体的には、「生死にかかわる極度の苦痛を伴う、または永久労働不能となる後遺障害を残す
業務上の病気や怪我をした」ケースや「本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為など
セクシュアルハラスメントを受けた」ケースなどです。
そのほか、「発病直前の1カ月に概ね160時間を超えるような極度の長時間労働を行った」場合などもあります。
このような特別な出来事に該当する場合は、強いストレスを受けているとされ、
労災に認定される可能性が高くなります。
また、特別な出来事に該当しない場合は、具体的出来事でストレスの度合いを判断します。
具体的出来事は、出来事の類型ごとに「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」や
「同僚等から、暴行またはひどいいじめ・嫌がらせを受けた」など、29種類に分類されており、
それぞれストレスの度合いが「弱」「中」「強」に設定されています。
この総合評価で、ストレスの程度を確認し、総合的に「強」と判断されれば、労災と認定される可能性が高くなります。
具体的出来事に追加されたカスハラと感染症
2023年9月1日に、この心理的負担による精神障害の認定基準が改正されました。
改正に伴い、業務による心理的負荷評価表が見直しされ、具体的出来事に
「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(いわゆるカスタマーハラスメント)」と、
「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。
この改正は、カスハラ被害の増加や新型コロナウイルス感染拡大などを背景に、
社会情勢の変化をふまえたものといえるでしょう。
今後はカスハラや、感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したことに起因する精神障害なども、
労災と認められる可能性があります。
特に、企業においてはパワハラやセクハラと同等に、カスハラ対策に取り組むことが、
労災を防ぐ重要なポイントになるでしょう。
日本労働組合総連合会が2022年に行った『カスタマー・ハラスメントに関する調査2022』によると、
調査対象者数のうち67.5%の人が直近3年間でカスハラを受けたと回答しました。
そして、カスハラを受けたことにより「出勤が憂鬱になった」「心身に不調をきたした」という、
事業主としても見逃すわけにはいかない従業員の不調もあげられました。
同調査では、36.9%が直近5年間でのカスハラの発生件数が増えたとも回答しています。
どのような行為がカスハラに該当するのかなど、理解や周知が足りていない場合は、
厚生労働省が作成した『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』などを参考に、
社内でカスハラに対する周知を進めていきましょう。
各種労災の認定基準は、社会情勢や労災の請求件数などから医学的知見などをふまえて、随時改正されます。
企業としては、労働者が安心して業務を行えるように、また労災が発生しないように
日頃から労働環境の整備・改善を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年11月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
消費税の申告の際には、売上にかかった受取消費税から仕入れにかかった支払消費税
を差し引く『仕入税額控除』の計算を行います。
こちらは、生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、
税が累積しない仕組みがとられています。
しかし、すべての取引について控除額を計算するのは非常に手間と時間がかかります。
そこで、通常の計算方法である原則課税のほかに、『
みなし仕入率』をもとに納税額を求めることのできる『簡易課税制度』が設けられています。
インボイス制度のスタートに伴い免税事業者から課税事業者となった事業者にも関係する、
簡易課税制度について説明します。
消費税額を求めるには原則課税か簡易課税
消費税を申告する際に原則課税で仕入税額控除の計算を行う場合は、
売上にかかった受取消費税から仕入れにかかった支払消費税を差し引き、
その差額を納税することになります。
しかし、消費税は取引の内容によって、課税対象となる『課税取引』と、
課税対象にならない『不課税取引』や『非課税取引』が存在し、原則課税で計算する際には
それぞれ分けて計算・管理しなければいけません。
不課税取引は給与や出資に対する配当、寄附、贈与などの消費税が発生しない取引のことで、
非課税取引は土地や有価証券、商品券などの譲渡など、本来は消費税がかかるものの、
社会政策的配慮などにより消費税を課すのにふさわしくないとされている取引のことを指します。
さらに、2023年10月1日からスタートしたインボイス制度の導入によって、仕入税額控除が行なえるのは、
適格請求書発行事業者が発行する適格請求書の形式に則った請求書や領収書のみになりました。
原則課税で仕入税額控除の計算をするには、適格請求書発行事業者の登録番号が記載された適格請求書と、
記載されていない請求書や領収書を分けて管理する必要があります。
しかし、請求書などを分けたうえで、すべての取引について控除額を計算していたのでは、
手間も時間もかかってしまいます。
特に規模の小さい中小事業者が負う事務負担は、計り知れません。
そこで、正確な納税額を求めさせるのではなく、『みなし仕入率』をもとに、
おおよその納税額を算出して納税させるという、中小事業者の事務負担の軽減を目的とした
『簡易課税制度』という制度が設けられています。
簡易課税に使用するみなし仕入率には下記の通り、6つの区分があり、業種によって割合が異なります。
第1種事業:90% 卸売業
第2種事業:80% 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)
第3種事業:70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、
鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業
第4種事業:60% 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業
第5種事業:50% 運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)
第6種事業:40% 不動産業
課税事業者はそれぞれ該当するみなし仕入率を受取消費税に掛けて、みなし仕入税額控除を算出し、
さらに受取消費税から差し引くことで納税額を求めることができます。
消費税の計算が簡単に&節税効果もあり?
簡易課税の最大のメリットは、計算する際に仕入れにかかった支払消費税の請求書や領収書が不要になり、
事務負担を減らせるところにあります。
簡易課税で必要なのは、あくまで売上にかかった受取消費税だけなので、
課税取引の有無や適格請求書の形式に沿っているかどうかなどは気にする必要がありません。
また、簡易課税で計算することで、業種によっては節税になる可能性もあります。
たとえば、サービス業を営む事業者のある期の売上にかかった受取消費税が40万円で、
仕入れにかかった支払消費税が15万円だったとします。
その場合、原則課税で計算すると納税する消費税は
「受取消費税40万円-支払消費税15万円」で25万円になりますが、
簡易課税の場合は、「受取消費税40万円-(受取消費税40万円×みなし仕入率50%)」となるため、
納税する消費税は20万円で済むことになります。
こうしたメリットのある簡易課税制度ですが、誰もが利用できるわけではありません。
簡易課税制度の適用を受けることができるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、
『消費税簡易課税制度選択届出書』を事前に提出している事業者に限られます。
基準期間とは、消費税の計算・申告を行う時点(課税期間)から
原則として個人事業者については前々年、法人については前々事業年度での期間を指し、
課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上高で、その金額が5,000万円以下になっている必要があります。
消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄の税務署に提出しましょう。
インボイス制度によって、免税事業者から新たに課税事業者になった事業者は、
緩和措置の一つとして、納税額が売上にかかった受取消費税の2割に軽減される『2割特例』が適用されます。
しかし、期限は2026年9月30日までとなっており、期限を過ぎてからは原則課税か簡易課税で
納税額を計算することになるため、注意が必要です。
インボイス制度の導入によって、さまざまな業務負担の増加が見込まれます。
みなし仕入率を用いた簡易課税制度の適用が受けられるのであれば、
期限を過ぎてから慌てることのないように、早い段階で準備をしておきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年11月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
事務所の家賃や会社で支払っている保険料などは通常、翌月分を前月までに
支払います。
会計処理上は前払費用で計上し、役務(サービス)の提供を受けた月に
経費として振り替えます。
しかし、事務的な負担を軽減するために、家賃などの費用は
一定の条件を満たせば、決算月に年払いして損金に算入することが
特例として認められています。
この年払いできる費用は『短期前払費用』と呼ばれ、
たとえば家賃の場合、1年分を一括で決算月に経費計上できます。
今回は、節税対策にもなる短期前払費用について解説します。
収入に紐づかない重要性の低い費用への特例
短期前払費用はあくまで例外的な措置で、特例が認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
短期前払費用として認められれば、支払い時に経費計上ができ、支払いにかかわる消費税についても
決算月に仕入税額控除を行うことができます。
支払い時に損金に算入し、消費税の仕入税額控除もできれば、その年度の税金を軽減することが可能です。
逆に、短期前払費用として認められなければ、支払い時の事業年度内で役務の提供を受けていないにもかかわらず、
未提供部分の費用が課税所得に加算され、納めるべき税金が増えてしまいます。
節税対策のためにも、家賃などの前払費用を短期前払費用にするのが望ましいですが、
適用には以下の要件をすべて満たさなければいけません。
1.一定の契約に基づいたものであること
家賃であれば貸主、保険料であれば保険会社との契約に基づいたものである必要があります。
月払いで契約していたのにもかかわらず、貸主の了承を得ないまま1年分の家賃を支払ってしまうと、
短期前払費用として認められません。
もし、短期前払費用として特例を使用するのであれば、前もって月払い契約を年払い契約に変更しておきましょう。
2.当期中に支払いが済んでいること
年払い契約に変更済みであれば、実際に当期中に家賃や保険料の1年分の支払いを済ませている必要があります。
3.支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
支払いのタイミングによっては、損金に算入できないものもあります。
たとえば、3月が決算月の法人が、3月に4月~翌3月分の家賃を支払った場合は、
1年以内に役務の提供を受けるという要件を満たします。
しかし、2月に4月~翌3月分の家賃を支払った場合は、役務の提供を受ける期間が1年を超えてしまうため、
全額を損金として算入できないことになります。
一方、自動車の自賠責保険料についてはこの限りではありません。
3年分を一括で支払う自動車の自賠責保険料はこの要件に合致しませんが、継続的な適用を条件に、
支払い時に一括して経費計上することが可能です。
4.等量・等質の役務の提供を継続的に受けるものであること
『等量・等質』とは、同じ内容、同じ質、同じ量という意味です。
家賃や保険料、駐車場代などは、月ごとに役務の内容や質や量が変わることはありません。
一方、弁護士や税理士などへの顧問料やコンサルティング料などは、毎月同じ額の料金を支払っていたとしても、
月ごとに役務の内容や質が異なるため、短期前払費用として認められません。
ほかにも、従業員への前払給料や定期的な広告料、サブリースの賃借料なども、短期前払費用の対象外です。
5.収入に紐づいている取引ではないこと
通常、事務所の家賃などは短期前払費用にできますが、借りているマンションなどを他人に貸して
賃貸料収入を得ている場合などは、そのための家賃が短期前払費用として認められることはありません。
収益に直接つながる費用は、特例の適用外となります。
また、従業員から賃料を受け取っている社宅の家賃なども、短期前払費用にはなりません。
短期前払費用は、あくまで収益に直接対応しない、重要性の低い費用に対しての特例です。
売上に直接かかわるような取引への費用や、営業費用に該当するとみられる費用などは、
毎月、定額の支払いがあるとしても、短期前払費用には認められません。
家賃や保険料などを年払いにして、1年分を経費計上できる短期前払費用の特例は、
積極的に利用したい節税対策の一つです。
※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。
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『年次有給休暇』とは、一定の期間継続して勤務した従業員が心身の疲労を回復し、
ゆとりある生活を送ることを目的とした休暇のことです。
有給なので、従業員は年次有給休暇を取得する際、その分の賃金の支払いを受けます。
年次有給休暇の取得は、休暇を希望する従業員が会社に届出を行なうのが一般的です
が、その方法は法律で定められておらず、各社がそれぞれ独自にルールを定めています。
しかし、届出のルールによっては、労働基準法に違反してしまうケースもあります。
労働基準法違反にならないように、年次有給休暇の届出のルールを改めて確認しましょう。
年次有休は自由に取得できる労働者の権利
従業員には会社が定める所定休日とは別に、年次有給休暇を付与することが労働基準法によって義務づけられています。
年次有給休暇を取得できるのは、雇い入れの日から継続して6カ月が経過しており、その期間の全労働日の
8割以上出勤している労働者に限られます。
有休休暇の付与方法は会社によってさまざまですが、要件を満たしたタイミングで、規定の日数以上の
年次有給休暇を与えなければいけません。
また、付与日数は継続勤務年数ごとに増えていき、雇入れの日から起算した勤続期間が6年6カ月以上の従業員には
20日間の年次有給休暇を付与する必要があります。
パートやアルバイトなど、所定労働日数が少ない短時間労働者であっても、週の所定労働時間が30時間未満かつ
週の所定労働日数が4日以下、または週所定労働時間が30時間未満かつ1年間の所定労働日数が216日以下の従業員には、
所定労働日数に応じて年次有給休暇を付与します。
年次有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利なので、本来は取得する際に会社側の許可や調整などは必要ありません。
付与された日数内であれば、従業員は原則自由にいつでも取得することができます。
しかし、従業員の誰もが希望する期間やタイミングで年次有給休暇を取得してしまうと、
極端に労働力の足りない日が出てきてしまい、業務に支障をきたしてしまいます。
そのような事態を防ぐために、大半の会社は年次有給休暇の届出に関するルールを定め、就業規則などに記載しています。
しかし、ルールによっては労働基準法に抵触する可能性もあり、裁判などで無効と判断される場合もあります。
まずは、自社の就業規則が法的に問題のないルールになっているかを確認しましょう。
届出の日数の注意点と時季変更権
年次有給休暇のルールを定める際に重要なのは、届出の期限に関しての規定です。
原則として、年次有給休暇は従業員から指定された希望の日時に取得させる必要があり、
「◯日前までの届出を義務づける」など、届出の期限を設定することは認められていません。
前日に従業員から届出を受けても、会社側は拒否することはできないのです。
ルールを策定するうえでのポイントは、就業規則に「特別な理由がない限り、◯日前までの届出を要する」と記載するなどして、
特別な理由があれば前日の届出も可能である旨を盛り込んでおくことです。
また、届出を要する期間も合理的な範囲内にする必要があります。
会社の業態などによって、届出を要する期間はさまざまですが、通常は2~3日前であれば合理的な範囲といえます。
しかし、たとえば「3カ月前までの届出」とすると、長期間にする合理的な理由がない限りは、無効と判断されることが
ほとんどです。
一方で、繁忙期のタイミングや複数の従業員から同時期に有給休暇の請求があった場合に、
会社側は労働基準法第39条第5項に基づき、従業員の年次有給休暇を別の日にすることができます。
この労働者から請求された年次有給休暇を変更できる会社側の権利のことを『時季変更権』といいます。
時季変更権が認められるのは、従業員から請求されたときに有給休暇を与えることで、事業の正常な運営が
妨げられる場合に限られます。
ただし、会社はまず代理勤務の手当てをするなど努力を検討することが求められます。
必ずしも時季変更権が行使できるわけではないことに注意しましょう。
また、単に「人手不足だから」「いつもより忙しくなりそうだから」という理由で、時季変更権が認められることはありません。
時季変更権を行使した場合は、該当の従業員に、再び希望の年休取得日を指定してもらうようにしましょう。
その際、会社側から年休取得日を指定してはいけません。
日本では、年次有給休暇が制度として存在しているにもかかわらず、かねてから年次有給休暇取得率が
全体的に低いという問題がありました。
2019年4月1日には、『働き方改革』の一つとして労働基準法が改正されました。
そのなかで、一年で新たに付与された法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に対し、
年5日は確実に年次有給休暇を取得させることが事業者に義務づけられました。
なお、時季指定の場合は労働者の意見を聞くこと、年次有給休暇管理簿を作成し5年間保管することが必要です。
従業員に年次有給休暇の取得を促すために、5日を超える分については、労使協定を結んだうえで、
会社側が従業員の年休取得日をあらかじめ決めておける『年次有給休暇の計画的付与制度』を導入しているところもあります。
ちなみに、年次有給休暇の労使協定は、計画的付与や時間単位年休制度など内容によってさまざまあります。
半休制度については労使協定は不要です。いずれの場合も就業規則への記載は必須となります。
大切なのは、自社に合わせたルールや制度の設計です。
会社側は年次有給休暇について理解を深め、適正な取り扱いを心がけるべきでしょう。
※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
取引先が倒産してしまい、売掛金や貸付金などの債権が回収できないことを
『貸倒れ』といいます。
取引先の倒産は極力避けたいものですが、自社ではどうすることもできません。
しかし、万が一に備え、貸倒れを避けるためにあらかじめ回収できなさそうな
金額を見積もり、『貸倒引当金』として経費計上をしておくことが可能です。
法人や個人事業主にとって節税効果もある、貸倒引当金を計上する際の方法や注意点などを解説します。
将来的に回収できそうな債権とは?
貸倒引当金とは、貸倒れに備えて損失額を予想し、損金として経費計上する引当金のことです。
引当金とは、将来的に発生する費用や損失に備えて予算に繰り入れておく見積金のことで、
この貸倒引当金のほかにも、従業員に支払う退職金に備えた『退職給付引当金』や、
修繕に備えて積み立てる『修繕引当金』などがあります。
貸倒引当金は、将来的に回収できなさそうな取引先の債権を備えとして計上するための引当金であり、
実際に損失が発生していなくても経費として計上できます。
そのため支出を伴わずに、課税される所得を減らすことが可能です。
ただし、どんな債権でも貸倒引当金として計上できるわけではありません。
計上できる債権は、回収できる可能性が低く、事業と関係のあるものに限られます。
たとえば、回収できない見込みの売掛金や貸付金、受取手形、未収金などは対象になりますが、
前渡金や保証金、敷金、手付金などは対象外になります。
貸倒引当金は事業年度の末日に、回収できない債権の見積を出して、その金額を損金として計上することに
なります。
貸倒引当金として計上する債権は、回収できる可能性のない取引先別で処理する『個別評価金銭債権(不良債権)』
と『一括評価金銭債権(不良債権以外)』に分け、それぞれの債権に応じた計算方法で金額を算出します。
更生手続開始の申立てや更生計画認可の決定が行われているなど、回収が極めてむずかしい債権は『個別評価』、
それ以外の債権は『一括評価』で貸倒引当金を算出します。
貸倒引当金の繰入限度額は個別評価と一括評価でそれぞれ異なるため、前もって確認しておくようにしましょう。
貸倒引当金として経費計上する際の注意点
回収できる可能性がある『一括評価』で貸倒引当金を計上した場合は、
損失が発生しなかった分に関して、翌年度の収益に計上する必要があります。
これを『戻し入れ』といい、会計上は『貸倒引当金戻入』という勘定科目で仕訳を行います。
貸倒引当金戻入の会計処理には、2種類の方法があります。
まず、前期末に計上された貸倒引当金を全額消し込む処理をし、当期末において計上されるべき貸倒引当金の
正しい金額を改めて繰り入れる『洗替法』です。
次に、前期に計上した貸倒引当金から当期末に発生した実際の貸倒引当金の差額を求め、
足りない分を戻し入れる『差額補充法』です。
貸倒引当金は事業年度ごとに計算するため、どちらの会計処理を行ったとしても、
節税効果を得られるのは最初に貸倒引当金を計上した1年目だけになります。
2年目からの節税効果はほとんどありません。
また、貸倒れによる損失が発生せずに、戻し入れの金額が当期の繰り入れた金額よりも増えてしまうと、
当期の所得を上げてしまうことになるので、注意が必要です。
なお、貸倒引当金が適用できるのは、法人であれば資本金が1億円以下の中小法人(大企業の完全子会社除く)や
一部の金融機関などに限られます。
個人事業主は青色申告でも白色申告でも、貸倒引当金を計上することができます。
ただし、青色申告の場合は一括評価で貸倒引当金として計上できますが、
白色申告の場合は個別評価による貸倒引当金しか計上することができません。
法人にも個人事業主にも節税メリットのある貸倒引当金ですが、計上するための計算方法や会計処理は複雑です。
貸倒引当金の経費計上についてお困りのことがあればお気軽にご相談ください。
※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
事業を始める場合、個人事業主か、もしくは法人のどちらかで始めることに
なります。
個人事業主と法人は、開業の手続きや税金、信用度などの面でさまざまな違いが
あり、認められる経費の範囲も異なります。
どちらも、事業にかかった費用は経費として計上できます。
さらに、法人は個人事業主よりも認められる経費の範囲が広いため、個人事業主から法人になる
『法人成り』によって、その恩恵を受けることが可能です。
今回は、法人成りすると認められる経費について説明しましょう。
個人事業主と法人の経費に対する考え方
経費とは事業に使用した費用のことで、たとえば、事業で使用している事務用品は『消耗品費』として、
取引先との事業に関係する飲食代は『接待交際費』として経費にできます。
通常、税金は事業によって得た収益から、経費の分を差し引いた利益に対して課せられます。
つまり、経費が多ければ多いほど、利益が少なくなり、その分かかる税金が減るので節税になるというわけです。
ただし、経費が増えるということは、出費が増えるということでもあります。
いくら経費で落とせても出費が増えれば、その年の会計が赤字になってしまうこともあります。
また、本来は経費と認められない事業に関係ない費用を経費として計上していると、
税務調査の際に指摘を受けることになります。
法人には、会社を設立した代表者とは別に、『法人格』として法律で認められた権利能力が与えられます。
事業を行う事業者が法人になるため、従業員が代表者一人だったとしても、代表者と法人は分けて考えられます。
一方、個人事業主は、代表者も事業者も同一です。
そのため、通信費や家賃、水道光熱費などはプライベートで使用した分と、事業で使用した分が
曖昧になってしまうため、確定申告の際に『按分』を行う必要があります。
たとえば、自宅の3割を仕事で使用している場合は、家賃の3割を経費として計上します。
また、個人事業主は事業によって得た利益が自身の所得となります。
法人の場合、事業によって得た収益のなかから代表者に給与が支払われるため、
給与を経費として計上することができます。
法人なら家賃も経費計上できる
法人成りすると、人件費以外でも、個人事業主のときよりも経費として認められるものが増えます。
法人では、賃貸物件を会社名義で借りて社宅とすることで、家賃の一部が経費として認められます。
ただし、社宅の家賃を経費計上するには、住んでいる従業員から賃貸料相当額の50%以上の家賃を
徴収する必要があるなど、条件があります。
社宅は役員に貸し出すことも可能ですが、建物の規模によって賃貸料相当額の計算方法が変わるので
注意しましょう。
さらに、法人名義で契約した生命保険料なども経費に計上することができますが、保険金の受取人が法人ではなく、
被保険者や被保険者の遺族の場合は、給与になるので注意が必要です。
ほかにも、出張した際の交通費や宿泊費、出張手当を経費にできます。
一方、個人事業主も、取引先との打ち合わせなど事業に関係する飲食代、交通費や出張時の宿泊費などは
経費計上できます。
しかし、個人事業主の生命保険料は経費計上できず、出張手当も一般的にはありません。
法人成りには、個人事業主よりもさまざまな経費を計上できるということよりも、信用度が増すことや、
赤字を繰り越せる期間が長いなどのメリットがあります。
ただし、法人成りはメリットばかりではありません。
法人成りすると、会社の設立費用や社会保険の加入義務、さらには赤字であっても地方税の均等割りが
課税されるなど、費用や手間がかかるので注意が必要です。
節税対策の一環で、経費として使える範囲を広げたいといった理由で法人成りを検討する事業主は、
多く存在します。
しかし、一定額以上の利益額や売上高がある場合などに検討されるケースが多く、
法人成りの適切なタイミングはさまざまです。
法人成りを検討する際は税理士に相談するなどして、個人事業主でいる場合との比較などについて
アドバイスをもらうとよいでしょう。
※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業では新しく従業員を雇用する際に、試用期間を設けることがあります。
『見習い期間』や『仮採用期間』などとも呼ばれる試用期間は、
その人の能力や適性を見るための期間で、期間中に特に問題がなければ
本採用へと進みます。
これは、企業が従業員を試す期間である一方で、従業員にとっても
企業の労働環境や社風を見極める期間でもあります。
双方のミスマッチを防ぐことができる試用期間ですが、誤った運用をしてしまうと、
法令違反や労使トラブルになる危険性もあります。
試用期間を設けることのメリットとデメリット、そして注意点などについて説明します。
試用期間を設けるメリットとデメリット
従業員の選考過程においては、エントリーシートや履歴書、職務経歴書や適性検査、筆記試験や面接などで、
応募者の能力や適性を判断することになります。
試用期間とは、これらの選考過程を通った従業員を本採用する前に、試験的に雇用する期間です。
本採用前の従業員に実際の職場で仕事をしてもらうことで、通常の選考過程だけでは判断できなかった
業務の遂行能力や対応力、本人の性格などを確認できます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構がまとめた『従業員の採用と退職に関する実態調査』では、
およそ86.9%の企業が試用期間を設けていると回答しました。
多くの企業で試用期間が設けられているのは、それだけ確かなメリットがあるからです。
もし、試用期間がないまま本採用して、その従業員が職場になじめなかったり、
業務を遂行する能力に問題があったりした場合、双方にとってよい結果を生みません。
雇用した従業員がどういう人なのかを知るためにも、試用期間はとても大切です。
また、従業員にとっても、自分が求めている職場環境か、希望している業務内容かどうかは、
実際に働いてみなければわかりません。
企業と従業員の相性は実際に働くことでわかるものであり、従業員にとっても会社を見極める期間となります。
自身の能力を発揮できそうか、長く活躍し続けられそうかを、試用期間のなかで判断できます。
ただし、試用期間を設けることで、せっかく雇用した従業員が早期離職してしまうリスクもあります。
試用期間中の従業員は雇用されてはいるものの、本採用ではない不安定な状態です。
そのため、より条件のよい会社の選考に通れば、その会社に移ってしまう可能性があります。
実際に働いてみて雰囲気が合わなかったり、入社前のイメージとかけ離れていたりする場合も退職につながります。
こうした人事面でのリスクをふまえたうえで、試用期間の設定を検討すべきでしょう。
期間の設定と不採用の場合の取り扱い
試用期間を設定する際に重要なのは期間です。
大半の企業は1カ月~6カ月間で設定しています。
試用期間の期限は法律で制限されていませんが、従業員の能力や適性を判断するうえで必要以上に
長期で設定すると、公序良俗に反するとして無効になる場合もあります。
従業員の働くモチベーションが下がることもありうるので、あまり長期には設定しないようにしましょう。
また、試用期間は正社員だけではなく、契約社員やアルバイト、パートなどにも設定することができます。
ただし、業種や会社の方針にもよりますが、アルバイトやパートに正社員と同じ試用期間を設けるのは
あまり適切ではありません。
一般的にアルバイトやパートの試用期間は正社員よりも短く、1カ月~3カ月間ほどが多いようです。
さらに、試用期間を設ける場合は、求人票や募集要項にその旨を記載する必要があります。
同時に試用期間中の労働条件なども明示しなければいけません。
給与に関して、試用期間中は本採用時よりも低く設定できます。
ただし、最低賃金を下回ることは禁止されており、残業代や社会保険の加入などは通常の正社員と
同じ待遇にする必要があります。
そして、最も気をつけたいのが採用・不採用を決定する際の取り扱いです。
試用期間後に不採用の場合は通常の解雇と同じ扱いになり、30日前に解雇予告を行う必要があります。
もし、予告なしに解雇する場合は、30日分の平均賃金を支払わなければいけません。
一方で、試用期間を開始してから14日以内であれば、解雇予告などを行わずに解雇することが可能です。
また、いかなる場合でも解雇するには「遅刻や欠勤を繰り返している」「勤務態度が著しく悪い」といった、
社会通念上相当と認められる客観的で合理的な理由が必要です。
試用期間といえども従業員は会社と雇用契約を結んでいるため、「会社の雰囲気に合わない」
「必要な能力が不足している」といった理由で解雇することはできません。
会社側の都合だけで結果を決めると、場合によっては不当解雇で訴えられる可能性もあります。
会社が求める人材を見つけ、スムーズに業務を開始してもらうためにも、試用期間は大切です。
メリット・デメリットや注意点をきちんと踏まえて、試用期間の導入を検討しましょう。
※本記事の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業の会計処理のなかで、経費計上できるものはさまざまあります。
従業員をねぎらい、日常の業務から離れてリフレッシュさせる社員旅行もまた、
『福利厚生費』で経費計上できる場合があります。
しかし、すべての社員旅行が福利厚生費を認められるというわけでは
ありません。
社員旅行の費用を経費にするための条件を確認しておきましょう。
少額不追求経費にできる福利厚生費の捉え方
コロナ禍を経て、社員旅行が復活の兆しを見せています。
社員旅行は従業員をねぎらう目的のほか、従業員同士や部署間の交流を活性化させるという狙いもあります。
忘年会や新年会、食事補助や慶弔見舞金などと同様に、社員旅行も従業員の福利厚生の一つで、
会計処理では『福利厚生費』という勘定科目で仕訳を行います。
しかし、福利厚生費として経費計上するためには、いくつかの条件を満たさなければいけません。
福利厚生とは、企業が従業員に対して支給する給与や賞与以外の報酬です。
給与や賞与が金銭の支給なのに対し、福利厚生は金銭を支給しているわけではないので、
いわゆる『現物支給』として扱われます。
たとえ現物支給でも報酬には変わりがないため、原則的には給与などと同じように
所得税や住民税の課税対象となります。
しかし、それでは金銭を受け取っていないにもかかわらず、税金が生じることになります。
そこで国税庁では、経済的利益の額が少額の現物給与であれば課税対象にはしない、という通達をしています。
それが『少額不追求』です。ここでの経済的利益とは、従業員が得ることのできる利益を指します。
社員旅行についても少額不追求が適用されるため、一定の条件を満たしていれば福利厚生費として
経費計上することができます。
経費計上が認められない旅行の範囲
国税庁では、従業員のレクリエーション旅行について「その旅行の内容(旅行の企画立案、主催や、旅行の目的・
規模・工程、従業員等の参加割合・使用者および参加従業員等の負担額および負担割合など)を総合的に勘案して、
社会通念上一般に行われているレクリエーション旅行と認められるもので、少額不追及の趣旨を逸脱してないものと
認められるもの」を、福利厚生費として経費計上できる社員旅行と定めています。
具体的には「旅行の期間が4泊5日以内であること」と、「旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること
(工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加)」が主な条件となります。
ちなみに海外旅行の場合は「外国での滞在日数が4泊5日以内であること」が条件になります。
たとえば、日本国内旅行で期間5泊6日、旅行費用が一人あたり30万円(うち従業員負担15万円)、
参加者割合が全体の50%である社員旅行については、「旅行期間が5泊6日以上のものについては、
その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないこと」から課税されたケースがあります。
また、一部の役員だけで行く旅行は福利厚生費にはならず、給与として課税する必要があります。
また、取引先に対する接待や慰安のための旅行の費用も福利厚生費にはならず、接
待交際費などとして処理する必要があります。
そして、家族を社員旅行に同伴させる場合も気をつける必要があります。
実質的に私的な旅行になってしまっていると社員旅行とは認められない可能性があるため、
自由時間以外は家族にも団体行動を徹底してもらいましょう。
さらに、家族の旅費などは会社の福利厚生費として処理できず給与扱いとなり課税される場合もあります。
そのような面倒ごとを避けるためにも、家族の旅費については同伴した社員に負担してもらうようにした方がよいでしょう。
社員旅行はあくまで任意の行事なので、全員が参加するわけではありません。
だからといって不参加の社員に対し、旅行代金の代わりに金銭や物品を支給してしまうと
少額不追求が適用されないので注意してください。
国税庁では少額不追求が適用される額を明確にしておらず、実際に社員旅行を行った場合に、
企業が負担した費用が旅行に参加した人の給与として課税されるかどうかは、その旅行の内容などを
総合的に勘案して判定することとなります。
※本記事の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
従来の『ふるさと納税』とは、個人が応援したい自治体に寄附を行い、
その寄附額に応じて所得控除を受けられる制度のことです。
地方創生や人口減少に伴う税収減少対策などを目的に、2008年5月から
スタートしました。
ふるさと納税制度には、個人版と企業版があり、どちらも寄附金の一部を
税額から控除することが可能です。
企業版ふるさと納税がどのような制度なのか見ていきましょう。
個人版との違いと、拡充された税額軽減策
企業版ふるさと納税は正式名称を『地方創生応援税制』といい、国から認定を受けた地方創生事業に対して、
民間企業が寄附を行った場合に課税の税額控除を受けられるものです。
個人版ふるさと納税と企業版ふるさと納税は、寄附額の一部が所得から控除されるという部分では同じですが、
自己負担額や返礼品の有無などが異なります。
個人版ふるさと納税の自己負担額は2,000円で、2,000円を超えた額は課税所得から差し引かれ、
その結果、所得税や住民税が軽減されます。
また、寄附を行った自治体から返礼品を受け取ることができ、寄附額の下限はありません。
一方、企業版ふるさと納税は税制改正により、法人住民税と法人税については寄附額の4割を控除、
法人事業税については寄附額の約2割を控除することができ、これらを合わせると寄附額の約6割が
課税所得から控除されるようになりました。
通常は自治体に寄附を行うと寄附額の約3割を損金計上できます。企業版ふるさと納税は2024年度までは
特例措置として、この損金計上分と前述の寄附額の約6割が課税所得から控除されるのを合わせると、
寄附額の最大約9割が課税所得から控除されます
(控除割合が最大9割となる寄附限度額は企業によって異なります)。
たとえば、企業版ふるさと納税を利用して自治体に50万円寄附すると、
約45万円が課税所得から控除されます。
ただし、寄附額の下限は1回あたり10万円からと定められているほか、
本社所在地以外の自治体への寄附のみがこの制度の対象であること、また、返礼品を受け取ることや、
寄附の見返りに補助金を受け取ったり、通常よりも低い利率で借入を行ったりすることは禁止されています。
企業版ふるさと納税(人材派遣型)とは?
企業版ふるさと納税は、税額軽減以外にも、社会貢献や地方自治体との関係強化、
地域の資源などを活用した新事業展開などのメリットがあります。
企業版は前述の通り、本社のある自治体以外の自治体が行っている地方創生事業が寄附の対象となります。
地方創生を応援することは、SDGsの達成や社会貢献などにもつながり、企業として大きなPRになります。
認知度や企業イメージの向上も期待できるでしょう。
また、自治体との新たなパートナーシップの構築にも役立ちます。
特に、2020年2月に創設された『企業版ふるさと納税(人材派遣型)』では、
専門知識やノウハウを持つ自社の人材を寄附先である自治体の地方創生事業に派遣することが
可能になりました。
自社の人材が地方創生事業に関わることで、事業の活性化や地域貢献、自治体との関係強化などを
図ることができます。
自治体とパートナーシップを構築することで、その自治体の地域資源を活かした
新しい事業展開を行える可能性もあるでしょう。
また、人材派遣型を利用すると、派遣された従業員の成長にもつながります。
これは人材育成という面でも、大きなメリットといえるでしょう。
企業版ふるさと納税を利用するには、まず『ふるさとコネクト』にアクセスし、寄附する自治体を決めます。
寄附先を決めたら、決済方法を選択し、申込みを行います。
寄附が受領されると、受領証明書が届くので、大切に保管しておきましょう。
この受領証明書は、税控除を受ける際に必要となります。
なお、上記サイトには課税所得から適切な寄附額を検討するためのシミュレーターも用意されているので
参考にしてみましょう。
先述の通り、この企業版ふるさと納税の税控除の特例措置は、2024年度末までになります。
税理士などにも相談しながら、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2023年7月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
日本で働く外国人労働者の数は年々増え続けており、2022年10月末現在で182万人を突破しました。
外国人労働者を雇用する際には文化や習慣の違いのほか、在留資格の種類や就労制限の有無なども確認する必要があります。
外国人労働者雇用時のポイントを解説します。
外国人が就労する事業所数が増加。雇い入れるメリットとデメリット
少子高齢化が進むなか、外国人労働者を人手不足解消の切り札として考える企業が増えています。
厚生労働省によれば、外国人労働者を雇用している事業所は2022年10月末時点で29万8,790所と、
統計開始以来、過去最高を記録しました。この数は日本の全事業所のおよそ4%にあたります。
日本に在留する外国人労働者を国籍別に見ると、ベトナムが全体の25.4%と最も多く、中国の21.2%、
フィリピンの11.3%と続きます(2022年10月末現在)。
外国人労働者の雇用は、人手不足解消のほかにも、社内の活性化や訪日外国人客への対応強化などの
メリットがあります。また、日本人にはない発想やアイデアが新商品の開発に役立つこともあるでしょう。
一方で、外国人労働者は言葉や文化、習慣が日本人とは異なるため、円滑なコミュニケーションを図るには
工夫が必要です。たとえば、指示や説明の際には口頭だけではなく、ジェスチャーや翻訳アプリ、
筆談やイラストを活用すると、より意思が伝わりやすくなります。
両国の文化や習慣を共有するために社内研修や勉強会などを開くのも効果的です。
外国人労働者と一緒に働くには、その国のことをよく理解し、お互いの価値観や考え方を認め合うことが大切です。
また、労働法に関しては、外国人労働者の国のものではなく、原則として日本の法律が適用されます。
日本人と同じように、外国人労働者に対しても労働契約法や労働基準法などを遵守し、外国人労働者から
日本で就労することを希望されるような労務管理をする必要があります。
就労制限の有無は在留資格を確認。不法就労者を雇用しないよう注意
外国人が日本に在留するには出入国管理及び難民認定法に基づき、在留資格を得る必要があります。
日本に中長期在留する外国人には『在留カード』が交付され、カードには氏名、生年月日、国籍、在留期間のほか、
在留資格の種類が記載されています。
出入国在留管理庁の分類では、在留資格は全部で29種類 あり、『定められた範囲で就労が認められる在留資格』
は20種類、『原則として就労が認められない在留資格』は5種類、『就労に制限がない在留資格』は4種類です。
たとえば、永住者や日本人の配偶者などは就労に制限がない在留資格のため、日本人と同様に制限なく
雇い入れることができます。一方、留学生や短期滞在者などは、原則として就労が認められない在留資格のため
雇用できません。ただし、留学生でも地方入国管理局で『資格外活動の許可』を得れば、夏休みなどの
長期休業期間中は1日8時間、原則として週28時間まで就労することができます。
また、在留資格のうち『技能』は熟練した技能を持つ外国人に認められるもので、たとえば調理師や加工技師など
としての10年以上の実務経験を証明してはじめて取得できます。そのため外国語ができるからといって
通訳として雇用するなど、認められた範囲外の就労は禁止されています。
もし、範囲外の就労をさせてしまったり、在留資格のない外国人を働かせたりすると、事業者は不法就労助長罪に
問われ、懲役3年以下または300万円以下の罰金が科される可能性があるので注意しましょう。
外国人労働者を雇用する際には、在留カードを提示してもらい、本人確認と在留資格の確認を忘れずに行うこと
が大切です。
※出典:出入国在留管理庁
※本記事の記載内容は、2023年6月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
優秀な人材に長く働いてもらい、事業の生産性を高めるためには、
労働者が安心して働ける雇用環境をつくることが必要です。
そこで活用したいのが、有期雇用労働者、短時間労働者(アルバイトや
パートなど)、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内での
キャリアアップを支援する『キャリアアップ助成金(正社員化コース)』です。
非正規雇用労働者の能力開発を通じ、正社員化を進める事業主に対して助成金が支給されます。
今回はその概要を紹介します。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、就業規則または労働協約、そのほか
これに準ずるものに規定した制度に基づき、有期雇用労働者などを正社員化した場合に助成されます。
【対象となる労働者】
対象となる労働者に求められる主な要件は(1)~(4)となります。
(1)有期雇用労働者または無期雇用労働者
支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則などの
適用を通算6カ月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者
(2)正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期雇用労働者などでないこと
(3)支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていない者であること
(4)就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること など
【対象となる事業主】
対象となる事業主に求められる主な要件は(1)~(6)となります。
(1)有期雇用労働者などを正規雇用労働者に転換する制度を就業規則または労働協約
そのほかこれに準ずるものに規定している事業主であること
(2)上記(1)の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者などを正社員化した事業主であること
(3)上記(2)により正社員化された労働者を、正社員化後6カ月以上の期間継続して雇用し、
当該労働者に対して正社員化後6カ月分の賃金を支給した事業主であること
(4)多様な正社員への転換の場合にあっては、(1)の制度の規定に基づき正社員化した日において、
対象労働者以外に正規雇用労働者(多様な正社員を除く)を雇用していた事業主であること
(5)支給申請日において当該制度を継続して運用している事業主であること
(6)転換後6カ月間の賃金を、正社員化前6カ月間の賃金より3%以上増額させている事業主であること など
【支給額】
(1)有期雇用労働者→正社員:一人当たり 57万円(42万7,500円)
(2)無期雇用労働者→正社員:一人当たり 28万5,000円(21万3,750円)
※( )内は大企業の額
※(1)(2)を合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで。
※多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)へ転換などした場合には正規雇用労働者へ転換などしたものとみなします。
※生産性要件を満たした加算措置が令和5年3月31日で廃止されました。
【加算額】
(1)派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用する場合
一人当たり28万5,000円
(2)対象者が母子家庭の母などまたは父子家庭の父の場合
ア.有期雇用労働者(以下、有期):一人当たり9万5,000円
イ.無期雇用労働者(以下、無期):一人当たり4万7,500円
(3) 人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合
ア.有期:一人当たり9万5,000円
イ.無期:一人当たり4万7,500円
このうち、自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練修了後に正社員化した場合
ウ.有期:一人当たり11万円
エ.無期:一人当たり5万5,000円
※令和5年度より人材開発支援助成金の訓練後に対象労働者を正社員化し、キャリアアップ助成金の正社員化コースを申請する予定の事業主は、人材開発支援助成金における『訓練実施計画届』(訓練様式第1号など)の作成・提出をもって、キャリアアップ助成金(正社員化コース)における『キャリアアップ計画』とみなすことができます。
(4)『勤務地限定・職務限定・短時間正社員』制度を新たに規定し、
有期雇用労働者などを当該雇用区分に転換などした場合
1事業所当たり9万5,000円(7万1,250円)
※1事業所当たり1回のみ
※( )内は大企業の額
【手続きの流れ】
(1)キャリアアップ計画の作成・提出
雇用保険適用事業所ごとに『キャリアアップ管理者』を配置するとともに、労働組合などの意見を聴いて
『キャリアアップ計画』を作成し、管轄労働局長の認定を受けます。
転換・直接雇用を実施する前日までに提出します。
(2)就業規則、労働協約そのほかこれに準ずるものに転換制度を規定
キャリアアップ計画提出前に転換制度を規定していた場合でも対象になります。
ただし、その場合でも『試験などの手続き、対象者の要件、転換実施時期』の規定は必須です。
※ 勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新たに規定した場合の加算を受ける場合を除く。
※労働基準監督署に改定後の就業規則を届け出る必要があります。
※10人未満の事業所は労働基準監督署への届出の代わりに、事業主と労働組合などの労働者代表者
(有期 雇用労働者などを含む事業所の全ての労働者の代表)の氏名などを記載した申立書でも可です。
(3)就業規則などに基づく正規雇用への転換・直接雇用の実施
転換後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付する必要があります。
また、転換後に適用される就業規則などに規定している労働条件・待遇にする必要があります。
(4)転換・直接雇用後6カ月分の賃金の支払い
転換後6カ月間の賃金を転換前6カ月間の賃金と比較して3%以上増額している必要があります。
(5)支給申請
・転換または直接雇用後6カ月分の賃金(時間外手当などを含む)を支給した日の翌日から起算して
2カ月以内に支給申請します。
※令和5年4月2日以降正社員化コースは電子申請が可能になりました。
(6)審査、支給決定
なお、このコースにはこれ以外にも細かい要件があります。詳細は厚生労働省ホームページをご確認ください。
※本記事の記載内容は、2023年5月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
税務に関して、近年はすべての企業に対し、『税務コンプライアンス』
の遵守が求められています。
税務コンプライアンスとは、法律に定められた納税義務を守り、
企業が自発的に正しく納税することを指します。
一見、当たり前なようですが、税務コンプライアンスに反している企業もあり、
場合によっては経営の大きなリスクとなるおそれもあります。
大企業だけではなく、中小企業も注視するべき税務コンプライアンスの重要性について説明します。
国税庁の示す税務コンプライアンスとは
国税庁では、税務コンプライアンスの維持・向上のためには、
大企業がみずから税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ効果的であるとし、
税務コーポレートガバナンスを「税務について経営責任者が自ら適正申告の確保に積極的に関与し、
必要な内部統制を整備すること」と定義しています。
税務における適正申告とは、脱税などの違法行為や悪質な課税逃れなどの不正行為を行わないだけでなく、
納税者が高い納税意識を持ち、自発的かつ適正に税金を申告することを意味します。
そして、この適正申告を行うために、経営者は内部統制の整備を積極的に行う必要があります。
税務における内部統制の整備とは、企業の経営者がみずから適正な税金を申告するための仕組みをつくり、
効率的で健全な運営を行うことができる状態を確保することです。
内部統制の整備は、税務コンプライアンスを守るうえでの重要なポイントとなるため、
経営者はまず、内部統制の整備を行う必要があるかどうかという視点で、現状を確認しておきましょう。
たとえば、領収書が正しく管理されていなかったり、帳簿に記載されている取引に間違いがあったりするのは
よくありません。
また、外注費や交際費などの勘定科目に大きな変動があった場合や、預金残高と帳簿の金額が一致していない場合などは、
税務会計処理が不十分とみなされ税務署から脱税を疑われることにつながります。
各種ハラスメントや情報漏洩、下請法や景品表示法などの違反といった一般的なコンプライアンス違反は、
法的なペナルティだけではなく企業の社会的信用の失墜や顧客離れなどを招き、
最悪、倒産に至るケースもあります。
税務コンプライアンスも同様に、税務上の違反が発覚した場合は追徴課税がされるほか、
本来であれば受けられる控除を見逃してしまったり、従業員の横領などの不正を招いたりするリスクもあります。
これらのリスクを回避するためにも、経営者自身が税務に対して正しい知識を持ち、
内部統制の推進に努めることが大切です。
税務コンプライアンスを向上させる対策
税務コンプライアンスは、大企業だけの問題ではありません。
中小企業も高い納税意識を持ち、税務コンプライアンスを遵守していく必要があります。
そのためには、前記した通り、会計の現状を知ることが必要です。
公益社団法人納税協会では、国税庁の後援のもと、『自主点検チェックシート』と『自主点検ガイドブック』を作成し、
企業の税務コンプライアンスを向上させるため、企業みずからが自主点検することを推奨しています
(どちらも納税協会のホームページから入手することができます)。
点検科目は文書管理や売上、経費全般から消費税や印紙税など全部で27科目あり、
そのなかの点検項目は全部で83項目になります。
たとえば経費全般の科目には、「支出の相手方が不明なものについては、その内容を確認しましたか」や
「領収書の宛名は法人名(自社)となっていますか」など、経費にまつわる点検項目が並びます。
このシートを活用して自主点検を行い、内部統制の整備と経理の健全化を進めていくことで、
入出金の適正な管理や、無駄な支出の抑制などが期待できるでしょう。
一方で、何の対策も講じず内部統制の整備を行わない場合、企業は売掛金の未回収や資金繰りの悪化の
リスクを抱えるなど問題が生じる可能性があります。
なにより、税務コンプライアンスが守られていないと、もしも税務調査が入った際に
さまざまな指摘を受けることになり、場合によっては重加算税や延滞税などのペナルティを受けたり、
悪質な場合は税務訴訟など刑事罰の対象になったりすることも考えられます。
日々の税務コンプライアンスの遵守は、企業の経理に関するさまざまな無駄やリスクを省くことが期待でき、
ひいては企業を守ることにもつながります。
まずは納税協会の自主点検チェックシートを活用し、自社の現状を確認しておきましょう。
そして内部統制を整備し、企業全体で税務コンプライアンスを遵守できる環境を整えることが大切です。
※本記事の記載内容は、2023年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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消費税の課税事業者による消費税の会計処理は、
『税込経理』と『税抜経理』のどちらかを選ぶことができます。
税込経理は消費税を取引価格に含めて、取引の総額として会計処理する方法
のことで、税抜経理は消費税を取引価格に含めず、それぞれを分けて会計処理
する方法のことです。
どちらを選んでも最終的に納める消費税額は変わりませんが、
数字や仕訳方法などに違いがあります。
税込経理と税抜経理で異なるメリット・デメリットと、それぞれの特性を説明します。
税込経理と税抜経理の併用は可能?
税込経理と税抜経理は会計処理を行う際の、仕訳方法が異なります。
税込経理は課税売上にかかる消費税の額は売上金額に、課税仕入にかかる消費税額は
仕入金額などに含めて計上します。
消費税などの納付税額は租税公課として必要経費または損金に算入します。
税抜経理は、課税売上にかかる消費税額を『仮受消費税』、
課税仕入にかかる消費税額を『仮払消費税』とします。
仮払消費税と仮受消費税は相殺され納付額を算出するので、納付する消費税額は税込経理と変わりません。
税込経理と税抜経理は事業者が任意で選択することが可能ですが、原則として、
その事業者が行うすべての取引について同じ会計処理を行うこととされています。
例外的に、収益に係る取引について税抜経理を選択適用する場合には、(1)棚卸資産、(2)固定資産、繰延資産、
(3)経費などのグループごと(売上・資産・経費)に異なる会計処理を行うことは可能ですが、
個々の固定資産・経費ごとに税込経理と税抜経理を使い分けることはできません。
税込経理は税込価格だけを記帳すればよいため、仕分作業が簡単であるのがメリットといえます。
ただ、消費税額を含めて仕訳することになるため、利益が多く計上されることになり、
実際の損益の把握や納付する消費税額などの予測がしづらいというデメリットもあります。
税込経理は処理が簡単なことから、人員や時間に余裕がなく、経理担当者の負担を減らしたい
中小企業などが採用する傾向にあります。
また、消費税の納税義務が免除されている免税事業者は、そもそも消費税を区分する必要がないため、
すべてにおいて税込経理で処理することになります。
一方、税抜経理は本体価格と消費税を分けて計上するため、経理処理がやや煩雑になるというデメリットはあるものの、
実際の損益が把握しやすく、期末の消費税額や法人税額の予測が立てやすいというメリットがあります。
実際に使える金額を比較すると有利なのは?
処理の煩雑さでは税込経理、損益などのわかりやすさでは税抜経理に軍配が上がりますが、
実際に使える金額を比較すると、税抜経理のほうが有利といえます。
たとえば、資本金が1億円以下の中小企業は、年間で800万円までの交際費を損金として計上することが
認められています。
しかし、税込経理の場合は消費税額を含めた税込価格で判定され、税抜経理の場合は消費税額を除いた
税抜価格で判定されるため、税抜経理よりも税込経理のほうが損金として計上できる交際費の額が減ることになります。
税抜経理であれば交際費を800万円まで使えますが、税込経理では税抜で730万円ほど交際費を使うことで、
税込で800万円に到達してしまい、それ以上は損金への計上ができません。
税込経理と税抜経理で70万円ほどの判定基準の差がついてしまうため、
毎年、700~800万円を超える多額の交際費が発生している法人であれば、
税抜経理を選んでおいたほうが得策といえるでしょう。
また、減価償却資産などの場合でも税抜経理が有利です。
減価償却資産や繰延資産ついての会計処理も、税込経理は税込価格で判定され、
税抜経理は税抜価格で判定されます。
現在、特例として中小企業には、取得価格が30万円以下の減価償却資産について、
一定の要件のもとその購入金額を購入年度に損金として算入することが認められています
(平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した減価償却資産が対象)。
たとえば、税抜価格が29万5,000円の減価償却資産を会計処理する場合、
税抜経理の場合は購入年度にその金額のまま損金算入することが認められますが、
税込経理の場合は税込価格で32万4,500円になるので、購入年度の損金算入が認められません。
近年では会計ソフトの普及に伴い、税込経理も税抜経理も処理の煩雑さに差はなくなっており、
損益の把握や金額判定などの面から考えると、税抜経理のほうにメリットがあるといえます。
なお、税込経理から税抜経理に変更することは可能ですが、税込経理のときに購入した減価償却資産は、
そのまま税込価格に基づく減価償却を行うことになるので注意が必要です。
今後、インボイス制度の導入にあたり、消費税の会計処理がさらに煩雑化する可能性もあります。
※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
子どもの頃に親がつくった口座など、何年も引き出しや預け入れをしていない
預金口座 があるという人は多いでしょう。
このような口座が使われないまま10年が経過すると 『休眠預金』となります。
今回は、休眠預金の現状と活用について紹介します。
毎年約1,200億円!日本における休眠預金の現状
日本では、2020年4月に民法が改正されるまでは、銀行預金は5年間、信用金庫等の預金は10年
間、入出金などの権利の行使がなければ、預金債権は時効によって消滅すると定められていました。
金融機関はこのような預金を、決算時に『休眠預金』として利益に計上してきました(ただし、
預金者からの要請があれば払い戻しには応じていました)。長期間取引されていない預金は毎年
1,200億円程度発生しており、預金者への払い戻し分、約500億円を差し引いても、年間約700億円
が金融機関の利益として計上されていました。
そこで、このような休眠預金を広く社会に役立てるため、2018年1月にいわゆる
『休眠預金等活用法』が施行されました。その目的は、休眠預金等にかかわる預金者等の利益を保護しつつ、
休眠預金等にかかわる資金を民間公益活動の促進に活用することにより、
国民生活の安定向上および社会福祉の増進に資することです。
この法律により、預金保険や貯金保険の対象となる預貯金等のうち、
2009年1月以降に入出金等の取引が最後にあった日(最終異動日)から10年を経過したものは、
休眠預金等として扱われることになりました。
ただし、すべての預金等がすぐに休眠預金等になるわけではありません。
最終異動日から9年を経過した預金等があり、残高1万円以上の場合は、金融機関から口座所有者が登録した住所に
通知がされ、通知が届けば休眠預金等にはなりません。
しかし、通知が届かず、取引をしないままであれば休眠預金等になります。
なお、残高が1万円未満の場合には通知されません。
10年間取引のない預金は民間公益活動の資金に活用
現在、10年間取引のなかった預金等は、一律、金融庁管轄の預金保険機構に管理が引き継がれます。
この措置により、預金等がいったん休眠預金等になっても、口座所有者は金融機関で所定の手続きをすれば、
原則として無期限で元金+利息の払い戻しを受けられるようになりました。
休眠預金等となった資金の一部は、民間の公益活動のために活用されています。
まず、預金保険機構が指定活用団体である一般財団法人日本民公益活動連携機構(JANPIA)に
『休眠預金等交付金』を交付します。JANPIAは、公募により選定した資金分配団体に助成を行い、
助成を受けた団体は、民間公益活動を行う実行団体を公募により選定し、助成や貸し付けを行います。
そして、選定された実行団体が、子どもや若者、生活困難者の支援等の公益活動を行うことによって
社会福祉の増進等に役立てています。
このように休眠預金等は、社会課題の解決に活用されています。しかし、預金等は個人にとって
大切な資産です。使わないからといって放置をせずに、適正な管理を心がけましょう。
※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
法人は法人税を筆頭に、さまざまな税金を納める義務があります。
税金に関する法律は、毎年改正されるため、経営者はその動きを注視する
必要があります。
今回は、企業経営にも深く関係する税制改正の流れを理解し、
チェックするポイントについて説明します。
経済社会の変化に対応するための税制改正
税制改正とは、税金に関する各種法律を改正することを意味します。
税金の額や内容などは社会の変化や国の財政状況を踏まえて、その時々の課題を中心に
国会で議論されたうえで決定されます。
たとえば2023年初頭には、財源確保のために、法人税や所得税に付加税を課すかどうかが議論されました。
政府はその目的を、『日本の防衛力強化』と説明していました。
また、昨今の消費税の引き上げなどは、少子高齢に伴う社会保障制度の財源確保が目的とされています。
税負担は公平である必要があり、特定の世代に限らず広く負担を求めるために、
国民全員に関わりのある消費税の増税を求めたというわけです。
税制改正は、毎年4月頃に与党の『税制調査会』による総会開催からスタートします。
税制調査会は、税制に関する審議や調査を行う内閣府の機関で、
政府税制調査会が中長期的視点で税制について検討する一方、与党税制調査会が各府省庁からの要望を集約し、
翌年度以降の税制改正の審議を行います。
外部有識者のヒアリングを行うなど、税制調査会内で審議を重ね、
その年の12月中頃に法案の原案となる『与党税制改正大綱』が取りまとめられます。
この与党税制改正大綱を踏まえて、税制改正の大綱が『閣議』に提出されます。
閣議とは、総理官邸の閣議室で開催される内閣総理大臣と国務大臣による会議のことで、
そこで決定された税制改正の大綱と予算案をベースに法案が作成されます。
そして、翌年1月頃に政府によって『税制改正の大綱』が発表されます。
これはあくまで税制改正の骨子となるもので、そのまま採用されるわけではありません。
しかし、翌年度以降に適用される可能性のある法案の内容を知ることができるため、
ニュースや省庁のWebサイトなどでチェックしておきましょう。
令和5年度税制改正で注目するべきポイント
税制改正の法案は、閣議決定された税制改正の大綱をもとに、国税は財務省が、
地方税は総務省が作成し、2月頃に通常国会へ提出されます。
提出された法案が衆議院と参議院の両院で審議され、可決すれば、成立となります。
成立は3月末までに行われ、改正法に定められた施行日に施行されることになります。
『令和5年度税制改正の大綱』は、2022年12月23日に閣議決定されました。
個人所得課税に関連したものでは『NISA制度の抜本的拡充・恒久化』や『
スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設』など、個人の資産を貯蓄から投資に振り分けることで
資産を倍増させ、より公平で中立的な税制の実現に向けた税制の導入が検討されていることがわかります。
一方、法人に関する税では、中小企業の成長促進を目的に、『研究開発税制の見直し』や
『オープンイノベーション促進税制の見直し』が図られています。
また、電磁的記録の保存に関する猶予措置などを講じた『電子帳簿等保存制度の見直し』や、
無申告加算税の割合を引き上げる『課税・徴収関係の整備・適正化』なども経理処理に深く関連する変更です。
インボイス制度に関して、これまで免税事業者であった人がインボイス発行事業者になった場合の
納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置が決定しました。
税制改正の要点を知ることのできる税制改正の大綱は、総務省や財務省のWebサイトなどで確認できます。
ただし、改正法の詳細や具体的な中身については、法律の施行後に国税庁のWebサイトや
リーフレットなどで確認することが大切です。
※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
法人税の納付には、税金の前払いである『中間申告』が採用されています。
起業したばかりで最初の事業年度である企業や、中間申告時の納付額が10万円以下の
企業などでなければ、中間申告を行って法人税を納付しなければなりません。
今回は、この中間申告の概要について解説します。
中間申告のメリットと対象企業
中間申告制度とは、事業年度開始から6カ月経過時点を『中間』とし、
事業年度開始から中間までの半年分の法人税を申告・納付する制度です。
1年分の法人税をまとめて納付するのではなく、年2回に分けて納付するため、
国にも企業にもメリットがあるといわれています。
国にとっては、税収が年間を通じて平準化できるとともに、
倒産や業績悪化による滞納や未納のリスクを軽減することにつながります。
一方、企業にとっては、一度に多額の法人税を納付する必要がないため、
納税資金確保が容易になるほか、期末に現預金残高が極端に減少することも防止できます。
では、どのような企業が中間申告の対象となるのでしょうか。
それは、前事業年度の法人税額が20万円を超えた場合です。
前事業年度の法人税額が20万円を超えると、当該事業年度の半年分の申告額が10万円を超えると
見込まれるため対象となります。
つまり、起業したばかりの最初の事業年度の企業や、予定申告額が10万円以下の企業などは、
中間申告を行う必要はありません。
中間申告の方法は『予定申告』と『仮決算』
法人税の中間申告・中間納付は、事業年度開始後6カ月後から2カ月以内に、
申告・納付を行うこととされています(法人税法第71条)。
たとえば、10月1日に事業年度がはじまる場合、6カ月後である翌年の3月31日の
翌日である4月1日から5月31日までの2カ月間で、申告と納付を行う必要があります。
中間申告の方法は、『予定申告』と『仮決算』の2種類があります。
●予定申告
前年度実績をもとに予定納税額を算出して、申告・納付する方法です。
納める額は前事業年度の法人税額のほぼ半分となります。
中間申告の時期になると、税務署から送付された『予定申告書』に、
予定申告額を記入して提出すれば申告が完了します。
手続きが簡単なのがメリットです。
予定申告では、実際の法人税額が確定する前に法人税を納付するため、
下半期に業績が下がったなどの理由から、税金を納め過ぎるケースもあります。
その場合は、年度末に確定申告を行うことで、過払い分の還付を受けることができます。
<予定申告額の計算式>
前期実績基準額(予定申告額)
=前事業年度の確定法人税額÷前事業年度の月数(12カ月)×中間期間(6カ月)
●仮決算
半期で仮決算を行い、申告する方法です。
仮決算による中間申告では、損益計算書・貸借対照表・勘定科目内訳明細書など、
決算に必要な書類の提出も行うため事務負担が大きくなります。
それでも、前期よりも業績が悪化し、予定申告による法人税の納付が難しい場合などには有効な方法となります。
ただし、予定申告による納付額より仮決算による納付額のほうが高くなった場合には、
仮決算による中間申告・納付はできないので注意しましょう。
<仮決算による中間申告額の計算式>
益金-損金=課税所得
課税所得×税率=法人税額(中間納付で納める法人税の納付税額)
たとえば、半期分の利益が830万円、損金(経費)が150万円、法人税率が15%と仮定して計算をすると、
中間申告で申告する法人税額は102万円になります。
利益830万円-損金150万円=課税所得680万円
680万円×法人税率15%=102万円 (中間納付で納める法人税の納付税額)
予定申告の納税方法とその他の注意点
予定申告による法人税の納付方法は、以下の3種類です。
(1)現金納付
税務署から送付されてきた予定申告書を税務署に持参し、現金で納付することができます。
(2)クレジットカード納付
『国税クレジットカードお支払サイト』を利用して、クレジットカードでの納付が可能です。ただし、領収書が発行されないので注意が必要です。
(3)ダイレクト(e-Tax)納付
国税電子申告・納税システムであるe-Taxでも、法人税を納付することができます。
事前にソフトウエアの準備などが必要なので、詳しくはe-Taxサイトをご確認ください。
なお、e-Taxを利用した場合、翌事業年度以降は予定申告書が送付されなくなります。
その代わりにe-Taxソフトにメッセージで法人税予定申告についての案内が届きます。
「予定申告書が送付されない=中間申告が不要である」というわけではないので、
納税することを忘れないようにしましょう。
中間申告をしなかった場合、特にペナルティはありません。
なぜならば、申告期限内に中間申告をしなかった場合、「予定申告を行った」とみなされるからです。
これを『みなし申告』といいます。
ただし、申告をしなかったとしても、法人税の納付は必要なので注意が必要です。
注意したいのは、業績悪化などの理由から、「中間申告は仮決算で申告し、現預金を残しておきたい」
と検討している場合などです。
期日までに仮決算で中間申告をしないと予定申告として扱われるため、
予定申告額で納付しなければなりません。
また、仮決算をした結果、法人税の納付額が0円となった場合も申告は必要です。
いずれの場合も、中間申告をしなかったことが確定した時点で納付期日を過ぎているため、
法人税の納付に加え、延滞税などが課せられます。
※本記事の記載内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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『棚卸資産』とは、商品や原材料といった在庫などの、
企業が所有している物品を資産計上する際の勘定科目です。
一方、『貯蔵品』は梱包材や事務用品、収入印紙などの、
直接的には売上に関わらない物品でかつ未使用のものを計上する勘定科目です。
どちらも物品を資産計上するための勘定科目なので、混同してしまいがちですが、
処理の仕方が異なるため注意が必要です。
そこで今回は、2つの違いと適正な会計処理について説明します。
棚卸資産を抱えるメリットとデメリット
棚卸資産と貯蔵品の違いは、その物品が直接売上に関わるかどうかにあります。
棚卸資産に分類されるのは直接的に売上に関わる物品であり、
貯蔵品に分類されるのは直接的には売上に関わらない物品となります。
棚卸資産は、事業者が期末時点で保有している商品や在庫、加工が必要な原材料などが該当します。
これらは企業の大切な資産であり、売上につながるものですが、
在庫の時点では売上原価として計上することはできません。
棚卸資産を長期間保管しておくことには、いくつかデメリットがあります。
一つは、いつまでも棚卸資産を販売できずにいると、仕入れにかかった代金の回収ができないうえに、
管理・保管のための人的コストや保管場所の維持費などがかかってしまうことです。
また、商品の品質劣化や賞味期限切れ、流行遅れなどの理由によって、
商品の価値が落ちてしまうこともあります。
さらに、在庫である棚卸資産を多く抱えることは、税務上のデメリットも発生します。
商品の売上原価は、前期末の棚卸資産に当期の仕入高などを足して、期末の棚卸資産を差し引いて算出します。
そのため、棚卸資産が増えれば売上原価が少なくなります。
売上原価が減ると利益が増加するので、所得税と法人税もより多く課税されることになります。
つまり、前期末の棚卸資産と比べ、当期末の棚卸資産が多ければ多いほど課税額が増え、
棚卸資産が少なければ少ないほど課税額は少なくなるというわけです。
一方、棚卸資産として在庫を抱えていることには、受注してすぐに納品できるというメリットもあります。
これは営業上大きな強みといえるでしょう。
棚卸資産があれば、突然の需要増にも対応でき、商品の交換や破損などに応じることもできますが、
それがなければ、販売機会を損失してしまい、業績の悪化を招きかねません。
大切なのは、棚卸資産のメリットとデメリットを理解し、バランスよく棚卸資産を保有することです。
そのためには、コスト増でも棚卸資産を持つのか、コスト減のために棚卸資産を持たないのかといった方針を、
綿密に検討したうえで決めることが大切です。
購入した時点で計上できる貯蔵品の条件とは
貯蔵品は売上に直接関係のない物品が該当します。
文房具やコピー用紙などの事務用品、封筒やダンボールなどの梱包材、
カタログやチラシなどの販促資材といった『消耗品』と、
収入印紙や郵便切手などの『金銭的価値のあるもの』に分けることができます。
貯蔵品は棚卸資産とは異なり、使用した時点で費用として計上することができます。
たとえば、郵便切手を20枚購入して、すぐに5枚使用したとします。
切手の勘定科目は通信費なので、使用した5枚については通信費で仕訳し、
残り15枚の未使用の切手は期末に振替処理を行い、貯蔵品として計上します。
ただし、封筒1枚、ペン1本といった物品をいちいち計上していては手間がかかってしまいます。
事務用品や梱包材など、常に使用するもので毎年概ね一定量を購入する貯蔵品に関しては、
購入した時点で経費として計上することが特例で認められています。
注意点としては、この特例を使うためには、毎年同じ処理をする必要があるということです。
たとえば、前年度は経費計上していたけれども、今年度は経費計上しないといったことはできません。
また、利益を圧縮することなどを目的とし、貯蔵品を大量に購入して経費計上することも認められていません。
貯蔵品は費用計上時に数量のコントロールができてしまうため、
税務調査では重点的に調べられることが多いので注意しましょう。
貯蔵品は適切に処理すれば相応の節税効果を得られるので、間違いのない会計処理を心がけましょう。
※本記事の記載内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。
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すべての企業は毎年の事業年度末に、決算書を作成する必要があります。
決算書は確定申告の際に必要になるのはもちろん、企業の経営実態の把握にも
役立ちます。
しかし、前年度以前と今年度の財務状況を比較するためには、
毎年、一定のルールに基づいて決算書が作成されていなければいけません。
そのための会計ルールとして、『中小会計要領』と『中小会計指針』があり、
多くの中小企業はこのどちらかを参考にして会計処理を行っています。
2つの会計ルールの違いや、特徴について確認していきましょう。
中小企業向けの会計ルールがつくられた理由
総務省と経済産業省によると、日本には令和3年6月時点で約367万の企業が存在します。
このうちの99%以上が非上場の中小企業です。
非上場の中小企業と上場している大企業では、主となる会計業務の内容も異なります。
たとえば、大企業の会計業務は、株主などの外部に対して財政状態を明らかにする『財務会計』が重要視されます。
一方、外部に株式を公開していない中小企業の会計業務は、納税のための『税務会計』がメインになります。
納税が中心になる非上場の中小企業にとって、大企業の会計ルールのなかには不要な項目も多く、
使い勝手の悪いものでした。
そこで平成17年8月に、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会の4団体が
国と協力して、中小企業でも扱いやすい『中小企業の会計に関する指針』、いわゆる『中小会計指針』を策定しました。
さらに平成24年2月には、中小企業庁や金融庁などの協力を得て、中小企業関係者らが主体となって設置された
『中小企業の会計に関する検討会』が、『中小企業の会計に関する基本要領』、
いわゆる『中小会計要領』を策定しました。
この中小会計指針と中小会計要領は、中小企業のための会計ルールを定めたもので、
どちらも中小企業が扱いやすい簡便な会計処理の方法が記されています。
中小会計指針と中小会計要領の違いは?
中小会計指針と中小会計要領の違いは、会計処理時の簡便性にあります。
先に誕生した中小会計指針は、会計専門家などの会計参与を設置している中規模以上の企業を対象にしており、
会計ルールの項目は18項目に及びます。
一方、中小会計要領の項目は14項目と、小規模の企業を対象に作成されました。
たとえば、中小会計指針の項目のなかには、帳簿上の税金と納税した税金の差異を調整するための税効果会計や、
合併や会社分割の際に必要な組織再編の会計が含まれていますが、
会計処理をより簡単にするため中小会計要領には含まれていません。
また、中小会計指針は、世界共通の会計基準である『国際会計基準』に対応した
大企業向けの企業会計基準に基づいていますが、中小会計要領は国際会計基準への対応は
考えていないという違いもあります。
中小会計要領は、より簡便な会計処理を行う小規模な企業を対象につくられているので、
経理を担当する人員が少なく、高度な会計処理を必要としない企業に向いています。
中小会計指針と中小会計要領は、どちらも企業の財務状況や経営実態を明確にし、
今後の経営方針の策定に役立つだけでなく、使いやすいというメリットがあります。
会計ルールに沿って会計処理を行うことで、金融機関から融資が受けやすくなるという利点に加えて、
日本政策金融公庫から金利軽減の優遇措置が受けられます。
さまざまなメリットのある中小会計指針、または中小会計要領の採用を検討してみましょう。
中小会計指針は、さらなる使いやすさ向上のために改正が繰り返されています。
日本税理士会連合会などのサイトを確認しておきましょう。
一方、中小会計要領は、中小企業庁のホームページから入手することができます。
自社の会計にどちらが参考になるか、再度検討してみてもよいかもしれません。
※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。
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相続に関わる権利として、『借地権』があります。
借地権は土地を借りる権利のことで、故人が借地権を有していた場合、
財産などと同様に相続の対象となります。
しかし、相続に際して、地主との関係などによってはトラブルが発生する場合があり、
注意が必要です。
今回は借地権の相続において、相続人や遺贈を受けた方が覚えておきたい内容について解説します。
土地を借りる権利である借地権
借地権とは、建物を所有する目的で第三者が所有する土地を借りる権利のことを指します。
借地権にはいくつか種類がありますが、主なものは以下の3つです。
(1)『普通借地権』
普通借地権は契約の更新ができる借地権で、存続期間は30年以上とされています。
契約によって30年よりも短い期間を定めた場合、法的には無効となります。
契約は正当事由がない限り更新され、更新後の存続期間は最初の更新時は20年、それ以降は10年とされます。
(2)『一般定期借地権』
一般定期借地権は定められた存続期間の経過によって終了する借地権で、存続期間は50年以上とされています。
契約の更新ができないことが特徴で、契約期間の満了後に土地を明け渡す必要があります。
(3)『旧借地権』
一般に旧借地権と呼ばれるのは、現行の『借地借家法』が施行された平成4年8月1日以前の、
『旧借地法』のもとに設定された借地権で、現行法の下でも有効とされています。
存続期間が現行法と異なり、堅固建物は30年以上、非堅固建物は20年以上とされています。
正当事由がない限り更新される点は、現行法の普通借地権と同じです。
相続方法によって対応が変わる借地権の相続
借地権も権利の一種なので、相続の対象となります。
ただし、借地権を相続によって取得したか、遺贈によって取得したかによって、地主への対応が変わります。
(1)法定相続人が借地権を相続した場合
法定相続人が借地権を相続した場合には、建物の所有名義を相続人に変更するだけでよく、地主の承諾は不要です。
土地の賃貸借契約書の名義を書き換える必要も、地主に譲渡承諾料を支払う必要もなく、
地主に対して相続によって借地権を取得したことを通知すればよいとされています。
(2)法定相続人以外の者が借地権の遺贈を受けた場合
法定相続人以外の者が借地権の遺贈を受けた場合は、まずは地主に借地権の遺贈があることを通知し、承諾請求をします。
地主の承諾を得られたら、建物の所有権移転登記を行いますが、譲渡承諾料が必要です。
譲渡承諾料の目安は、借地権価格の10%程度とされていますが個々の事情などに応じて具体的な金額が決定されます。
地主の承諾を得られなかった場合には、家庭裁判所に借地権譲渡の承諾に代わる許可を求めることができます。
(3)相続した借地権を売却したり、建物を増改築する場合
相続した借地権の売却や建物の増改築は可能です。しかし、地主の承諾と承諾料の支払いが必要になります。
地主の承諾を得ず売却や建物の増改築をすると契約違反となり、地主から借地権の明渡請求を受けることになります。
借地権の評価方法は借地権の種類による
では、実際に借地権を相続するときには、どのような計算で評価額を出すのでしょうか。
普通借地権の相続税評価額は、自用地評価額に借地権割合を掛けて算出します。
自用地評価額とは、土地の更地価額のことです。
借地権割合とは『財産評価基準書路線価図・評価倍率表』に記載されている割合のことで、
国税庁のHPで閲覧することができます。
ただし実際に売却する際の価格は、これを目安にしつつ、売却先や地代、地主との関係で変わってきます。
定期借地権などの相続税評価額は、原則として、課税時期被相続人の死亡日または贈与による財産取得日の課税時期において、
借地人に帰属する経済的利益やその存続期間を基準に評価します。
『定期借地権等の評価明細書』からも評価できます。
借地権に関する地主とのトラブル
このように借地権の相続については煩雑なこともあり、相続の際に地主とのトラブルにつながることもあります。
たとえば、親の名義の借地に子の名義の建物を新築したい場合、地主の承諾を得ずに建物を建てると、
土地賃貸借契約書の『無断転貸禁止条項』違反を理由に、地主から契約を解除されるリスクがあります。
この場合、子名義で新たな借地契約を結んでもらい、そのうえで、親子の共有名義の建物を新築することの
承諾を得る方法があります。
あるいは、地主に対し、まずは親の借地権を子に転貸することの許可を求め、
次に、転借人となった子が借地上に建物を新築することの許可を求めるという方法もあります。
また、地主が亡くなった場合は、地主の相続人が貸主の地位を相続することになるため、借地権は影響を受けません。
しかし、貸主の地位を相続した地主が土地を第三に売却した場合、新たな地主から土地を明け渡せといわれてしまうと、
借地権を登記しておくか、建物に借地人の登記がなされ、かつ、その建物が借地上に存在していなければ、
これに対抗することができません。
借地権を保有している場合は、相続における不要なトラブルを防ぐためにも、
今一度こうした相続に関わる権利について確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。
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2022年は、歴史的な円安を記録しました。
厳しい経済環境といえますが、一方で外貨貯金などを通じて『為替差益』を得た方も
いたのではないでしょうか。
外貨を円安のタイミングで円に換え、その差額で得た利益のことを為替差益と
呼びます。
為替差益を得た場合は確定申告が必要です。
そこで今回は、円安のタイミングで為替差益を得た人こそ知っておきたい、確定申告のルールについて説明します。
為替差益は『雑所得』に分類される
最初に2022年のドル円レートを振り返ってみましょう。
2022年3月上旬まで1ドル115円前後で推移していたドル円レートは、10月20日に1ドル150円台に乗り、
1990年8月以来となる32年ぶりの安値水準を更新しました。
その後はやや回復したものの、円安傾向が続いています。
この歴史的な円安により、為替差益を得た方もいたと考えられます。
たとえば、2022年3月の1ドル115円の時点で外貨預金した1万ドルを、
1ドル136円のタイミングで円に換えれば、136万円-115万円の差額である21万円が為替差益になります。
この21万円から両替手数料を引いた額は、個人の所得になるため、税金がかかります。
給与所得者の場合は会社が年末調整を行うので、確定申告をする必要はありません。
法人の経営者も、企業から役員報酬という名の給与を受け取っている給与所得者なので、通常、確定申告は不要です。
しかし、年間収入が2,000万円を超える給与所得者や、二カ所以上から給与の支払を受けている人のうち、
二カ所目以降の年末調整されなかった給与収入や、給与所得以外に株の配当金(配当所得)や
家賃収入などの所得の合計が、年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。
為替差益は、確定申告が必要な所得のうち『雑所得』に分類されます。
2022年のような急激な円安によって、給与所得者の場合でも、20万円を超える為替利益を得た場合には、
忘れずに確定申告を行うようにしましょう。
雑所得同士で利益と損失を相殺させる
外貨を円に換える、逆に円を外貨に換えるといった両替を行うと、円が目減りすることもあります。
たとえば、1ドル150円で購入した1万ドルの外貨預金を1ドル136円のタイミングで円に換えると、
150万円-136万円となり、14万円分損をしてしまいます。
為替による損を『為替差損』と呼びます。
為替差損となった場合は、所得が発生しているわけではないので、確定申告をする必要はありません。
ただし、複数の雑所得がある場合は、確定申告をしたほうが得になるケースもあります。
雑所得は為替差益のほか、公的年金など、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料など)、
仮想通貨取引などの利益が該当します。
これら雑所得の間では、利益と損失を相殺させることができます。
雑所得で利益や損失を相殺するのが重要なのは、雑所得を含む所得にかかる税は累進課税方式だからです。
所得が多ければ多いほど税額は大きくなるため、利益と損金を相殺させて所得額を減らすことで、
納める税金が少なくなります。
ちなみに、株などの配当金や外貨預金の利子などは支払い時に源泉徴収されているため、雑所得には入りません。
確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間のすべての所得と、所得にかかる税金を計算して、税務署に申告します。
確定申告期間は、翌年の2月16日から3月15日までとなっています。
為替差益で利益が出ているかどうかを再度確認し、忘れずに確定申告をしましょう。
※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。
税務・会計でお困りのことはどんなことでも斎賀会計事務所までお気軽にご相談ください。
2022年12月16日に公表された政府・与党の『令和5年度税制改正大綱』に、
インボイス制度で影響を受ける事業者への負担軽減措置がいくつか盛り込まれました。
その一つが、小規模事業者の税負担を減らすための措置です。
今回の大綱では、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の企業や
個人事業主が課税事業者になったなどの場合は、
課税売上高にかかる消費税のうち、一律2割のみを納めることとできることが発表されました。
また、課税事業者の事務負担を軽減するための措置も盛り込まれています。
今回は、新たに発表された軽減措置について解説します。
小規模事業者の税負担が3年間軽減される
インボイス制度は、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式に関する制度です。
正式名称を『適格請求書等保存方式』といい、適用税率などが記された『適格請求書』のことを
インボイスと呼ぶことから、インボイス制度と呼ばれています。
通常、課税事業者は、原則として売り上げ時に受け取った消費税額から、
仕入れにかかった消費税額のうち一定の計算により算出した金額を差し引き、
その差額分である消費税額を税務署に申告・納税します。
この仕組みのことを『仕入税額控除』といいます。
インボイス制度が始まると、買い手側の事業者は仕入税額控除を受けるために、
売り手側の事業者が発行したインボイスの保存などが必要になります。
売り手側の事業者がインボイスを発行するためには、税務署に登録申請を行い、
『インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)』として登録しなければなりません。
つまり、買い手側の事業者は、インボイス発行事業者ではない事業者からの仕入れに係る消費税の額は
仕入税額控除ができないことになります。
これまで消費税の納付が免除されていた基準期間の課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者も、
登録申請をしてインボイス発行事業者になることで、課税事業者として消費税を納める必要が出てきます。
たとえば、消費税率10%の場合、400万円(税抜)で仕入れ、、年間800万円(税抜)を売り上げた場合、
売り上げ分の消費税80万円から仕入れ分の消費税40万円を差し引いた40万円を申告・納税する必要があります。
しかし、インボイス制度は、新たにインボイス発行事業者となる免税事業者への影響が大きいため、
政府・与党はこれまで負担軽減策を設けるための調整を行ってきました。
今回の税制改正大綱に盛り込まれたのは、
『令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、
免税事業者が適格請求書発行事業者になったこと
または課税事業者選択届出書を提出したことにより免税事業者でなくなった場合は、
仕入れで払った消費税がいくらであっても、
売上にかかる消費税額の2割を納税額にすることができる』
というものです。
この場合、たとえば年間800万円(税抜)を売り上げた場合、その消費税80万円の2割、
つまり納税額は16万円で済ませることができるようになります。
この負担軽減措置は、インボイス制度の開始から3年間適用されます。
少額の取引や値引きに対する事務負担が軽減
消費税の納税額が一律で売上税額の2割になるということは、複雑な計算を必要としないため、
事務的な負担の軽減にもなります。
今回の大綱では、事務負担の軽減策として、インボイスを受け取る側に対する措置も盛り込まれました。
インボイス制度の施行後、課税事業者は、課税仕入れについて、
インボイス発行事業者と、インボイスを発行できない事業者に分けて、会計処理を行うことになります。
しかし、制度の定着までは会計業務に大きな負担がかかることが予想されます。
そこで、『基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者に限り、
施行から6年間は1万円未満の少額の取引について、インボイスがなくても、
これまで通り一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が行える』
ことになりました。
また、基準期間の課税売上高が1億円超あったとしても、
前事業年度開始の日以降6カ月の期間(個人事業者は前年1月1日から6月30日までの期間)の
課税売上が5,000万円以下の場合は、対象となります。
さらに、制度の施行後は、インボイス発行事業者には、インボイスの交付と共に、
値引きなどを行った際にその値引き額や消費税額などを記載した
『返還インボイス(適格返還請求書)』の交付も必要になります。
返還インボイスは売り手と買い手の税率や税額を一致させるためのものですが、
買い手の都合で差し引かれた振込手数料などを売り手が値引きとして処理するためには、
売り手側が新たな返還インボイスを作成する必要があります。
そのため、インボイス発行事業者の事務負担の軽減を考慮し、
1万円未満の少額な値引きについては、返還インボイスの交付義務が免除されることになりました。
今回の改正では、インボイス制度の円滑な施行と定着に向けて、事業者の負担を減らすための措置が講じられました。
それでも、制度の施行後はこれまで必要のなかった会計業務が増えることになるため、
事前に準備をしておかなければいけません。
特に重要なのが、インボイス発行事業者の登録申請です。
免税事業者ではなく、すでに課税事業者であっても、インボイス発行事業者の登録をしていないとインボイスが発行できません。
忘れずに申請をしておきましょう。
また、仕入税額控除を受けるために、取引先についてインボイスを発行できる事業者とできない事業者に分け、
発行できる事業者に対しては登録番号の確認を行っておくことをおすすめします。
インボイス制度によって納付する消費税額の計算に影響があるため、事業者によっては
会計システムの見直しや新しい会計ソフトの導入なども検討する必要があるでしょう。
新たに決定された軽減措置を含め、2023年10月1日からスタートするインボイス制度に備えておくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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労働基準法(以下、労基法)では、企業は従業員に対し、無断欠勤や遅刻を
理由として『罰金』を求めることは禁止されています。
罰金のほかにも、『減給』『給与カット』といった言葉を耳にしたことがあると
思いますが、これらにはどのような違いがあるのでしょうか。
今回は、罰金や減給に関して、労基法でどのように定められているのか解説します。
遅刻やミスを理由に罰金を科すのは違法行為
労基法第16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、
または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められており、
そもそも企業が従業員に対し罰金を求めることは法律違反となります。
したがって、企業が従業員に罰金を支払わせるのはもちろん、
実際に支払わせなくとも「遅刻1回につき罰金3万円」といった規則を定めること自体が法律違反になることを
理解しておきましょう。
一方、継続して無断欠勤や遅刻などが多い従業員などに対して、企業が懲戒処分の一環として実施するのが『減給』です。
懲戒処分の一環であるため、ある事柄に対して『減給』という処分を決定したのち、給与を減額することになります。
減給となる行為などの要件について法的に明確な定めはありませんが、減ずる金額には制限があります。
労基法第91条では「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、
その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、
総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と定められています。
たとえば、Aさんの平均賃金の1日当たりの金額が1万円(月給30万円)の場合、
1回の減給として認められる金額は5,000円までです。
Aさんが異なる内容の複数事案において減給の対象となったとしても、
減給の総額が月給30万円の10分の1、つまり3万円を超える金額を減額 することはできません。
ノーワーク・ノーペイの原則
一般的に、企業が従業員に経済的な負担を強いる対応においては『給与カット』という言葉が使用されています。
この言葉は非常に広い意味で使用されていますが、実務上では、意図を明確にする必要があるため、
減給と区別する用語として、『控除』 という用語が用いられています。
控除は「賃金が発生していないので支払う義務も発生しない」という、『ノーワーク・ノーペイの原則』に基づく措置です。
労基法24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、
一定期日を定めて支払わなければならない」と定められています。
「働いた分は全部、きっちり決まった日に直接払わなければならない」ということですが、
裏を返せば、従業員が働いていない時間は賃金が発生していないため、
企業は賃金を支払う義務が発生しないと解釈されています。
そのため企業は、有給休暇外の無断欠勤や無断遅刻に対してその部分については
控除(給与カット)を行うことができます。
なお、控除の計算は、最低賃金や平均賃金のように法律上の明確な定めはなく、
企業ごとに定めている1日の給与の計算方法や残業単価の計算方法などをもとに規則で定められているのが一般的です。
今回ご紹介した罰金、減給、控除について整理すると以下のようになります。
●罰金……ある出来事に対する罰則として金銭を支払わせる。法律上不可。
●減給……ある出来事に対する懲戒処分として、給与を減額して支払う。法律の上限あり。
●控除……支払う義務が発生しない(賃金が発生していない)ため支払わない。
ただし、減給も控除も実施するには、就業規則に定めておく必要があるので注意しましょう。
実施方法に不合理な点がなければ、監督署の監査でも指摘を受けることがありません。
企業としては、罰金、減給、控除の違いや、法律上の制限についてしっかりと理解したうえで、適切に運用していきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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企業には従業員の個人情報であるマイナンバーを必要に応じて収集し、
適切に管理する義務があります。
しかし、従業員のマイナンバー制度への不信感などから提出を拒否されてしまうことも
少なくありません。
今回は、従業員にマイナンバーの提出を拒否されてしまった際に
企業が取るべき対応について解説します。
マイナンバーの提供が拒否される理由
マイナンバーの提供を拒否する従業員に対して、企業はどのように対応したらよいのでしょうか。
そのような場合は、まず、従業員に拒否する理由を聞いてみましょう。
マイナンバーの提供を従業員が拒否する理由としては、主に以下の二つが考えられます。
一つは、従業員がマイナンバー制度のことを、よく理解できていないケースです。
このような従業員は、マイナンバーが重要な個人情報であるとは認識していても、
本来の活用方法については詳しく知らない可能性があります。
そのため、なんとなく不安に感じ、企業に個人情報を渡したくないと考え、提供を拒否するのです。
もう一つは、「悪用される危険性があるから」といった理由で提供を拒否するケースです。
マイナンバーは、個人情報の照会にも使われるため、個人情報の流出や悪用を危惧する人は一定数存在します。
このような従業員は企業の安全管理が信頼できず、提供を断る場合があります。
マイナンバー提供を拒否されたときの対応
では、マイナンバー提供を拒否されてしまった場合にはどうすればよいのでしょうか。
以下に代表的な対応方法を3つ紹介します。
(1)マイナンバーの提供が義務化されていることを伝える
マイナンバーは法定調書へ記載することが義務づけられています。
まずは、従業員にマイナンバーの記載が、法律で定められた義務であることを理解してもらいましょう。
年末調整では、書類の提出にマイナンバーが必要になります。
もし十分に説明を行っても、従業員から提供を拒否される場合には、それぞれの書類の提出先に判断を仰ぐ必要があります。
(2)手続きを実行する
マイナンバーの提供がむずかしい場合には、記載せずに書類を提出することもできます。
このような場合には、無記入である理由を担当する行政機関に伝える必要があります。
ただし、書類の提出自体は可能ですが、手続きが複雑になってしまう場合もあるため注意が必要です。
(3)提出を促した日を記録する
提供を繰り返し拒否されてしまった場合には、必ず提供を依頼した日を記録しておきましょう。
企業は従業員のマイナンバーの収集と管理が義務化されているため、提供を求めた事実を正確に記録し、義務違反ではないことを記録しておきます。
マイナンバーを管理するには?
従業員とのトラブルを防ぐためにも、マイナンバーを適切に管理する必要があります。
ここでは企業が行うべきマイナンバーの適切な管理方法について解説します。
(1)専門家に業務委託する
マイナンバー管理の業務委託は法律で認められています。
専門業者へ業務委託を行うことで、コストや業務の負担を少なくするだけでなく、高い安全性が期待できます。
(2)管理システムを導入する
管理システムを活用すると、サーバーやクラウド、データベースなどでマイナンバーの管理を行うことができます。
専用のシステムでは厳重なセキュリティが施されたサーバーが使用されているため、自社でのデータ管理よりも個人情報漏洩のリスクを抑えることができます。
またデータ化して一括管理することで、紙媒体で管理した場合にみられる煩雑さも解消できます。
マイナンバーは法定書類を提出する際に必ず必要になるため、未提出の従業員に対しては、提供を呼びかける必要があります。
企業には、従業員が提供を拒む理由をきちんと聞き出し、不安を取り除く努力をして回収することが求められます。
提供した従業員からの不満が出ないように配慮しながら、理解を求めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
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